大切な日にはアセビの花を。~兄妹の行くファンタジー世界ぶらり旅~

@tomato4040

第1話 バースデイイブ

ふわぁ。

宿屋の窓から燦々とした陽光が入ってきて僕を照らしている。

これは僕が昼間だというのに眠い目を擦っているのも仕方ないといえるだろう。


「それは兄さんが昨日遅くまで本を読んでいたからでしょ。」


隣に座る妹からのジト目が僕に刺さる。

太陽の暖かさと妹のジト目の冷たさの温度差で風邪をひいてしまいそうだ。


「いつからネシアは僕の思考を読めるようになったんだい?」


「本当に考えてたんだ。」


おっと、部屋の気温がいくらか下がったかのように感じるぞ。

しかし妹め、偉大な兄であるこの僕を嵌めるとはなかなかやるではないか。

こうなっては仕方ない、ここは兄の威厳を守るために僕も少し本気をだそうではないか。

ここだけの話、我が妹であるネシアは足裏くすぐりにめっぽう弱い。

一度足裏に手が届けば後はこっちのものだと言っても過言ではない。


座っているソファから立ち上がり隣に座っているネシアの足裏に狙いを定める。

ネシアは訝しむような目で僕を見ているが、まさか僕の狙いにまで気づいているわけではなかろう。

よし、行くぞ。


一気にしゃがみ、膝をバネのように使い妹の足元を目指す。


「っふ!」


よし、ターゲットが目と鼻の先に見えている、あとは手を伸ばすだけ!


・・・・・あれ?

よく考えたらさっきまでネシアの足は床に着いていたというのに何故彼女の足裏ターゲットが見えている?


見上げるといっそう冷たさを増した気がするネシアと目が合った。

なるほど、僕は今までの蛇に睨まれた蛙は何故逃げずに立ち尽くすのだろうとかふざけた考えを持っていたのだが、いまよぉーく解った。


時にこの世には逃げることすら許してくれないような無情な存在もいるということを。


「ふん!」


「グハア!!」


上を向いた僕のおでこは、惚れ惚れするくらい綺麗な軌道で落ちてくる妹の足裏によって踏み抜かれた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「うう....、ここはどこ、僕は誰?」


「また悪ふざけ....、ここはコイネーで一番の宿屋、兄さんはライズ。」


「ライズ、それが僕の名前...。」


「兄さん...まだ踏まれたりないの?」


「ごめんってええ!」


これ以上ふざけていると今日という日が命日となってしまうかもしれない。

さすがに自重しなければいけないようだ。


「でも、日当たりの良さは事実だね。昨日の晩のこと抜きでも眠ってしまいそうだ。」


「確かに、それはそうかも。宿泊代とっても高かったんだからこれくらいじゃないと困るけどね。」


そう今泊まっている宿屋はこのコイネーという国の中でもダントツで宿泊代の高い、高級宿。

普段旅人をしている僕達がこんな高級宿に泊まることなんて滅多にない。

あるとすれば何かその国に貢献して特別待遇を受けた場合、もしくはそこしか宿が空いていなかった場合。

そして最後、今回こんな高級宿に泊まっている理由でもあるのが特別な日であること。

正確に言えば今日ではなく明日だけれど。


「明日が楽しみだ。」


ネシアは少し以外そうな顔をしたあと笑って言う。


「私も楽しみだよ。」

「旅に出てから明日で一年、そしてそれは旅立ちの日でありながら私達の誕生日でもある。」


「この一年あっという間だったような、色々なことがあったような。」

「でも良い一年だったと思う。」


本当にいろんなことを経験した気がする。

そしてこの子と、旅先で出会った人達との思い出は僕にとってかけがえのないものとなっている。

それはきっとネシアも同じだろう。


「ねえネシア、たまには今までの旅を振り返ることも悪くないと思わないかい?」


僕は荷物の中から一冊の本を取り出す。

それはこの旅の中、綴れる時は毎日綴ってきた日記。


「いいね、私もじっくり読んでみたいと思ってたんだ兄さんの日記。」


自分の日記を他人に読まれるというのなら悶絶ものだが相手は双子の妹。

自分の半身と言ってもいいくらいだ。


それに、


「この日記帳は365ページなんだ。」

「今日の日記をつければ、この一冊は完成する。」

「最後のページはネシアにも一緒に綴ってほしいと思ってね。」

「一緒に過去を振り返りつつ、一年間の思い出を完成させようじゃないか。」



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