37 私の物②
香月がお店に着いたばかりの頃、一花から電話が来た。
うっかりしたことでもあるのかとさりげなく電話に出た時、向こうから聞こえてくるある人の声にびっくりする。その声は香月もちゃんと知っている声。あの人がなぜそこにいるのか、お店の中でしばらく考えをまとめていた。
そのままじっとして二人の会話に集中する。
「い、一花……」
悲鳴が聞こえてくる。そしてその状況に気づいた香月は急いでお店を出た。
自分がいない間、隼人が家に不法侵入してとてもやばい状況。
そのまま急いでバス停に向かったけど、間に合わないと思った香月はすぐタクシーを呼んだ。
そしてこの電話は自分に今の状況を教えるためだと香月はそう確信していた。
「あの!!! 〇〇マンションまで! お願いします!」
「はい!」
「そ、そしてあの……! ス、スマホを貸してくれませんか?」
「はい? お客様、どうしましたか?」
「あの……! 今! 妹が……! 家で! 誰かが家に!」
焦っている香月、そして言葉が上手く出て来なくてすごく慌てていた。
声もすごく震えていた。
「…………」
急がないと一花に何が起こるかもしれない。
不安に襲われた香月の手が震えていた。
「どういう状況なのか分からりませんけど……。はい、これを使ってください!」
「あ、ありがとうございます! 本当に……! ありがとうございます!」
そしてすぐ110番に通報する香月だった。
「あの———」
……
「ここが……、一花ちゃんの部屋なんだ……。女の子の部屋に来るのは初めてだからさ。なんか、ドキドキする!」
「…………」
私をベッドに下ろした梅沢が、さりげなく私の腕を触っていた。
そしてさっきからずっと笑っていて、気持ち悪い……。
「帰れ……、ここは私とお兄ちゃんの家だから! どうしていきなり入ってくるんだよ! 不法侵入は犯罪だから、今すぐ帰れ!」
「そんなこと言わなくてもいいだろ? 俺は一花ちゃんに会いたくて、ずっと待っていたのに……。どうして俺にだけそんなに冷たいんだ? 分かんないな」
「さ、触んないで!!! 気持ち悪い!!!」
「一花ちゃん……」
「い、痛い……! お兄ちゃん……。お兄ちゃん…………」
両手に力を入れて私の腕を掴んでいる梅沢は、すでに理性を失ったように見えた。
そんなに私のことが好きなの? ちょっと優しくしてあげただけで好きになるの? 男って本当に単純だね。可愛いならそれでいい、内面はともかく顔が良ければそれでいい、そう思っている時点であんたはアウトだ。
けっこういるよね、自分のことばかり話しているどうしようもない人たち。
こういう話には慣れている。
「どうして俺のことを見てくれないんだ! 俺は一花ちゃんのために頑張ったぞ!」
「何を! 私はあんたに興味ないよ! 早く帰れ! ここは私とお兄ちゃんの家だから!」
「おいおい、ちょっと黙ってて……。なんだ、あれは?」
「…………はあ?」
「どうして……、一花ちゃんのベッドに枕が二つなんだ? おいおいおい! どういうことなんだ。違う色の枕が二つ……、もしかしてあれ……香月の枕なのか? 一花ちゃん、香月と同じベッドで寝ていたのか? 今までずっと? ずっと……、一緒に寝ていたのかよ!」
「それはあんたと関係ないでしょ? 私のお兄ちゃんだから!」
「関係ある! どうして兄妹同士であんなことをするんだよ! それこそ犯罪だろ? 俺がいるのに、どうして香月とあんなことをするんだよ! 羨ましい、羨ましい、羨ましいんだよ!!!!!」
そのまま私をベッドに倒した梅沢が、力ずくでパジャマの上着を破った。
このパジャマ、お兄ちゃんが私にプレゼントしてくれたパジャマだったからけっこう気に入ったのに……。
ああ……。
「説明……、してくれるよね? 二人は付き合ってないよね? そうだよね?」
そろそろ、電話を切った方がいいかも。
それに梅沢……何気なく私の太ももを触っている。このクズが———。
「やって……ないよね? 香月と。一花ちゃんの初めて……は、俺じゃないとダメなんだからさ。やってないよね? 早く、早く答えてくれ! 一花ちゃん!!!!!」
「…………」
こっそり電話を切った後、すぐ爪であの人の顔を引っ掻いた。
「うっ……! くっそが! な、何をしてるんだ!!!」
そして思いっきりあの人を腹を蹴る。
「あんたみたいなゴミは死んだ方がいい……。生きている自体が迷惑だから! 何も知らないくせに……」
「うっ……! 一花ちゃん……、その言い方はひどいね!!!」
