第27話 炭火庵の挑戦、未来への一皿
店内は、炭火庵が再び活気を取り戻した証とも言える賑やかさに包まれていた。新メニュー「炭火焼地鶏の柚子添え」が評判を呼び、若者から地元の常連客、さらには遠方から訪れる観光客までが次々と炭火庵を訪れている。
「吾郎さん、この新メニュー、本当にすごいですね!」
厨房で忙しく炭火を操る吾郎に、茜が声をかけた。彼女の目は輝いており、どこか自分のことのように誇らしげだった。
「いや、皆さんのおかげですよ。」
吾郎が照れくさそうに笑いながら答える。だが、その表情にはかつての迷いはもうない。再び炭火の前に立つことに自信を取り戻した料理人の顔だった。
昼の営業がひと段落した頃、塩見が囲炉裏の前に座りながら言葉を切り出した。
「吾郎、この新メニューで炭火庵は確かに多くの人々に再評価された。しかし、次はさらに先を見据えるべきだ。」
吾郎が首を傾げる。「先、ですか?」
塩見は炭火を見つめながら静かに語り始めた。
「炭火庵の本質は、地鶏と炭火の力を活かすことだ。だが、それだけではなく、この土地が持つ他の素材にも目を向けてみるべきだと思う。この土地の自然、その恵みを取り入れることで、さらに炭火庵の可能性を広げられるはずだ。」
茜が興味津々で口を挟む。「例えば、どんなものがあるんですか?」
「山菜や川魚、地元の野菜や果物だな。」
塩見がそう言うと、吾郎も頷きながら考え始めた。「確かに、この地域には炭火と相性の良い素材がたくさんありますね。でも、それをどう料理に取り入れるか……。」
翌日、吾郎は塩見と茜を連れて地元の農家や市場を訪れた。そこには、山から採れたばかりのタラの芽やゼンマイ、川魚のアユ、新鮮な地元の野菜が並んでいる。塩見が一つひとつ手に取りながら言った。
「素材には声がある。お前の炭火と同じだ。それを聞き取れる料理人だけが、本物の料理を作れる。」
吾郎はその言葉に静かに頷きながら、タラの芽を手に取った。「これを天ぷらではなく、炭火で焼いたらどうだろうか……。炭火の香ばしさとタラの芽のほろ苦さが合いそうだ。」
茜が感激したように拍手をし、「絶対美味しいです!それに、炭火で焼いた山菜なんてちょっと珍しいですよね。」と声を弾ませた。
炭火庵に戻り、吾郎はさっそく新しいメニューの試作に取り掛かった。炭火の前に立ち、地元のタラの芽やアユ、野菜をじっくりと焼き上げる。その香ばしい香りが店内に広がり、茜が思わず深呼吸をした。
「わあ……やっぱり炭火の香りって特別ですよね。これだけで美味しそう!」
吾郎は黙々と作業を続け、少し焦げ目のついたタラの芽やアユを木皿に並べた。その隣には、地鶏のもも肉も一緒に盛り付けられている。
塩見がそれを一口食べると、ゆっくりと目を閉じた。そして静かに言った。
「素晴らしい。タラの芽のほろ苦さが、炭火で焼くことでさらに引き立つ。それにアユの香りが口の中で広がる……地鶏とも絶妙に調和している。」
吾郎が少し驚いた顔をしながら言った。「本当に、そんなに合いますか?」
塩見は頷きながら続けた。「素材の声を聞き、炭火と向き合ったお前だからこそ作れる一皿だ。」
完成した新メニューは「炭火焼き地鶏と山の幸の盛り合わせ」と名付けられた。その内容は、地鶏のもも肉に加え、タラの芽やゼンマイ、炭火でじっくり焼き上げたアユなどが盛り込まれた一皿だ。全体に柚子を添え、見た目にも鮮やかで、炭火の香りと自然の恵みが調和する料理だった。
茜が笑顔で言った。「これ、SNSで紹介したらまた反響がありそうですね!」
塩見は静かに言った。「紹介するだけではなく、この料理を通じて炭火庵が次の時代に進むための足掛かりとなるだろう。」
吾郎は深く頷きながら言った。「この料理で、炭火庵の未来を切り拓いていきます。」
その夜、吾郎は囲炉裏の火を見つめながら語った。「炭火と地鶏、そしてこの土地の素材。それを守り続けることが僕の使命なんだと改めて感じました。」
塩見が静かに答えた。「守るだけではない。伝えることも料理人の役目だ。お前の料理は、この土地の未来をつなぐ架け橋になる。」
吾郎の目に、新たな決意が宿っていた。「炭火庵を、もっと多くの人に知ってもらいます。そして、この土地の恵みの素晴らしさを、料理を通じて伝えていきます。」
次回予告:未来を焼き上げる炎
新メニューが完成し、炭火庵は次なる挑戦へ進む。炭火と素材が織りなす一皿は、この土地の魅力をさらに広げることができるのか――次回、「未来を焼き上げる炎」。
読者へのメッセージ
料理とは、素材と向き合い、自然の恵みに感謝することから始まります。炭火庵の挑戦は、ただの料理ではなく、土地の魅力と料理人の信念を融合させた新たな物語です。この一皿に込められた想いを、ぜひ皆さんも一緒に味わっていただきたいと思います。
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