【Web再録】町中怪談 part サツキ

丑三五月

スープ


 もぉ、話って何かと思ったら、また恐怖ネタの事ですか?


 私苦手だって言いましたよね?それなのにわぁ!怪異の宝箱や〜みたいな扱いされても困るんですけど!?

 そりゃあ確かに渡部先生の事件からこう、怖い物が寄って来やすくなったというか……私だって嫌なんですよ!?っていうか警察だってあれは変死って言ってたじゃないですか。絶対人間が関わってるんです。私は、おばけなんて信じませんから。なのにレーベルまでホラーに回されちゃって……ううぅ、いつかパワハラで訴えてやる……!

 で、恐怖ネタでしたっけ?仕方ないですね、これも原稿回収、ニコニコホワイト締切厳守の為にもこの須藤有梨沙が一肌脱ぎましょう!



 えっとこの話、渡部先生の一件のすぐ後になりますかね。あの事件、あまりに衝撃的で、流石に私も精神的に参っちゃったというか……二ヶ月程お休み頂いたんですよ。警察とかにも色んな話するようでしたし、心身的な理由もありますし。先生の担当になったのはその後だから、多分お話するの初めてだと思うんです。

 先生は色野町って知ってます?あ、そうそう!結構ホラースポットとかで有名ですよねあの町。流石先生〜。

 で、色野なんですけど、彼処温泉街としても有名なんですよね。出店通りとかもあって雰囲気素敵なんです〜またゆるキャラのおけっぴーちゃんが可愛くて。え、あの、桶頭の妖精みたいなやつなんですけど……化け物とか言わないで下さいよ!妖怪でもないです!可愛い!可愛いんです!!ほらこれ、キーホルダー!可愛いでしょ!?おばけじゃない〜!可愛いの!!

 話逸れましたね、すみません。で、私傷心だったもんで友達に心配されまして……っていうか色々重なったんですよ。友達の一人が行方不明になったり、彼氏と別れたりして……で、折角長期のお休みだしって温泉旅行に誘われたんですね。

 今だからこんな感じだけど私本当にまいってて、貯金も切り崩してたし本音言うと外にも出たくなかったんですけど……なんか、お安くお部屋も取れたっていうから、行ったんですよ。

 この時点で怪しめってやつですよね……今なら分かるんですけど、でもこの頃は私、そんなに怪異の宝箱とかじゃなかったんで。

 それで、友達と電車で行ったんです色野。

 行ってみたら色野って結構開発進んでて、バスも通ってるし住めば都って感じ。結構良かったですよ。先生も執筆捗るかもしれません。ネタも多そうですし。今度カンヅメします?……冗談ですよ。え?目が笑ってない?またまたぁ。

 温泉街も素敵で、お饅頭とか美味しかったです。山の上に展望台もあって、人並みに観光してお宿に入りました。そこも古くからある所みたいで、全体的に木目調の作りとかとっても素敵でした。家族経営のアットホームな感じも隠れ家的な要素強くていい感じだし、まああんな事無ければ、また一人でも行きたいなって思えたんでしょうけど。

 そのお宿、沼縁亭っていうんですけど、なんか不思議ですよね。近くに沼なんて無いのに沼縁亭。女将さんに由来を聞いてみたら、なんでも、昔は町の中心に大きい沼があったんだとか。都市開発で埋め立てちゃったんですって。

 で、昔から沼には目に見えないもの達が宿ってるとか噂があったんですって。……一言言っていいです?


 そんな大事な場所埋め立てんなよ!


 やばいですよね?そんなの絶対!!

 まあ案の定まずかったらしくて、女将さんからは結構不思議なことが起こるんです〜みたいなふんわりとした発言頂いたんですけど、座敷わらし的なものじゃ無いなって私の第六感がその時点で警告発してました。はい。

 でも三泊するって言っちゃってたし、お金も払っちゃったし、キャンセル料勿体ないしもう逃げられませんでしたっちゃんちゃん!泣いてませーん!

 そんなこんなでビクビクしながら泊まってたんですけど、天然温泉の大浴場綺麗だったし、お部屋素敵だったんで、段々「あれ?大丈夫かな〜」とか思って忘れてたんです。やばいな〜って思ったこと。

 でも最後の日に、ちょっと私体調崩しちゃいまして……その日初めて、部屋のお風呂使ったんです。

 お部屋にはちゃんとトイレとお風呂がついてたんですけど、その時友達は大浴場の方にいっちゃってたし、部屋には私一人でした。

 で、とりあえずお湯を張って、でもだるくて暫く畳の上でゴロゴロしてたんですけど、なんか、お風呂場からちゃぷって音がしたんですよね。

 雫の音かな?とか思ったんですけど、その時、部屋の中に変な臭いがする事に気がついて。

 あれです、温泉特有の硫黄の匂いとかじゃないんです。もっとこう……鼻が曲がりそうな臭い。

 嫌な予感がしましたよ。すごく。少し前に担当の先生の死体とか見つけちゃってたから余計。でも友達も大浴場だし、なんの確証もないのに旅館の人呼ぶのも気が引けて……しょうがないから、お風呂場の確認に行ったんです。