「うっ———!」
逃げようとした私の髪を掴んで、そのままベッドに倒した。そして頬を叩かれる。
やっぱり、私の力じゃ敵わないかも……。
こうなったら、お兄ちゃんが来るまで時間を稼ぐしかないね。
「あははっ。高校一年生のくせに、エロい下着履いてるじゃん。これ……香月に見せたことあるのか?」
「…………だ、黙れ……。クズ……」
「そして下は……、ピンクかぁ」
そう言いながら何気なく私のショートパンツを脱がす梅沢に、私は噛み殺す覚悟であの人の腕を噛んだ。
すると、血が出てきた。
「はあ!? マジかよぉ!!!!!」
そして声を上げる梅沢にまた頬を叩かれる、思いっきり三回。
すごい音が部屋の中に響いていて、目の前がぼやけて見える。私は何もできず、その場で殴られていた。
「こんな状況で強がるなんて……、可愛くないね。ううん……、こうなったらやるしかないな。ゴムは持ってないけど、最初から責任を取るつもりだったし、いいよね? 一花ちゃん」
「おい」
その時、お兄ちゃんの声が聞こえてきた。
「か、香月……?」
「お前……、そこで何をしているんだ? 俺の妹に……、何をしているんだ?」
「ちょ、ちょっと! これは! ちゃんと説明———」
お兄ちゃんが理性を失った。
そうなるよね、この格好を見ると……お兄ちゃんは怒るしかないよね?
やっと来た。私のカッコいい王子様が来た。私を救ってくれるために———。
「ちょっと! 香月……、落ち着いて! 落ち着いてよ! 俺はただ……!」
「なんで一花があんな格好をしてるんだ? お前、一体俺の妹に何をしたんだ?」
「いや、これはごかいぃ———」
「やっぱり、お前なんか……」
「…………っ!!!」
私の前で思いっきり梅沢の腹を殴るお兄ちゃん、その一撃に彼はすぐ膝をついた。
そのまま梅沢の髪を掴んで、引きずって外に連れていく。その後、外で何をしたのかは分からない。お兄ちゃんが部屋のドアを閉じたから……、私はそのまま部屋の中でじっとするしかなかった。
外から人たちの声が聞こえてきたけど、それは多分お兄ちゃんが呼んだ警察だと思う。これで梅沢は終わり。マンションの防犯カメラを確認すれば、不法侵入ってことをすぐ分かるはずだし、そしてお兄ちゃんならちゃんと解決してくれるから心配はしない。
これで一件落着———。
「一花? 入っても……いいかな?」
それから数分後、お兄ちゃんがノックをした。
「う、うん……!」
そしてお兄ちゃんの目が合った時、私は涙を流した。
そのまま震えている声でお兄ちゃんを呼ぶ。
「お、お兄ちゃん……。こ、こ、怖かった……。怖かったぁ…………」
「ごめん……。一花、ごめん……。遅くなって、ごめんね……」
「お兄ちゃん……。私のこと……、ぎゅっとして…………怖い。怖かった」
「うん……」
お兄ちゃんはやっぱり優しいね。
そして……、別に怖くなかった。あれは想定内だったから……お兄ちゃんが来るまで少し我慢をすればいい。すごく気持ち悪かったけど、我慢をするだけで欲しいのが手に入るならそれもいい選択肢だと思う。
やばい、嬉しすぎて笑いが出ちゃいそうだ。
「ねえ、お兄ちゃん……」
「うん、一花……」
「私……、ちゃんと抗ったよ……。お兄ちゃんが来るまで……、ちゃんと……抗ったからね。何もされてないの!」
「そうか? でも、顔が真っ赤になってる……」
「ちょっと殴られただけだからね……。気にしないで」
「ごめん……、一花。本当にごめん、そばにいてあげられなくて、俺のせいだ。俺が一花を一人にさせたから、こんなことが……起きたんだ……」
「ううん……、これはお兄ちゃんのせいじゃないよ。そんなこと言わないで」
そのまま部屋の中でお兄ちゃんとくっついていた。
そして梅沢に殴られたところがすごく痛かったけど、それより笑いを我慢するのがもっとつらかった。
「へへっ……。お兄ちゃん温かい!」
「…………」
これでお兄ちゃんはすごい罪悪感を感じるよね? 幼い頃からずっと言ってたことを守れなかったから……。叩かれて真っ赤になった顔、破れたパジャマ、そして脱がされたズボン。こんな私を見て、お兄ちゃんは何を考えているのかな? すごく気になるけど、今はぎゅっとお兄ちゃんを抱きしめるだけだった。
私はお兄ちゃんがいないと何もできない。
だから、ずっとそばにいて、ずっと……私のそばで私を守ってくれるの。
これで分かったよね? お兄ちゃん……。
私のことを大切にして、私のことを優先して、私はお兄ちゃんのすべてだよ?
