女子テニス世界ランキング最底辺の私が、激推ししてくるファンのサポートを受けて天下を取り行くハナシ

リパルフェ

第1話 終わりかけと始まり



 全てが順調だった絶頂期の私を、たった一人のテニスプレイヤーが地に撃ち落とした。


「ゲームセット。ウォンバイーー」


 私ではなく相手の名前が読み上げられた。相手はプロになりたてで、順調にランキングを重ねていたプレイヤーだった。しかも同じ日本人ということで意識も強くした。


 キャリア、経験の差から優位性を感じながらはじまった試合は、私の想像を遥に上回り大差で幕を閉じた。


 一ゲームも取れず、終始向こうが試合をコントロールし、圧倒的に上回るテニスを見せつけられて思い知らされた。


 ああ、これが「才能」。

 生まれて初めて諦めた。割と上手くやってきたから勘違いしていた。

 彼女こそ、本物のーー。

 

「なんか」


 ふと彼女かを言おうとした。

 だめだ、その言葉だけは聞いてはならない。

 だが自分の意志とは裏腹に、それは聞こえてきた。


「すっごくつまらなかった」


 こうして私は地に落ちていく感覚を味わっていった。

 暗闇が広がっていった。やがて浮上する感覚に飲み込まれていき、そして。



「ーーはっ!? ・・・・・・はあ・・・・・・」


 夢が終わって、現実へ目覚めた。

 ぼうっとふらついて、それから頭を抱えてつぶやいた。


「大事な試合前になんでこんな夢を・・・・・・」


 常に海外を飛び回ることの多いプロテニスプレイヤーなら、浅い眠りから夢を見ることは多いかもしれない。だがここは日本の家でなんなら両親の住む実家だ。久々の自室でぐっすり眠れると思っていたのに。


 

「まったく、縁起が悪いったらありゃしない」


 自嘲気味につぶやきベッドを降りる。あの女の顔と声を、夢でも見てしまうなんて。いまとなっては夢でしか出会わない存在になってしまっているのだが、あの女は。

 そのまま自室を出て居間に向かった。ちょうど母が料理の支度を終えるところだった。母が私に気付いて言った。


「起きたのね。今日試合だったっけ? 見に行った方がいい?」


「いかなくていい。少しでも集中したいの」


「昔は海外の試合にも呼んできてくれたじゃない。もう四年も連れてきてくれないけど」


「悪かったわね稼げなくなったプロで。・・・・・・いただきます」


 母の作った和食を口に運びながら罪悪感でいっぱいになる。以前は海外での大会で本戦出場が決まると両親を招待していた。二人は海外旅行ができるとのことで喜んでくれて、ちょっとした親孝行ができて私もうれしかった。最後に二人を海外へ連れていったのは四年前のあの試合までだ。


 半分ぐらいまで食べ終えたところで、居間のソファでくつろいでいた父が振り返ってきた。


「夏海。ちょっといいか」


「ん、なあに?」


「おまえはいつまで続ける気だ」


 それを聞いて、私は瞬間的に立ち上がってしまった。食器が甲高く響く。沸々とこみ上げてくるものをこのままぶつけたくなりそうだったが、父にぶつけたところで何の意味もない。


 行き場のない感情を胸に閉じこめることにして、私は「ごちそうさま」といって居間を出て行った。母の呼び止める声が聞こえた気がしたが無視した。

 身支度をさっさと整えて、私は逃げるように玄関からでていった。早めのウォーミングアップという自分自身の言い訳もできた。

 実家から最寄り駅までの道すがら、頭の中はいやなことで埋め尽くされようとしていた。


 もう二十六歳。テニスでプロになって八年になった。両親の心配も理解できる。向こうはとっとと嫁入りして孫の顔でも見たいのだろう。


「冗談じゃない。私はまだやれるってーの」


 一度たりとも諦めてなるものか。

 そうじゃなければ、なんのためにこの二十年間を捧げたのかわからないではないか。


 そんななか、ふと注意を促す物が目の前にやってきた。

 赤い派手な車だ。人目で海外の高級車だとわかった。車はゆったりとしたスピードで私の横を通り過ぎていった。一瞬だけ運転席に乗っている人を覗こうと思ったが、左側が運転席だったので確認することはできなかった。


「・・・・・・こんな一般住宅にすごい車」


 プロ入りして調子づいていたときに、有名な高級車の購入の検討していたこともあった。いまとなっては果てしなく遠い買い物になってしまった。


 雑事はすぐに頭の中で切り替えた。

 これから大事な試合だ。これに勝たなければ数少ないスポンサーをまた減らされる可能性がある。それはつまりプロで活動できなくなることを意味する狭くする。


 勝たなければならないのだ、絶対に。




ーーーーーー

ーーーー

ーー



「いまのって・・・・・・あっちゃぁ、できれば試合前に出会いたかったのに」


 左ハンドルだと前方右側を確認しにくい。やはり日本車を買うべきだったと後悔した。まあ各方面の手前、大衆車を買うのは都合が悪いのは想像がつくが。

 車はとある一軒家の前で止まった。


「ここがあの人のハウス。本人の前にご両親との挨拶が先になっちゃったけど」」


 ぱんぱんと両頬を二回たたく。頭の中で意識が切り替わっていった。もう浮かれてなんていられない。これから一人の人生を変えるのだから。


「さて、初めての仕事をするとしますか!」


 ぴんぽーんと軽快な音。鼓動が高まってくる。

 インターホン越しで女性の声が聞こえてきた。


「はい。どちらさまでしょうか」


「おはようございます。朝早くからすみません。わたくし、鈴井ともうします。娘さんのことでご両親にお話がありまして・・・・・・」




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