第38話 ダブルお嬢様と遊園地

「……芹十くんの異母兄妹で、近々飛び級してワタクシたちの高校に入学してくる、と。そして今日は遊園地に行きたい、という要望があったというわけですね」


 ゲームセンターに一緒に行ってから二日後。

 そろそろ冬休みも終わりに近づいてきているが、俺たちはまだ遊びつくそうと考えていた。


 というのも、あの後紗里奈ちゃんの家に行ってお母さんに挨拶をしに行ったのだ。

 若干気まずい空気が流れていたが、きちんと事情と知っていたからすぐに和解した。紗里奈ちゃんのお母さんもクソジジイは恨んでいるらしいので、敵の敵は味方理論成立というわけである。


 そして、仲良くしてくれてありがとうという意味を込めてか遊園地のチケットをもらったのだが、やはり悪いということで紗里奈ちゃんも連れて行くことにしたのだ。

 ……なぜか冬姫と晶くんもセットで。


「なんで僕らも付いてきたんスかね? モッシャモッシャ」

「疑問を持つのはいいが、早速チュロス食べてんじゃねェか。やっぱり晶くんはかわいいなぁ」

「何言ってんスかっ!! まったく……セリフくんはそういところ気をつけたほうがいいと思うっスよ?」


 まぁこの二人がやってきた理由は、遊園地に行く準備をしていたら突然家にやってきて、事情を説明したら一緒に行くと言ったからだ。

 チケットとかはまぁ、お嬢様だから簡単に用意できたとのこと。


「柞木田冬姫……。わたしの元まで名前は届いております」

「うふふ♪ それはよかっ――」

「ですが、真の脅威はそちらの天使と謳われているメイドさんだとわたしは推測いたします」

「なぜですっ!!?」


 ほう、初見でそれに気づくとは中々やるな、紗里奈ちゃん。まぁ、今の所俺の知り合いの中で一番女子力が高くて嫁にしたい人は晶くんが一位だし。

 紗里奈ちゃんの何気ない一言で撃沈している冬姫を引きずりながら、俺たちは早速遊園地の中へと入った。

 遊園地にくるのなんて子供の時以来だ。


「紗里奈ちゃん、何乗りたい?」

「そうですね……。初手はジェットコースターと洒落込みましょう」

「なんか言い方が独特だが……。わかった、んじゃ乗りに行くか!!」


 まずはジェットコースターということで、小さい子でも乗ることができるものに並んで、存分に楽しんでもらった。


「なかなかスリルあったっスね〜!」

「中々楽しむことができました」

「うぷ……なせ皆が平然としてますの……? ワタクシは拷問を味わっているようでしたわ……」

「け、結構やるじゃねェか……!!」


 晶くんと紗里奈ちゃんはけろっとしていたのだが、貧弱組の俺と冬姫は壁に手をついて青い顔になっている。

 そう言えばそうだった。俺って絶叫系とかあまり好きではないんだった。なんで忘れていたんだろう……オエ。


「次はコーヒーカップへ行きたいです」

「い゛ッ!? あ、アー……そう、か。よし、腹をくくるぞ冬姫……!!」

「わかりました……ここで終わっても構いません……!! ありったけを出し尽くします!!」


 すでに気分が悪くなっている俺たちだったが、三半規管が弱者をいたぶるコーヒーカップへと足を運んだ。

 晶くんと紗里奈ちゃん、俺と冬姫に分かれてカップに乗ったのだが、あちらのグループはグルングルンとぶん回している。


「あはははっ! セリくんとお嬢サマ全然回ってなくないっスか〜〜!!?」

「本当です、回っていませんね。やーいやーい」

「何をぅ? 回復の時を待っていただけだッ! 行くぞォォーー!!!」

「ちょ、芹十くん!? ワタクシはまだ回復できてな――」


 ――グワングンングワングンン!!!


 ちょっと力を込めすぎたのか、俺たちが乗っているカップはとんでもないスピードで回り始めてしまう。

 そして案の定、無事に力尽きてしまった。


「も、燃え尽きてるっス……真っ白に。も〜、はしゃぎすぎっスよ?」

「ハイ……スミマセン……」

「芹十くん……ちょっとどうかと思いますよ……」

「お二人とも軟弱でございます」


 お昼時となって食事ができるスペースまで移動してきたのだが、机にひれ伏す俺たちをツンツンと突いてくる紗里奈ちゃん。

 おかしいな、こんな醜態を晒すために遊園地に来たわけではないのだけれど。


 紗里奈ちゃんには悪いが、結局しばらくの間体力を回復させるためにこの場に居座ってしまった。


 完全回復とはいかないが、十分に回復し終えて再び遊園地を回ることとなったのだが、「オススメの場所へ行きたい」と小さなお嬢様からの要望が出てくる。


「それじゃあココとかどうっスか? 最恐と名高い、この遊園地じゃ有名なお化け屋敷っス!!」

「カヒュッ……」


 スプラッタ系とかなら大丈夫。だが、思い切り「呪いの」とか「幽霊」とか書いてある。俺の苦手な部類に当てはまるものだ。

 チラリと紗里奈ちゃんを一瞥してみると、顔はいつも通りポーカーフェイスだったが、小刻みに震えているように見えた。


「……もしかして恐いっスか?」

「は、ハイ〜〜? 全ッ然怖くないんだが!!?」

「なんでセリくんが食い気味に答えてるんスか……」


 思わず焦って俺が答えてしまった。

 多分晶くんにバレてしまったな……。このままではお化けが恐いと馬鹿にされるやもしれん。……メスガキ系の晶くんもいいな……。


「い、いえ。淑女たるもの、おばけなんて怖くありません。いいいいいい行きましょう」


 若干上ずっている声で、ギギギと音を立ててロボットのように進む紗里奈ちゃん。これは夜眠れなくならなければいいのだがな、お互い様に。


 ――数分後。


「もう今日の夜はトイレ行けないぜ……」

「はい……お風呂も入りたくありません……」


 無事にお化け屋敷で致命傷を負い、ガクガクと震える俺と紗里奈ちゃん。やはり血は近いらしく、こういうのも同じか苦手らしい。

 ……いや、別に血縁関係とかは関係ないか……? まぁなんにせよ、家に母さんがいない俺は無事ご臨の終だ。


 その後も観覧車や他の乗り物に乗って満喫したのだが、そのことが頭の片隅にあって心の底から楽しむことができない俺であった。

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