第27話


 強化された戦車クルマの慣らし運転を終え、いよいよリビングデッドの基地へと殴り込む時が来た。

 まあ、今回はその前段階。

 基地の近くを彷徨く2体の賞金首を狩るための出撃なわけだが。


「……よし、メンテナンスもバッチリ! 皆の準備はどう?」

「ん、問題ない」

「ガウ!」

「ワタシも、オールクリアです」

「俺も大丈夫! いやー、いざその時となるとドキドキするなぁ……」

「あはは、正直言ってアタシも! もちろん負けるつもりはさらさら無いけど、ここからはもう後には引けないからね!」

「どれだけ上手く事が運んでも、とても厳しい戦いになる事は間違いない。でも、絶対に皆で生きて帰ろう」

「ガウガウ!」

「ええ、もちろんです。分かりましたか、旦那様?」

「何故俺を名指しで!? 言われんでも五体満足で勝つ気満々だっての! そのために戦車クルマ自体の耐久力を上げて、更にシールドとエネルギートーチカまでつけてもらったんだからな」

「それでも無限に防げるわけじゃないし、シールドとエネルギートーチカで軽減できるダメージにも限度があるから注意だよ!」

「ん、特にギガンティック☆オトメの攻撃には気をつけよう」

戦車クルマですら一撃となると、バイクに乗るワタシは文字通り木っ端微塵になりかねません。同じ戦闘用ロボットとしてはその火力に惹かれるものがありますが、絶対に当たる訳にはいきませんね」

「よし……! そんじゃ、行くか!」

「ガウ!」

「ん」

「ええ」

「おー!」


 わあ、皆して掛け声バラッバラ。

 大丈夫だよな? 大丈夫なんだよな?

 連携を上手くとれずに各個撃破とかされたらシャレにならんぞ。


 いや。

 ここまで来たら信じるしかないな。

 仲間を、そして俺自身を!


 そんじゃそれぞれ戦車クルマに乗り込みまして……。


「ところでイライザちゃん、基地ってどっちだっけ?」

「えぇ……もう、締まらないなぁ」

「へへ、すいやせん……」


 リビングデッドの基地へ、イクゾー!!

 あ、もちろん先頭は俺たちが行く。

 耐久力に秀でたこの戦車クルマが先導するのが合理的だからな。

 敵とばったり出くわしてもスムーズに陣形を組めるし。



 ……不死身男進行中……




「お、薄らとだけどそれっぽい建物が見えてきたな」

「どれどれ……? うん、そうだね。あれがリビングデッドの基地だよ」

「となると目標はこの辺りに……」

「索敵してみる!」

「あ、はい」


 まだまだ距離があるからちっこいが、西部劇風の荒野の先に、これまでとは明確に異なる未来的な建造物が見えてきた。

 念の為イライザちゃんに確認してもらったところ、やはりアレがリビングデッドの基地であるようだ。


 話には聞いてたけど、思った以上に技術レベルが高そう……?

 なんていうか、基地の様子がSFチックなんだよね。


「……巨大な熱源反応を確認。これはきっとギガンティック☆オトメだね。リビングデッドの兵士は見当たらないけど……」

「基地に引っ込んでるんだろ。スクラギガースはどうだ?」

「待ってね……あ、いたいた。11時の方向、少し遠めかな」

「おっと、ギガンティック☆オトメの姿を確認できた。思った以上に人間っぽいな」

『こちらでもギガンティック☆オトメと思われる巨大な人型ロボットを視認できました。どうしますか?』

『ん、少し遠回りしてスクラギガースも捕捉しておきたい。あれだけ大きいなら、ギガンティック☆オトメの方は勝手に寄ってくるはず』

「だな」

「先にギガンティック☆オトメとの戦闘を開始して、気付かないうちにスクラギガースがどこかに消えてたら不意打ちされるかもしれないもんね」

『ガウ』


 遠くからでもとにかく目立つギガンティック☆オトメの動きに注意を払いつつ、ぐるりと迂回してスクラギガースへと接近する。

 しかしまあ、とにかくデカい。

 近くで見れば関節部分なんかがロボロボしてるんだろうけど、こうして遠くから眺める分にはただの巨大な美少女だ。

 この世界って、ロボットじゃない生身の肉体を持つ、巨人とかいるんだろうか?


「そろそろ確認できるはず。見つからずに上手く接近できたら、先制攻撃のチャンスだよ!」

「正直戦車クルマの駆動音で気付かれそうなもんだけど……意外とバレないな?」

「……いた!」

『ん、こっちでも確認できた』

『同じくです。幸い、まだ気付かれてはいないようですね』


 イライザちゃんのナビゲートに従い進んだ先には、ごつくておっきいスクラップの怪物が居た。

 こいつが、スクラギガースか。

 一言であらわすなら、マッシブになったスクラップソルジャーを巨大化させた感じだな。


 なんか、身体の手入れしとるんじゃが。

 スクラップのくせに、意外と綺麗好きなのか?

