降雪地帯《スノーフィールド》の不正狙撃手《チートスナイパー》

アーカーシャチャンネル

前編、そのきっかけ

 それは、あるSNS上のつぶやきから始まったといってもいい。


 ハッシュタグなどもなく、そこまで盛り上がっているジャンルなのかと言われると、そうでもなかった。


 アニメの話題とかであればSNS上のトレンドを見ればわかるが、これに関してはそこまでの話題には至っていない。


 つまり、ある種のマイナーなジャンルの話にすぎない……という事だったのである。


 ある状況が変化する、その時までは。



【このゲームって、雪が降るという事はあったのか? そこからスナイパーライフルの一撃で決着。明らかにチートの部類だろう】


 ポストと共に添付されている動画では、確かに吹雪にも近いような雪によって視界が不良になったフィールドが見える。


 うっすらと見える背景は、廃墟の類ではなく市街地なのだろうか? 上空は吹雪なので空の果てが見えるわけもない。


 そのフィールドからしばらくして聞こえたのは、一発の銃声。音としては、厳密にリアルな銃からサンプリングしたわけではないので、明らかな作り物だろう。


 その一撃が命中したプレイヤーは沈黙した。つまり、相手プレイヤーの勝利である。吹雪の影響で、その姿は確認不可能だが……。


 ゲーム中のゲージでも、相手プレイヤーのライフゲージが全く減っていないことが、その証拠だ。


 パワードスーツのロボットバトルものであるアクションゲーム、このゲーム中では雪が降ることはない。


 天候という概念は存在するものの、それは雨や晴天と言った物であり、雪は降らないはず……なのだが、雪が降ること自体が異変と言える。



 このポストを行ったのは、ある程度の実力を持つゲーマーだった。全くの素人プレイヤーではないので、よっぽどの緊急事案なのだろう。


 フォロワー数は数万と言う規模だが、メーカーの公式アカウントもフォローしている等の知名度はある人物だ。


 プロゲーマーではないのだが、プロゲーマーの数人にも顔がきく。それ位の有名人であった。


 この案件をいわゆる有名税や炎上商法で片づけるには……ちょっと疑問になるやり取りもあったのである。


 

 そして、この動画を巡って、どういうやり取りが行われていたのかと言うと――。



【それ以上に気になるのは、一発の銃声は確認できることだ。まさか、一撃?】


【まさか? 武器の攻撃力を上げるようなチートを見過ごすと思うか?】


【武器がチートと仮定しよう。それで、天候を雪にする理由があるとは思えない】


【実は戦っていたのが、単独のプレイヤーではない。複数人だったのだ、と。だから吹雪で隠す必要性があった】


【それこそあり得ないぞ。ゲームはプレイヤー同士の対戦モードでも1対1形式……のはずだろう】


【ダミーオプションのような部類は実装されていないはずだ。それこそ、他の漫画などの見すぎだろうな】


【武器はスナイパーライフル系……最近になって弱体化ナーフされていた話を聞く】


【スナイパーだと動かなくてもある程度はスコアが出せるのでランキングに影響がある、だったか……】


【この仕様の穴を突いて、ランキングを荒らしているのか】


【ランキング上位に入ったとしても、このゲームでは特に賞金などは出ていないはず】


【それもそうだな。しかし、ここ数日はゲーム実況やプロゲーマー、果ては企業勢VTuberも参入している。そこに知られて炎上するのもダメージが大きいな】


【唯一の救いは、これをテレビのワイドショーなどが取り上げていない事か。アフィリエイト稼ぎのまとめサイトは取り上げているが】


【下手にガーディアンのような組織が関与したら、それこそアウトだぞ……】


 このようなやり取りが繰り返され、その時に出た結論としてはこうだ。


【このゲームのランキングを荒らすプレイヤーが現れた】


【運営よりも先に、降雪地帯スノーフィールド不正狙撃手チートスナイパーを討伐するべき】


 この2つだけが読み取れたのは間違いない。他にも専門用語が飛び交う投稿もあったりしたが、そうしたものはざっくりと割愛する。


 一つ明確に言えることは、このゲームの評判を落とそうと悪意を持って動画を投稿したのではない。


 ある意味でも、このゲームを守るために力を貸してほしい……というニュアンスを含んだ投稿だった。


 まとめサイトでは、そうした事情は一切関係なしに、要するに『バズって』まとめサイトに利益が入れば……という理由で取り上げる箇所がほとんどだろう。



 ゲームにおける不正ツールの使用は、もちろんガイドライン違反として即通報される。


 実際、他のソシャゲでも調査の上でチートと判明すればアカウントは凍結され、最悪なケースでは損害賠償だって当たり前。


 それ位のレベルでソシャゲなどに対するチート行為が厳格化され、数百億円規模の損害賠償だって大きくニュースで取り上げられたのも……ごく最近だ。


 こういう事情になったのも、ゲームが単純にコンテンツとしてではなく、イースポーツで重要な立ち位置を持つようになったことやARゲームのようなリアルスポーツにも近いゲームが流行したことも理由になるだろう。


