第4話 オーロラへの扉
瓦礫の山を抜け出した二人は、施設の外れにある小さなドアの前に立っていた。背後には崩壊しつつある建物の残骸と、迫りくるセントリーの轟音が響いている。レイは端末を操作しながら、息を整えた。
「ここからが本番だ。」
「まだ終わってないの?」
ハルカは息を切らしながらも、レイの言葉に反応した。彼女の顔には疲労の色が濃く出ているが、その目はまだ戦いの炎を失っていなかった。
「この先にあるのは仮想空間への入り口。リンクを起動させれば、オーロラに直接アクセスできるはずだ。」
「直接って… どうやって?」
「実際に体を使うわけじゃない。意識を転送するんだ。」
レイの言葉にハルカは驚きを隠せなかった。意識を転送する——それは、都市伝説やフィクションの世界でしか聞いたことのない話だった。
「そんなこと、本当にできるの?」
「理論上は可能だ。この施設がまだ動いているならな。」
レイは端末をポケットにしまい、小さなドアを押し開けた。中は薄暗く、ほこりが舞う静寂の空間だった。壁には配線がむき出しになっており、ところどころで青白い光が瞬いている。
「こっちだ。」
レイが手招きすると、ハルカはその後ろについていった。彼女の胸は不安と期待で高鳴っていた。もしオーロラに入れるのだとしたら、そこにどんな未来が待っているのか。
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部屋の奥には、巨大な装置が設置されていた。まるで繭のような形をしたその装置は、青白い光を放ちながら静かに稼働している。
「これがリンク装置?」
「そうだ。」
レイは装置の横にあるコンソールに向かい、操作を始めた。彼の指がキーボードの上を滑るたびに、装置の光が強くなったり弱くなったりしている。
「これで準備は整った。」
「待って、何をするつもりなの?」
ハルカは一歩下がり、レイを見つめた。彼女の表情には警戒心が浮かんでいる。
「まず、俺が試す。」
「え?」
「装置が正しく機能するかどうか確認しないと、お前を危険にさらすわけにはいかない。」
レイの真剣な表情に、ハルカは一瞬言葉を失った。彼の覚悟が伝わってくる。
「分かった。でも、無理はしないで。」
「安心しろ。すぐに戻る。」
レイは装置の中に入ると、扉が自動的に閉まった。装置の光が強まり、低い音が室内に響き渡る。ハルカはコンソールの前で、レイの状況を見守りながら祈るように手を握りしめた。
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数分後、装置の光が弱まり、扉が再び開いた。中から出てきたレイは、少し疲れた様子だったが、目は輝いていた。
「成功だ。」
「本当に?」
「ああ。オーロラにアクセスできた。現実とは違うが… 確かにあそこにある。」
レイの言葉にハルカの胸は高鳴った。彼女の目の前に、未知の世界への扉が開かれようとしている。
「次は私の番ね。」
「その前に、いくつか注意点がある。」
レイは真剣な表情で続けた。
「オーロラに入ったら、自分を見失わないことだ。あそこは現実じゃない。どんなに美しくても、どんなに魅力的でも、そこに留まりたいという気持ちに負けるな。」
「分かったわ。」
ハルカは深呼吸し、装置の中に足を踏み入れた。扉が閉まり、光が彼女を包み込む。その瞬間、ハルカは意識が引き込まれるような感覚に襲われた。
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目を開けると、そこは全く違う世界だった。空は虹色に輝き、地平線には信じられないほど美しい景色が広がっている。花々が風に揺れ、どこからか心地よい音楽が聞こえてくる。
「これが… オーロラ?」
ハルカは足元に広がる柔らかな草を踏みしめながら、周囲を見渡した。現実とはかけ離れたその世界に、彼女は一瞬で魅了された。
「ハルカ!」
振り返ると、そこにはレイが立っていた。彼の姿も少し変わっているように見える。
「どう、感じる?」
「すごい… こんな世界があるなんて。」
ハルカの目は輝いていた。しかし、レイは真剣な表情で彼女に近づいた。
「忘れるな。ここは現実じゃない。」
「分かってる。でも… こんなに美しいなんて。」
その時、二人の前に突然、謎の人物が現れた。その人物は光に包まれており、性別も年齢も分からない。
「ここに来るとは、予想外だ。」
その声は低く響き、どこか威厳がある。ハルカとレイは顔を見合わせ、警戒心を抱いた。
「お前たちは何者だ?」
「それはこっちの台詞よ!」
ハルカが一歩前に出ると、その人物は笑みを浮かべたように見えた。
「なるほど。人間がここに到達する日が来るとは… しかし、ここはまだ完成していない。」
「完成していない?」
レイが問い返すと、光の人物は静かに頷いた。
「この世界は試作段階に過ぎない。お前たちがここにいること自体、異常なのだ。」
その言葉に、ハルカとレイの胸に不安が広がった。オーロラ——それは彼らが思っていた以上に、謎に満ちた世界だった。
「戻れ。そして、二度とここに来るな。」
光の人物がそう言い残し、姿を消すと同時に、周囲の風景が急激に変わり始めた。空は暗く染まり、足元の草花は枯れ始める。
「早く出るぞ!」
レイが叫び、ハルカの手を引いた。その瞬間、二人は再び光に包まれ、現実へと戻された。
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装置の扉が開き、二人は息を切らしながら外に出た。
「今のは一体…?」
「分からない。」
レイは額の汗をぬぐいながら続けた。
「だが、確かなことが一つある。この世界はまだ完成していない。そして、それを知っている存在がいる。」
その言葉に、ハルカは静かに頷いた。彼女たちの旅は、まだ始まったばかりだった。
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