 いや、自分で言ってて意味がわからん。


 ま、とにかく。

 今のうちによーく狙いを定めて……。


「…………」

「…………」

『…………』

『ガウ……』

『エネルギー充填、出力上昇……』



「今だ、撃てェェェ!!」

「よーし、開戦だね!!」

『ん、削るだけ削る!』

『ガウッ!』

『出力最大!!

 フルオープン、アタァァァァック!!』


 無事に射程圏内へと近付いた俺たち渾身の先制攻撃が、呑気に休憩しているスクラギガースへと突き刺さる。

 これといって防御をされた形跡もない、間違いなくクリティカルヒットしたはずだ。

 あわよくば、これで無様に倒れてくれたら楽なんだが……。



「グオオオオッ!!」



 そう簡単には、いかねえよなぁ!!



〈人類さん発見!! 君たちもわたしのファンかな?〉


『ん、やっぱりギガンティック☆オトメにも見つかった! 気をつけて!!』

「あいよぉ!!」

「ここから先は一瞬も気を抜けない! さすがにオトメ☆ビームは避ける必要があるけど、それ以外の時はアタシ達のマッハブレイクを盾にして!」

『承知しております。しかし、足が早いお嬢さんですね……!!』


 きっと少なくないダメージを与えられたはずのスクラギガースが叫びながらこちらを睨みつけ、そして少し遠くにいたギガンティック☆オトメも耳聡くその叫びを聞きつけ、猛ダッシュでこちらに向かってきている。


 足が早い……っていうかでっかぁ!?

 ギガンティックすぎるだろ!!

 もしかしたら某機動戦士と同じぐらいのサイズはあるんじゃないか……?



 ! WARNING ! ! WARNING !



  賞金首  スクラギガース

  懸賞金  3000G


  賞金首  ギガンティック☆オトメ

  懸賞金  10000G



 討 伐 開 始 ! !



「グオオオオッ!!」


「攻撃来たぞ!! 戦車クルマと同じぐらいでけぇガレキをぶん投げてきやがって、ゴリマッチョがよ……!」

「前に出て、ハンゾーさん! よいしょ、シールド展開!!」

『ん、ポジションが悪い! 大きく回り込んで2体とも正面におさめよう!』

『ワタシが撹乱します! 皆さんはその隙に移動を!!』

「頼むぞ!!」

「攻撃が直撃しないように気をつけてね、マモンちゃん!!」

『心配はいりませんよ、レディ!』


 不意打ちに怒ったスクラギガースがどこからともなく取り出したガレキをぶん投げてきたが、同乗するイライザちゃんが展開してくれたシールドを使ってガード。

 ギガンティック☆オトメは未だ猛ダッシュ中で攻撃して来ないので、今のうちに戦いやすいポジションへ移動する事に。


 その間の時間稼ぎは機動力に長けたバイクに乗るマモンが担当し、華麗なドライブテクニックでスクラギガースの攻撃を上手く躱している。

 まあ、アイツがすごいというよりマカロフ爺さんお手製の自律行動式バイクがすごいんだけども。


「おぉらァ!! 記念すべきマッハブレイクの初大砲じゃあ、持ってけぃ!!」


「グオオオッ!?」


「よし、命中確認! でも身体に纏ってるスクラップが少し剥がれただけで、あまりダメージが通ってない!?」

「やっぱりスクラギガースの方も一筋縄ではいかねえか……!」

『マモンちゃん、今のうちに!』

『承知しております、ご夫人!!』

『ガウ!』


 なんとか大砲が当たってホッとしたのも束の間で、どうやら当たったは当たったがスクラギガースはまるで戦車クルマが装甲に守られているように、スクラップを身体に纏う事で身を守っているようだった。

 あの野郎、攻撃よりもタフさの方が厄介になりそうだな……!


〈受け取って、人間さんたち! わたしのファンサービスを!!〉


 ん!?


「やっば……!!」

『!! ギガンティック☆オトメの胸部に凄まじいエネルギーが集まっています! 全員回避運動を!!』

『くっ、いきなり……!!』

「おいおいおいシャレにならねえぞ!? 頼むぞマッハブレイク……!」


 でっっっかい!!

 とうとう俺たちの戦闘領域に到達したギガンティック☆オトメを改めて見ると、マジで凄まじい巨大さだ。

 長い桃色の髪に彩られた可愛らしい顔立ちと、ばるんっ!! きゅっ! ボンッ!! ってな感じの表現が相応しい圧倒的なプロポーション。

 加えて、何故かミニスカメイド服。


 実物を見ると、ホントイカれてるわ。

 やっぱり細かい部分に目を遣るとロボロボしてるんだけどね。



 って呑気に言ってる場合じゃねえー!!

 うおおお突っ走れマッハブレイク!

 胸がパチパチスパーキングしてるし、あんなもん食らったらマジに一発でFly awayしちゃうわよ!!


〈届いて、この想い!! 必殺ぅぅ……〉




〈オトメ☆ビィィィィム!!〉



 想いを届けるのに必殺しちゃダメだろ!!



 スパークした桃色のごん太ビームがギガンティック☆オトメの胸部から発射され、打ち下ろされる形で地面へと着弾。



 ──辺り一面が閃光に包まれ、一時的に音が消えた。


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