人型機械たちの星間航路

星灯ゆらり

採用面接:新旧人型機械

銀河の片隅、宇宙ステーション「クルーシブル・ネスト」は絶え間ない喧騒に包まれていた。貨物を積んだドローンが無数の格納庫を行き来し、補給物資の積み下ろしを手伝う作業員たちの声が響いている。ステーション全体が活気に満ちているように見えるが、その光景を見下ろす古びた探査船の船長、リュナの表情はどこか沈んでいた。


エクリプス・ホライゾン。長い航海の傷跡を至るところに残したその船体は、時代遅れの技術の塊だった。多くの探査船が最新のスリムな設計に改修される中、この船だけは頑丈だがどこか垢抜けない外見を保っていた。


リュナは船の操縦席に座り、パネルに映るステーション内の依頼掲示板を無表情に眺めていた。


「また安い仕事ばかりね……」


声に感情はこもっていなかった。補給用の燃料は残りわずか、修理も一部は先延ばしにしている。船の維持費を考えると、高報酬の依頼を見つけなければいけないのだが、このステーションでの選択肢は限られていた。


掲示板には小さな配送依頼や簡単な修理任務が並んでいる。


「惑星間の配送、報酬300クレジット……。貨物は‘研究用サンプル’。ふむ、悪くはないけれど」


リュナは指を動かし、詳細を確認した。距離はさほど遠くないが、ステーションの規模から考えると割に合わない金額だ。燃料と補給品をギリギリカバーできる程度の収入に過ぎない。選択肢が限られている以上、これを受けるべきか悩んでいると、突如コンソールが小さなアラート音を鳴らした。


「何?」


リュナが眉をひそめて警告メッセージを確認すると、ステーションの接続回線を通じて外部から通信リクエストが送られてきていた。発信元は不明。リュナは一瞬だけため息をつき、応答ボタンを押す。


画面に映ったのは、明るい笑顔を浮かべた小柄な女性型機械だった。肩にかかる銀色の髪と、親しみやすい表情が特徴的だ。


「こんにちは! エクリプス・ホライゾンの船長さんですよね?」


リュナは一瞬警戒の色を見せたが、すぐに淡々とした声で答えた。


「そうだけど、何か用?」


女性型機械—ソレアと名乗った—は、満面の笑みを崩さないまま言った。


「実は就職活動中なんです! この船、すっごく魅力的じゃないですか! 私、ぜひ手伝わせてください!」


リュナは呆れたように目を細めた。


「……悪いけど、雇う余裕なんてないわ。他を当たりなさい」


しかしソレアは全く引き下がる様子を見せない。


「そんなこと言わずに! 最初は無償で構いません! それに、私いろいろできますよ? 操縦も掃除も、貨物の整理も完璧です!」


リュナは腕を組みソレアをじっと見た。明らかに勢いだけで話しているが、その陽気な態度の裏にどこか焦りを感じる。


「あなた、よほど仕事に困っているのね」


ソレアは一瞬表情を引き締めたが、すぐに明るい声で返す。


「それは否定できません! でも、私の全力を発揮できる船だと思うんです。この船、何か特別な感じがしますから!」


リュナは再びため息をついた。そして、コンソールに表示されている貨物配送の依頼を一瞥する。


「……まあ、いいわ。無償なら乗りなさい。ただし、私の邪魔はしないで」


ソレアは飛び上がるように喜びの声を上げた。


「ありがとうございます! 船長、私、頑張ります!」


リュナは頭を軽く振りながら椅子を回転させ、モニターに映るステーションの景色を見上げた。


「頑張るだけなら誰にでもできるわよ……」


そんな二人の奇妙な出会いが、エクリプス・ホライゾンの新たな航海の始まりとなった。

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