そうだ、浮気調査をしよう! 4

 わたしがフェルスター伯爵家で生活するようになって、三週間が経った。

 つまり、結婚して三週間である。

 この間、夫であるクロードとはまったく顔を合わせていない。

 結婚式当日に「愛するつもりはない」宣言をされて以来、一度も、である。


 なんというか、徹底しているわ~とあきれる一方、それはそれで楽でいいか、とも思っている。

 何故なら、三週間たった今も、わたしは夫婦の寝室を占拠したままだからだ。最初に「訴える」って脅しをかけておいてよかった。

 もしくは、「王族とお友達」というはったりが効いたのかも。


 レース編みで作るピアスの売れ行きも、びっくりするほど好調である。

 商業ギルドに卸しに行くとその日のうちに完売するくらいの勢いなんだそうだ。もう少し数を増やせないかという交渉まで入っている。


 ピアスの儲けは、ジュリーに渡す分と、わたしが手元に置いておきたい現金(ジュリーへの給金に使ったり、わたしの身の回りの物を買うお金)以外は銀行に預けてもらっていた。

 この世界、離婚後の財産分与、なんてものはないから、とにかく今のうちに稼いで稼いで稼ぎまくるのだ。

 ジュリーも給金にプラスでピアスの儲けが入って来て嬉しそうである。これでこの先の弟の薬代にも困らないと笑っていた。


 ……さて、金策も順調に回りはじめたから、次の段階に移りますよ。


 そう、離婚に向けて一歩踏み出すのである!

 ぶっちゃけ、今の生活環境なら、三年耐えてあちらから離婚を切り出されるのを待ってもいいかなとも思うんだけど、三年間何もない保証はないからね。

 いつ虐げられコースに突入するかわからないので、念には念を! 離婚は早いに越したことはないだろう。


「ジュリー、お願いがあります」


 レース編みの手を止めて、わたしはジュリーに向き直る。


「はい!」


 すっかりわたしと仲良くなってくれたジュリーも、レース編みの手を止めて、ぴんと背筋を伸ばした。


「とある人に手紙を届けてほしいのだけど、頼めるかしら? 今度ピアスを納品するときに、ついでに行ってくれると助かるわ」

「わかりました! 任せて下さい!」


 わたしが手紙を届けてほしい相手は、商業ギルドの「裏ギルド長」だ。

 商業ギルドには表向き頼みにくい仕事を請け負う、知る人しか知らない裏組織があるのである。

 頼む内容は、ジュリーにも秘密。

 ただ、裏ギルド長に取り次いでもらえる「合言葉」は小説で読んで知っているから、取り次いでもらって手紙だけ渡してもらおうという魂胆である。


 ……この世界では、前世ほど夫の不貞に対して世間の風当たりは強くないけど、浮気が離婚原因になるのは、ないわけではないのよ。


 特に、わたしの実家は落ちぶれてはいるけれど侯爵家。

 立場の上の家から妻を娶っておいて不貞を働いたとあれば、付け入る隙はいくらでもある。

 だから、そう――


 ……クロードの、浮気調査をしてもらおう!


 そして証拠を集めまくって、わたしに有利に事を運ぶのだ。

 小説では結婚後すぐに浮気三昧な生活を送っていたとあったから、すでに一人や二人女の影があったっておかしくない。


「奥様、さっきからにやにやしていますけど、どうしたんですか?」


 クロードに華麗に「ざまあ」する自分を想像してにやついていたわたしを、ジュリーが不可解そうな顔で見つめていた。




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