仕方がないから一途な従者に応えてやろうと思ったのに
風里
第1話
バシリオという男は本当に無欲で、ガッシリとした恰幅のよい体格を生かしもせず、俺の従者としてひたすら後を付いて回る、俺の幼馴染みだ。
皇国の第三皇子である俺の従者になれることは確かに名誉な事と思うけれど、それにしたって、第一皇子の乳兄弟は皆優秀な騎士だし、第二皇子の乳兄弟もまた皆優秀な護衛なのに何故、俺の唯一の乳兄弟のバシリオは、何にも特技が無いんだ。ただひたすら俺を愛でてるだけで、剣の腕が立つとか、格闘技が強いとか勉強ができるとか、全く秀でたものがない。
ただ、まぁ、顔は悪くない。
俺の部屋をせっせと掃除してるバシリオをじーーっと、見つめていると、バシリオは少し怯えたような顔をした。
「リュラ様、どうかしましたか?」
「お前さ……何かしたいと思わないの?」
「掃除をしてますが」
「いや、そういうんじゃなくて、もっと、剣の腕を磨くとか、弓の腕を磨くとか、勉強するとか」
「はぁ……別に」
いつも通りのバシリオの返事にガクッときたが、だが俺は諦めなかった。
「別にじゃないよ、一緒にやってやるから何か特技を身に付けろよ、なんか無いのか?チェスとかどうだ?」
「チェスは嫌いです」
「練習すれば強くなるかもだろ?」
「練習したくありません」
「……まぁ、確かに図体がでかいお前が、細かいチェスなんかしてても仕方ない、その立派な体格を生かすのはやはり格闘技かな」
「人を叩きたくありません」
「優しすぎる!!でも、ほら、模擬だし」
「嫌です」
「くーーーっ、なんだろなぁ!!この、モヤモヤは」
ばふんばふんと、枕に八つ当たりしてると、ほこりがまって、それをまたせっせと掃除しだす。掃除が得意でもかっこよくないんだよ。
「俺、実は立派な従者が欲しい」
「エッ!!」
バシリオが初めて顔色を変えた。掃除をする手を止めて、そわそわと、雑巾をバケツに入れて、こちらへ近づいてきた。
「リュラ様、私の他に従者を置くつもりですか?」
「だって、お前ってば何にも箔とか権威がないんだもの」
「箔とか権威……ないです」
「だろ?俺も、第一皇子とか第二皇子みたいに格好いい従者を連れ歩きたいんだよ、お前ってば、見た目は良いのに中身が無いんだよ、悪いやつじゃないし、優しすぎる性格が、ちょっと、男としてかっこよくないっうかさ、俺、オメガなんだからいざって時、こう、バッと守ってくれる男が従者であって欲しいんだよ、解る?」
バシリオは、叱られた犬のごとくしゅーんとうつ向いている。可愛そうになってきたが、ここで絆されたらいつもと同じでいつまでたってもこいつはただ図体がでかいだけの優しすぎる男として、俺の部屋を掃除するだけで一生を終えてしまう。こいつの未来、ひいては俺の未来のためにも心を鬼にして里子に出すつもりで、俺はかねてより用意していた、紹介状をバシリオに渡した。
悲しげな目をして、バシリオが静かにその紹介状を受けとる。
「リュラ様、何ですかこれは」
「パッキラ将軍への紹介状だ」
「パッキラ将軍?」
パッキラ将軍というのは、このマシェル皇国の国防の要の七大将軍の1人で、近衛騎士団のトップだ。ちなみにパッキラ将軍の甥っ子が第一皇子の乳兄弟。
「ちょっと、近衛騎士団に入隊してこい」
「は?」
「箔とか権威をつけてこい」
「……私がいなくなったら、お部屋のお掃除は誰がするんですか」
「自分でやる、もしくは他のやつにやらせる」
「そんな」
「他のやつにやらせるのが嫌なら、なるべく俺がやるから、一年間とりあえずやってこい」
バシリオは、絶望したみたいな顔で、こちらを見ているが、もう一度紹介状を胸に押し付けた。
「解ったらもう行け!!俺を守れる男になって帰ってこい」
「……はぃ」
雑巾の入ったバケツを持って、すごすごと部屋を出ていくが、その際何度も振り返って、呼び止めてもらうことを期待した目で俺をみたが、俺は決してバシリオを呼び止めなかった。早く行け。そして強くなって帰ってこい。だってお前、俺のことすきなんだろ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます