第42話 プレイボール・ネームコール
とは言っても、情報はまだ不確からしいので流すのはもう少し先とのこと。今はこのままで進んで行くしかない。
そして始まった三学期。学年末テストなどがあるが、まずはじめの関門は〝球技大会〟だろう。
「うし、調子乗ってる三年生をぶちぶちにするぞーー!!!」
「「「「「オオオォォ!!!!」」」」」
――球技大会当日。
俺たちのクラスは熱気に包まれており、グラウンドで雄叫びが上がる。
俺はもちろん乗り気でない。なぜ運動神経が悪い生徒を炙り出し、嫌な空気にしてしまうような大会なんて開くのだろうと考えていた。
「はぁ……やだなぁ、球技大会」
「そうですね。体を動かすのは受け付けません」
皆と同じく体操着に着替えて、憂鬱そうな顔をしている冬姫に同意を求める。
夏織は運動が好きだから張り切ってるし、晶くんも楽しそうだ。やはり癒しである。観戦席にずっと居たいものだ。
「さて、ではせっかくですので勝負しますか♪」
「……あー、なんか久々な気がすんな。今のライフって確か……27とかだったか?」
「はい。着実に減らすことに成功しております」
「マズイな……」
正月にもなんやかんやで勝負をしていたのだが、そこで何回か負けてしまったから少しずつ減ってしまった。
まだまだ余裕はあるが、巻き返さなければ不安が拭えないだろう。
「わかった。どんか勝負をするんだ?」
「そうですね……。芹十くんがよろしければ、今回はワタクシと夏織さんの一騎打ちとかはどうです?」
「まぁいいが……アイツに運動で勝てるつもりなのか?」
「いえ、今回は〝試合中に生徒から名を呼ばれた回数が多い方が勝ち〟というのはどうでしょう?」
確かにそれなら運動神経に差があったとて、十分に勝てる可能性はあるだろう。
工夫が必要な気がするが、冬姫なら問題なくこなせられるだろうと思えた。
「夏織はどうだ? この勝負、引き受けるか?」
「ん。そりゃもちろん。目立ちまくって圧勝してあげる」
「ふふふ……ではこの勝負内容で。カウントは晶に測ってもらいましょう。平等に測ってくれるでしょうし」
「了解っスよ〜!!」
二人が試合に出るバレーボールの試合はまだまだ先で、先に俺がベースボールに出なければならない。
とっとと終わらせてやりますか……!
そう意気込み、珍しく張り切って試合に出場したのだが、やっぱりかという結果だった。
「ふんッ!!!」
「ストライクッ! バッターアウトッ!!」
「なぁにやってんだ松浦ァーー!!!」
まるで活躍できなかったし、罵詈雑言柄飛び交っている。
仕方ないだろう。こんな細い棒であんな小さい球を打てるとかできるわけがない。俺からしたら神業だぞ。
晶くんに慰めてもらいながら、俺は二人が試合をする体育館まで向かった。まだ冬だというのに、そこからは熱気が溢れている。
「芹十、来たんだ」
「おう、こっちは終わったからな。……で、さっきから自分に指を突き刺して何やってるんだ? 夏織……」
夏織に話しかけられたのだが、ビッビッと音を立てながら指を自分に突き刺していた。
「一時的に運動神経を超良くするツボ押してた」
「ドーピングじゃね?」
「これくらい合法でしょ」
「そうかな……そうかも……」
ツボ押しでポテンシャルを引き出しているなら、それはドーピングにはならない……のだろうか?
