ドキッ丸ごと男色だらけで燃え上がる【本能寺の恋】~本当の被害者は上様じゃなくて光るキミ~
川中島ケイ
前編 あの人は『私だけ』って言ったのにッ!
拙作で「本能寺の変」に関わる部分を書いていたら物語が脳裏に浮かんで抜けなくなったのでつい出来心で書いてみました。反省はしているっ! だが後悔はしていないっ!(キリッ
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1582年、6月某日。
当時の日ノ本中を揺るがし、現代の日本史においても「歴史上の転換点」と言われる大きな事件が京の都・本能寺にて起こった。
中国攻めのために京を離れるハズであった信長の家臣・明智光秀が急遽、京へと兵を進めて信長の泊まる本能寺を襲撃。焼き討ちの上で信長とその嫡男である信忠を殺害した、いわゆる「本能寺の変」である。
信長から絶大な信頼を得ていた明智光秀がどのような理由で謀反を起こし、信長を殺害するに至ったのかは現 代でも大きな謎と呼ばれ、誰も真相を知る者はいない……のだが。
「だって……仕方がなかったのようっ!」
謀反に対して元・織田家中にいた多くの武将から狙われる身となり、味方する者も無い状況に追い込まれた明智光秀は詰め寄る家臣たちにそう言い放った。
西日本で強大な力を持つ毛利家を攻め滅ぼし、その勢いのままに織田家の全軍を持って九州まで平定する。
主・信長の言った通りの計画であれば、これから数年にも、下手をすれば10年近くにも及ぶ戦乱の中に身を置くことになるだろう。そうなる前にせめて今夜だけ、旅立つ前の一晩だけでも愛する主君の側で夜を明かしたい、そんな切ない思いを抱いて光秀は本能寺に向かったのだ。それなのに……
「なんで信さまったら私だけだって言ったその口で『お主さえいれば他は要らん、お蘭』なんて平気で言ってのけるのよっ! 大体何よ『お蘭』って、あんな若さだけが取り柄の小姓なんかがっ! 私の……私の信さまを!」
襖の隙間から蘭丸を抱き寄せる信長を見た瞬間、嫉妬の黒い感情が燃え盛り、気が付けば寺もろとも燃やし尽くしてしまった、というワケだ。しかもついでに駆け付けた信長の嫡男・信忠まで討ち取ってしまった。最愛の信長が若き日の姿と同じ姿格好で「醜い老害が高貴な父を手に掛けるとは!」などと罵られて、頭に血が上ってしまったのだ。
「殿、これからどうするのです!」
「どうするもこうするも無いわよっ! あの信長様を手に掛けてしまった以上、生きて帰れる算段は無い! 腹を括って向かってきた相手全部と戦うしかないじゃないっ!」
普段は冷静沈着で先の算段も無しに物事を起こすタイプではない光秀だが、自暴自棄になっている今は例外である。何せこれまで散々尽くしてきた最愛の主君・信長からの酷い裏切りに傷付いている上、その復讐すらできない状況に自ら追い込んでしまったのだ。
しかも生き延びて自らの家や血筋を残すという大義名分も、家族からとっくに見放された彼には残されてはいなかった。
若かりし頃は高身長・美青年・知的男子とモテ要素が三拍子そろっていた光秀だが、残酷にも年代の経過を経てそれは、ただの禿げたオカマおねぇに成り下がってしまっていた。家族からしたら旦那ガチャ失敗、詐欺物件掴まされた感が半端ないのである。時代柄、離婚はされていないが嫁からも娘からも娘婿からも別居絶縁を突き付けられて久しい身だ。
「こうなりゃ攻め込んでくる織田家臣全員、冥途の道連れにして華々しく散ってやるわよ! いいわねアンタ達!?」
息を巻く光秀に若干引き気味、どころかドン引きになり誰も声をかけられない家臣たち。その中にあって一人の甲冑武者が口を開いた。
「ほう、それは勇ましいことで」
「貴様、殿に向かって何たる言いよう! 名を名乗れ!」
「
「「「はっ、羽柴じゃとおおおおおうっ!?」」」
そう名乗った鎧武者にその場にいた全員が驚きの声をあげ、立ち上がって槍やら刀を抜き放って構える。光秀と並ぶ織田家重臣の一人である羽柴、のちの豊臣秀吉はこの時点では先に中国攻めの最前線に立っており、遠く離れた備中の地に居たはずだ。それがまさか想定外の早さで大軍を引き連れてこの京に戻ってきたとなれば、光秀たちにとっては絶体絶命の危機となる。
「まあ皆の者、槍を置けぃ! この城に紛れ込んだはワシ一人。なればいつでも討ち取る事は可能であろう? その前に光秀殿と話の1つもさせてくれんか?」
着けていた
「秀吉さま、アナタ備中で毛利と戦っていたはずではなくって?」
まずは明智側の誰もが疑問に思ったであろう事を光秀が訪ねる。すると、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに秀吉が立ち上がってこれまでの身の上話を始めた。
「最前線に置いてきたは影武者。あの大国・毛利と城を獲った獲られたの一進一退を繰り返して4年半……備中高松城まで落としてようやく、毛利に上様の望む条件で和睦を結ばせる一歩手前まで漕ぎつけた。あとは上様に備中最前線までお出でいただき和睦を結んでもらうだけという所で、ふと思いついたのじゃ! ここでワシ自らが上様にこの大手柄を伝えればっ! 上様の株も上がり、傍に置いていただける役目をまたワシに戻していただけるのではないかとっ!」
たしかに秀吉は武将として成り上がる前は、信長お付きの小姓として長らく傍仕えの身であったとは聞いていた。だがそれは出世のためにそうしていたのではなく、純粋に信長の側に居たかったという事か。そんな献身的な秀吉に光秀はちょっとだけ、共感を抱いた。
「じゃというのにっ! 本能寺に
その発言に光秀の方がびっくりした。まさか、自分と同じことを考えている者が他にも居たとは考えなかったからだ。光秀が信長の配下となった時点ではすでに秀吉は城代として各地を転戦しており、奥方衆を連れていけない戦地にて信長の夜伽の相手を務めていたのは主に光秀だけだった。
恋は盲目、とはよく言ったもので、自分の前にその役目の者が居た事など当時の光秀には想像もしていなかったのだ。信長にとって自分が元カレなら秀吉は元・元カレと言ったところか。
「信長さま……草履に限らず陣羽織も布団もワシが温めたものでなくてはと申しておったのに……」
秀吉が小姓時代に信長の草履を温めたエピソードまでは知っていた。だが草履だけじゃなく布団まで温めていやがったとなると……
「やめて秀吉! 生々しいっ!」
「じゃけんどっ! じゃけんどッ! この行き場のない気持ちはどうしたらいいんじゃ~!!」
騒ぎを聞きつけて何事かと家臣たちが詰めかけてくる……と思ったら何やら焦った様子で、どうやらこちらの騒ぎ以外にも何かが起こっているらしい。
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