 お風呂場は電気がついてなくて、私が行った時にはあの、変な音もしませんでした。でも、臭いがすごくて。もう本当に鼻もぎとって捨てたいくらいで。おかしいですよね、泊まってた前二日間はそんな事無かったのに。

 で私、この時点で旅館の人呼べば良かったのに、電気つけちゃったんですよ。やめときゃ良かったですホント。


 照らされて見えた湯船は、ドロッドロでした。


 お湯がどす黒くなってて、黄色なんだか、白なんだかよく分からない油みたいなのが浮いてて、真ん中にね、塊みたいなのが浮いてたんですよね。

 その塊、まだ辛うじて眼球は残ってて、瞳孔開いてるのかくすんだ瞳が、スープに浮かんだお野菜みたいにぷかぷかしてました。

 ちゃぷんって水が揺れる音と同時に、私絶叫して部屋を飛び出して、フロントに居た旅館の人にすがりついたんです。部屋のお風呂で人間スープ出来上がってます!って。

 普通そんな訳わかんない言われたらちょっと戸惑うじゃないですか?それで事件かな!?とか慌てるじゃないですか。でも沼縁亭の人はそんなことなくて、むしろああ〜成程、みたいな顔してて。

 その人私をフロントに置いて、部屋の確認に行ってくれたんですけど、私やっぱ一人じゃ怖くて、後を追ったんです。で、部屋に着いたら臭いとか何にもなくて……お風呂も綺麗なもんでした。さっき見たものぜーんぶ、跡形も無いの。

 嗚呼、私やっぱ精神的に参ってるのかな……とか思ったんですけど、旅館の人はなんでか、残り一泊なのに部屋を変えてくれて、しかもちょっとグレード上がってて。お風呂から帰って来た友達は訳わかんないって顔してました。

 その時はそれで終わったんですけど、やっぱ私ちょっと納得出来なくて、あの旅館の事調べてみたんです。

 沼縁亭自体には調べても調べても何にも噂出てこなくて、むしろそれが色々もみ消されてるみたいで不気味だったんですけど、その……近くに店通りあるじゃないですか?そこで一つ気になる噂があって。

 私が行った時には改装中だったんですけど、そのお店通りにラーメン屋があったんですって。そこの店主、独り者のおっさんだったらしいんですけど、昔露天風呂の覗きで捕まった事あったらしくて。地元の人の間ではすけべ親父って有名だったみたいです。

 で、当然お店も閑古鳥鳴いてて、勝手にお休みするとかざらだったんですけど、ある日通りのお蕎麦屋さんが「流石に全然姿見てないな」って思って様子を見に行ったんですって。

 ……先生ならもう予想ついてますよね?そうです、そのおっさん、お風呂場で死んでたみたいです。お店ご自慢のドロドロ豚骨スープよりもっとドロドロになって、じっくりコトコト煮込まれた感じになってたみたいです。

 丁度寒くなって来た時期だったから、寒暖差で脳の血管をやっちゃったのか、心臓やっちゃったのかってところですね。この噂読んだ時暫くラーメン食べれませんでしたよ。あ、でも今日のお昼ラーメンでしたけど。餃子もつけました。美味しかったです。原稿上がったら今度一緒に行きますか。

 とまあ旅館のご近所でおっさんスープが見つかったからって、出た幽霊がそれとは限らないわけなんですが……そのおっさん、懲りないんですけど、死ぬ直前までやってたみたいです。覗き。地元の女子高生なんかは知ってたみたいですけど、証拠が無いから逮捕されなかったとか。

 ここからはあくまで私の想像でしかないんですけど……


「そのすけべ親父、死んでからも覗きをしたかったんじゃないかって感じ?」


 えーっちょっと先生!大オチ言わないで下さいよぉ!

 はぁ、まあ多分そうなのかな〜って。あのちゃぽんって音は多分、飛び出しちゃった目玉を動かしてたからなんじゃないかな、とか思っちゃいました。

 よくエッチなこと言うと幽霊って逃げるって言いますけど、元が人間ならそうかな?もっと煩悩まみれじゃない?って思うことありますし。すけべ親父なら余計ね。

 はい、私の話はこれでおしまいです。

 先生も原稿行き詰まっちゃったりしたら、カンヅメに行ってみたらどうですか?沼縁亭。

 立地的にもネタに困らなさそうですし、運が良ければおっさんスープに会えますよ。まあ、男の人の部屋にも出てきてくれるのかは分からないですけどね。


 男の部屋に出てきたらそれはそれで怖い?……確かに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る