なんにせよ、夏織はとにかく試合中に活躍しまくって名前を呼ばれるという作戦らしい。
俺たちのクラスの女子たちは三つのグループに分かれ、夏織は最初、冬姫は次の試合のグループとのこと。
早速夏織の試合が始まることだし、晶くんと並んで試合に集中しよう。
「ふー……」
夏織はヘアゴムで髪を結び、集中した顔になっていた。
「やっぱり夏織さんって……」
「わかる! かっこいいよね〜」
「汐峰さん頑張ってーー!」
「っぱ俺は夏織推しだな」
「いんや、冬姫ちゃんだろ」
始まる前からあの二人の話題で持ちっきりとは、やはりとんでもない二人と幼馴染な俺もやばいのだろうか。
だが自惚れは良くないし、やばくはなりたくないので一応否定しておこう。
試合開始の笛が鳴ると、早速夏織のサーブから始まった。誰かが発砲したかと思えるほどの音が響き、相手コートに激突する。
着弾した床からは煙が上がっており、直撃したらと考えるとゾッとするほどだ。
「うぉおおおおおお!」
「夏織さんナイッサーブ!」
「バケモノ……?」
「まぁ、汐峰ってフィジカルバケモノだし」
「北○神拳使うしな、アイツ」
アレが
その後の試合も夏織の無双が続き、試合には圧勝した。名前もだいぶ呼ばれていたし、これは勝ったのではないだろうか。
「……では次はワタクシの試合ですね。行って参ります♪」
「頑張れよー。……って、敵だから頑張っては違うか」
自信満々に言って胸を張ってコートに向かうが、果たしてどのようにして勝ちにくるつもりなのか。観戦させてもらおう。
「ほいっ! そいっ!! やーー!!!」
お世辞にも上手いとは言えないプレイだったが、掛け声だけは一丁前だった。
母性本能をくすぐられるのか、観戦している他の生徒たちは微笑ましいものを見るようなツラで冬姫を見ている。
試合はそのまま進み、相手から強烈の球を取ろうとした冬姫は盛大に転んでしまった。
「ふ、冬姫さん大丈夫!?」
「えぇ……これくらい、なんともありません」
「擦りむいてるから別の人呼んだ方が……」
「いえ! この試合に勝てたら芹十くんがなんでもしてくれると言ってくれたので勝たなければいけないのです!!!」
「「「えっ!!?」」」
な、何を言ってるだァーー!! そんな約束した覚えはないんだが……。
まさか、たとえ嘘だとしても話題になるような発言をして名前を呼んでもらおうという魂胆なのだろうか。
「芹十くゥ〜ん?」
「どういうことカナ?」
「冬姫さんと何するつもりだテメェ!!」
「これは尋問が必要ね」
「よし、こいつ倉庫に連れて行け!」
だとしてももうちょっと優しめの嘘をついて欲しかったな〜!!
冬姫の方を見ると、チロッと舌を少し出して可愛らしくウィンクしていた。口パクね「ごめん」と言っていたが……くっ、許す!
……その後、なんとな生徒たちからは逃げ切って夏織と冬姫の元へ合流することに成功した。
「あのなぁ……死ぬかと思ったぞ!」
「ごめんなさい芹十くん。ですが本気で勝負しておりますので、お許しください」
「はぁ……まぁいいが」
「代わりに、ワタクシになんでもしていいですよ?」
「え、ほんと?」
「芹十っ!!!」
冬姫の誘惑に思わず手を伸ばしそうになったが、夏織から叱責されて目が醒める。
「えーっと、じゃあそろそろ結果発表していいっスかー?」
「ああ。数えてくれてありがとな、晶くん」
「とんでもないっス! えー……結果としては……。夏織さんが151回、お嬢サマが167回という結果となったっス!!」
「僅差で負けたか……」
やはりあの策略が見事にハマってしまったらしい。
手応え的にもなんとなく察していたが、意外と僅差だったことに驚いた。
「そ、そんな……私が負けたなんて……。ってか、晶ってそっち側だし! ちょっと盛ったんじゃないの!?」
「いや、僕もお嬢サマにはふつーに心中して欲しくないっス。だからどちらかというとそちらサイドっスね……」
「諦めろ夏織。ナイストライだったぞ。頑張ってくれてありがとな?」
「うー……!!」
着実にライフを削られているが、まだ大丈夫なはず。
冬姫は悔しそうに唸る夏織を押しのけ、俺のすぐそばまでやってきて、耳元に口を持ってきてぽそぽそとこんなことを言い放った。
「なんでもする、というもの……本気にしていただいて構いませんから♡」
「なッ!!?」
「したいことがあればなんでも、です♡」
それだけ言って、満足そうにこの場を立ち去る。
なんでも……美少女である冬姫になんでも……???
俺は、試合に負けて勝負に勝ったような、悶々とした気持ちになるのであった。
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