そして私もお兄ちゃんしかいないから、お兄ちゃんが私のすべてなの。
「ごめん……」
「なんでお兄ちゃんがそんなことを言うの? 私は……大丈夫だよ。お兄ちゃんが来てくれて、もう終わったから……。そして何もされてないよ? 私、最後までちゃんと抗ってたから……」
「ごめん……。もう、一人にさせないから……。ごめん、一花。本当にごめん……」
「そんなこと言わないで、お兄ちゃんが泣くと私も悲しくなるから……泣かないで」
親指でお兄ちゃんの涙を拭いてあげた。
どうやら、すごいショックを受けたみたい。
「ごめん……。一花」
「禁止……。ごめんって言うのは禁止…………」
「うん……。ごめん……」
「もう……、禁止って言ったのに……」
お母さんはお兄ちゃんに私のことを大切にしてあげてねってそう話した。
そしてお兄ちゃんがそれに「はい」って答えたのを私は知っている。
こっそりお母さんのところに行くのを見たから……、私もこっそりお兄ちゃんについて行った。そしてお兄ちゃんが背負っているその責任を私はちゃんと知っている。でも、その責任がいつ終わるのか分からないから、ずっと……いや永遠に責任を取ってほしかった。
だから、私はこんなやり方しかできないの。
「お兄ちゃん……、私……お願いしたいことがあるけどぉ」
「何……?」
「あの先輩が……、勝手に私の体を触っててね。それが気持ち悪くて、なんっていうか不安でね……」
「うん……」
「お兄ちゃんとキスがしたい。お兄ちゃんを感じたい……。キスしてくれない?」
「…………」
「キスをして、私の不安を消してほしいの。ダメ……かな?」
人差し指でお兄ちゃんの唇を触っていた。
そして悩んでいるお兄ちゃんと目を合わせる。
「うん、しよう……。しよう。キス……、やったことはないけど……。一花がやりたいなら……、いいよ」
「やっぱり……、私にはお兄ちゃんしかいない」
そのままぎゅっとお兄ちゃんを抱きしめて、軽く唇を重ねた。
やっぱり、大人のキスは……すっごく気持ちいいことだったね。
お兄ちゃんの舌の感触。暖かくて、ぬるぬるして、その感触が気持ちよすぎて頭の中が真っ白になる。二人ともキスは初めてだから下手だったけど、それでも最善を尽くしていた。お互いの感触を感じていた。
やっと、できたね。お兄ちゃんと大人のキス———。
「…………」
私はね、あの人に殴られたことで落ち込んだりしない。不安になったりしない。
殴られて体が痛いのは仕方がないこと。でも、その痛みはいつか消える。
私が一番怖がっているのはお兄ちゃんがいなくなること。それは絶対消えない傷になるから、永遠に私を苦しめるから。だから、私は何があってもお兄ちゃんを束縛する。少しずつゆっくり……、お兄ちゃんのすべてをコントロールできるようにならないといけない。
お兄ちゃんに私以外の人間関係はいらない。
「うっ……♡ もっと……! ねえ、もっと……! まだお、終わらせたくない! もうちょっと……! お兄ちゃん……」
「うん、分かった……」
「うん……♡」
これからもずっと私の物だよ、お兄ちゃんは。
これが本当の「幸せ」———。
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