 しかし、このゲームの場合は企業が運営しているようなゲームではない。ある意味でも同人ゲームのオンラインモードである。


 オフラインであればツールが許容されるようなケースも過去にはあったが、今は様々な箇所でオンライン化が進んでいるので、チートが入っていれば即アウトであるケースは多い。


 それを開発が黙認してしまえば、それまでの話にはなるだろう。中には1人プレイ必須のゲームで理由もない複数人プレイとか……チートの種類も様々だ。


 しかし、最近になって有名な実況者やプロゲーマー、果ては企業勢のVTuberまでこのゲームの配信を行っていたという現実問題も浮上している。


 規模を考えると、ここまで来たらチートを放置する方が後に問題を引き起こしかねない。企業勢の事務所が裁判を起こしたら、それこそ大惨事に……。



 そこで、このゲームのプレイヤーたちが考えたのは、開発スタッフよりも先にチートプレイヤーの狙撃手スナイパーを片付けよう、という事のようである。


 動画を見る限りでは、そこまで実力のあるプレイヤーではない。ここ数日で参戦したばかりのプレイヤーだろう。


 その動きは、ゲームに適応していないようなものもあった。つまり、降雪と言うチートに頼り切ったプレイ、と言えるかもしれない。



「これは困った」


 ゲーミングパソコンを前にして、椅子に若干もたれるように座っていたのは、一人の男性ゲーマーだった。身長は170位で体格は普通……というべきか。


 椅子と言っても、いわゆるビジネス用のいすなどではなくゲーミングチェアの類である。プロではないものの、そこそこ有名なゲーマーでもあるのだろう。


 椅子のサイズを踏まえれば、身長に合わないわけではないのだが……座り心地としては若干微妙かも。


「配信まで1時間はあるが、今からタイトルを変えるにしても……」


 このゲームのプレイ配信をしようと思った矢先に、一連のチートプレイヤーの話を耳にしてしまったのである。


 タイミングとしては非常に悪い。しかし、配信するゲームは既に発表してしまった。


 他のゲームを配信しようにも、ガイドライン的に収益化が出来ないものも多い。


 それに、ネタバレ的な意味でも配信できる範囲を越えてしまった作品もあるので、迂闊にネタバレ個所の配信は出来ないのだ。


 そんな中で、この話を聞く2時間ほど前にゲームを発見し、その対戦配信が盛り上がっているという話題も耳にしている。


 動画サイトでも対戦動画が多数アップされているし、フォロー中のプロゲーマーの数人も該当作品をプレイしていた事も……このゲームを選んだ理由のひとつだ。


 このゲームの配信を楽しみにしているファンには申し訳ないが、タイトルを変えようにも……すでに告知済みで変えようがない。


 急な差し込みでゲームを変えざる得ない、と言うのもあるかもしれない一方で、その場合は後半が雑談枠になるしかないというのも弱点か。


 今から別のゲームを探すにしても、時間がかかりすぎて間に合わない……と言うのもあって、変えようがないという不安がある中、色々と考えていた。



(配信に使えそうな別のソフトは多いが、今回ばかりはタイミングが悪い)


 他のプレイヤーも配信しているのもあって、視聴者が移動しかねない……というのもあるのだろう。


 だからこそ、今回は外せない事情があった。人気タイトルを使い、何とか視聴者を増やして収益化を目指そうと考えている。


 丁度、このゲームは収益化済みな企業勢VTuberも配信しているし、海外のイースポーツ大会でも採用されているタイトルなので、ある意味でも都合が良かった。


 これだけ知名度の高いゲーム配信ならば、自分の名前をアピールするにはもってこい、と。


「仕方がない、ここは最後の切り札を……」


 配信まであと30分、彼は様々なパワードスーツからよさそうなものを探していた。


 相手の使用しているのはスナイパータイプ。この作品はカスタマイズこそ売りにしている箇所だが、それ以上にプレイヤーの腕も求められる。


 武器の強さも一長一短で、スナイパータイプは近距離に弱いという三すくみにも似たような欠点があった。接近されるとなすすべがない、と言うべきか。


 逆に近距離が弱いとする距離は中距離武器、いわゆるアサルトライフルなどの系統だ。接近しようにも一定の距離を確保されやすい、と言うのはあるだろう。


 自分にあった武器を使い、それを自分の手足のように自在にして……と言うような挙動が求められる。


 そう言ったアクションに関して、このゲームではアクションポイントが加算されるシステムとなっていた。


 おそらく、チートを使っている相手プレイヤーは、その事実に気づかない。だからこそ、スコアが微妙で上位ランカーに抜かれてしまうこともザラ。


 実際、動画の投稿されたタイミングでチートプレイヤーの順位は10位以内だったのが、彼が配信を行おうとしていた時には50位くらいまで落ちている。


 しかし、これ以上のチートツールを使い、ゲームを荒らされるのも非常に危険と言えるだろう。


 このゲームではなく、他の企業系ゲームに次の標的としてチートプレイヤーが向かったら……という最悪のシナリオも彼は考えていた。


 だからこそ、ここでチートプレイヤーを止める、と。

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