第38話 湧き水が語る真実
佐賀県祐徳市の酒蔵「祐徳庵」を支える湧き水の枯渇問題。塩見遼一と茜美咲は、その原因を探るため佐賀大学の田辺和也教授を訪ねた。
大学の研究室で迎えてくれた田辺教授は、祐徳市周辺の水脈や地質に詳しく、地域の自然環境保全活動にも長年携わってきた人物だ。穏やかながらも知的な雰囲気を持つ田辺は、塩見たちを研究室の大きな地図の前に案内しながら語り始めた。
「湧き水の枯渇……その原因は一つではありません。まず考えられるのは、気候変動による降水量の減少です。この地域は以前よりも雨が少なくなり、水脈が弱まっています。」
田辺はさらに地図を指差しながら続ける。
「もう一つは、近年進んだ森林伐採です。この周辺では、観光地開発の影響で山の木々が伐採され、土壌の保水力が低下しています。その結果、水が地下に留まらず、表面を流れてしまうんです。」
塩見は地図を見つめながら、眉をひそめた。
「つまり、湧き水が減少しているのは、自然だけの問題じゃない。人間の行動が大きな要因になっている、ということですね。」
田辺は頷きながら、真剣な表情で続けた。
「さらに言えば、湧き水はその地域の文化や産業とも密接に結びついています。水が枯れるということは、酒造りだけでなく、地域そのものの生命線が失われるということです。」
塩見と茜は、田辺の案内で祐徳庵近くの湧き水源を訪れた。水がゆっくりと流れる小さな池のような場所。そこに立つと、かつてこの湧き水が地域の暮らしの中心にあったことを感じ取ることができた。
田辺は地面を指差しながら話す。
「ここには、かつて住民たちが共同で水を守るために掘った小さな堰があります。昭和初期、地域の農業用水や生活用水としてこの湧き水は利用されていました。」
茜は静かに写真を撮りながら呟いた。
「湧き水って、ただの自然の一部じゃないんですね……人の手がずっと関わってたんだ。」
田辺が微笑みながら頷く。
「その通りです。自然はそのままでは守れません。人間が手を加え、共に歩むことで初めて持続できるものなんです。」
その言葉に、塩見は思わず源一の姿を思い浮かべた。伝統の味を守り続けてきた祐徳庵の酒と、この湧き水には同じような歴史と重みがあるのだ。
調査の途中、田辺から驚くべき事実が語られた。
「実は、源一さんは20年以上前、この湧き水を守るために地元住民と協力して保全活動を行っていました。当時、開発業者がこの土地にリゾート施設を作る計画を立てたのを止めたんです。」
その話に、塩見も茜も驚きを隠せなかった。
「じゃあ、源一さんはずっと湧き水のことを大事にしてきたんですね……。」
「しかし、最近ではその活動も衰えています。若い世代の関心が薄れたのが原因です。」
田辺の言葉が重く響く中、茜は力強く言った。
「でも、それを伝えるのが私たちの役割ですよね。SNSを使えば、もっと多くの人に知ってもらえるはずです!」
その夜、塩見たちは酒蔵に戻り、源一と颯太に湧き水の重要性と保全活動の必要性を説いた。
「湧き水が枯れれば、祐徳庵の酒だけでなく、地域全体が失うものが多すぎます。過去の活動をもう一度復活させて、今度は新しい方法で守り続けるべきです。」
源一はしばらく黙っていたが、静かに口を開いた。
「……20年前、私はこの水を守るために全てを注いだ。だが、その意志を次の世代に繋げられなかった。お前たちがやると言うなら、託すしかないのかもしれん。」
颯太はその言葉に決意を新たにし、力強く頷いた。
「俺たちで湧き水を守り、酒蔵を次の世代に繋げます。」
SNSを活用した茜の発信により、湧き水保全の活動が地域住民の間で広がり始める。しかし、一部の住民からは「そこまでして酒蔵を守る必要があるのか」という否定的な意見も上がる。さらに、近隣の観光業者が計画する新たな開発が、湧き水の存続に再び影を落とす――。
次回予告:「守るべき未来」
湧き水を守るための保全活動が本格化する中、地域の人々を巻き込んだ動きが始まる。しかし、酒蔵を守るという目的が地域全体にどのような影響を与えるのか、その答えを塩見たちは見出せるのか――次回、「守るべき未来」。
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