第一章

第2話




「結花様、庭のデイジーが綺麗に咲きましたよ」




 それは、ある日の夕方の事。



 奏は、花瓶から今にも溢れそうな程の沢山のデイジーの花を、結花のベッドからよく見える窓際に置いた。



「本当に、すごく綺麗…!」



 ベッドの上の結花がデイジーを見て笑うと、奏も遠慮がちにニコリと微笑んだ。



「奏、いつも綺麗な花を摘んできてくれてありがとう」



「いいえ。俺にはこれくらいしか、結花様にしてあげられる事がありませんから」



「そんな事ないよ。奏は庭で沢山、季節の花や野菜を育ててるじゃない。私、いつもこの窓から、色づく庭を眺めるのが好きなの」



「結花様……」



 奏は少しだけ悲しそうに笑い、結花の名を呟いた。



 そんな物憂げな笑みも、元々顔立ちが端整な奏は驚く程絵になってしまう。




「あ、ねぇ奏。こっちに来て?」



 結花の手招きに、奏は戸惑うようにベッドに近付く。



「どうしました?」



「制服、汚れてるよ?学校から帰ってすぐに、摘んできてくれたの?」



 結花は、奏のズボンについている土を、軽く手で払った。




 高校二年の奏は、結花と同じ17歳。



 同じ高校に通っているけど、結花は生まれつき心臓に持病を抱えている為、あまり通学は出来ていない。



 我が家の庭師見習いとして働く奏は、そんな結花の元に、時々こうして見頃の花を摘んでは、持って来てくれる。

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