第3話「翌朝」
ろくに食事もとらないままいつの間にか寝てしまっていた。
今日が祝日だったのが唯一の救いかもしれない。はたまた、彼女なりのやさしさなのか。
いつもの目覚ましアラームは鳴り響いたままだ。
それを止めていつものように「おはよう」とメッセージを送ろうとして、もうその必要がないこと、そんなものを送る相手がいないことを思い出し、スマホをベッドに投げ捨てた。
まずは風呂からだ、言い聞かせるようにしないと体が動こうとしない。当たり前にできていたことがこんなにも簡単にできなくなるとは。巷では風呂キャンセルだとか、歯磨きキャンセルみたいに言っているが、恥ずかしくて自己申告できたものじゃない。
シャワーを浴びながらどこで間違ったのかを考える。
間違った?
間違いってなんだ?
なら正解や明確な答えがあるのか?
それでも、自分の中から際限なく湧き出てくる。
いわゆる思い当たる節、というヤツ。
走馬灯みたいに見えてくる景色は、やがて思い出という形になって俺を追い詰めようとしてくる。昨日よりも冷静な頭で停止のボタンを押して、その映像を止めた。
風呂から上がって体をふいている間も同じようなことを考えていた(気がする)。ドライヤーのスイッチをオンにした瞬間に聞こえた轟音がノイズになって思考を停止させる。
他に考えなきゃいけに事があるだろう。
仕事のこと。金のこと。趣味のこと。
―――これからのこと。
これからって何だろうと思う。彼女のいないこれからはどこにあるのだろう。
これから、一生、死ぬまで…
覚悟を決めていた。
当たり前だと、これが誠実さであると。こうあるべきだと。
人生ってそーゆーもんなんだって言い聞かせて、これが幸せだと、心のどこかで疑いながら。
その未来がなくなったときの保険や、打算なんて無くていいと、無いべきなんだと。
冷静な自分が何を分析しているのかわからなくなってきて、自分が冷静でないことを察した。
今、自分は悲しいのだろうか、寂しいのだろうか、
それとも、
ほっとしている?
自由だと思っている?
それは嬉しい、ということなのか…?
たぶん、それは違う(はずだ)。
雑にレンジに放り込んだ白米が出来上がった音と同時に考えるのをやめた。
もう、考えたくない。
そう考えながらなんの味も感じない米を腹に押し込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます