第6話 目覚めた先は③

 丸腰の俺たちは抵抗空しくあっけなく捕まった。


 いや、チンピラはかなり暴れていたが……。

 多勢に無勢だ。


 俺たち三人は鎖で身体を縛り付けられ、正座させられていた。

 非常に屈辱的だった。

 アジムートの折檻の方が100倍マシだった。


 衛兵の一人が鬼の形相で叫ぶ。

「姫はどこにいる! この変態ども!」

 チンピラが観念したかのように答える。

「俺たちは何も知らない、記憶が無いんだ……。信じてくれ」

 すると、今度は俺の眉間に剣の切っ先をつきつけてきた。

「そっちのスカした青髪の兄ちゃん、猛牛にケツ掘られるのと今ここで脳天叩き割られるの、どっちか選べ!」


 選べるか! 

 俺はありのまま説明したが全く信じてくれなかった。


 どうにか打開策はないか!? 

 考えろ! 

 今人生で最大に頭をフル回転させる時なんだ! 

 考えろ!


 どうする!?


 ① チンピラを売る。

 

 ② 狼女のせいにする。


 ③ 全力で命乞いをする。


 →① チンピラを売る


「俺は知らない。すべてはあのチンピラがやったことなんだ……」

 俺は売った、わが身可愛さに、チンピラには犠牲になってもらおう。

「てめぇ! 売りやがったな! 殺すぞ!」

「おい! 発情した猛牛を連れてこい」

 狼女が訴える。

「衛兵さん! そいつ嘘ついてますよ!」

 衛兵の剣が喉元に当たる。

「本当のことを言え!」


 くそ! ダメか! 

 ならば……。


 ① やはりチンピラを売る。

 

 ② 狼女のせいにする。


 ③ 全力で命乞いをする。


 →② 狼女のせいにする。


「全部あそこの獣族の女がやったことだ! 俺は何も知らない!」

 俺は自分可愛さのために狼女のせいにした。

 きっと女ならひどい目には合わないだろう。

 うん、多分。

「なに言ってんの!? ねぇなにひとのせいにしてくれるのさ! 冗談やめてよ!」

 衛兵がニヤリと笑った。

「よーし、発情したオークの群れに放り込むぞ!」

 その発言に不憫に思ったチンピラが助け舟を出す。

「違う、さっきからそいつ嘘ばっかついてんぞ!」

 衛兵が俺の眼前に剣を突き付ける。

「いいから、本当のことを言え!」


 チクショウ! こうなったら!


 ① やはりチンピラを売る。

 

 ② やっぱり狼女のせいにする。


 ③ 全力で命乞いをする。


 →③ 全力で命乞いをする。


 俺はプライドを捨て、衛兵の靴をペロペロと舐めた。

 思わぬ行動に衛兵が狼狽える。

「やめんか気持ち悪い! いい加減にしてくれ! 真実を教えてくれ!!」


 これも駄目だったか……。


 クソッ! 


 どうすりゃいいんだよ!?

 

 このままじゃ牛に犯される!

 

 絶体絶命の危機に瀕したミュラーの脳は時間を圧縮してフル回転し、この場を切り抜ける術をあらゆる視点から分析した。


 そして天啓が舞い降りた。


 ミュラーがその言葉を発しようとする。

「あの……」

 刹那、ミュラーの口の中に剣の先がねじ込まれた。

「もうお前はしゃべるな……」

 衛兵のその目には殺意が剥き出しになっていた。


 互いを交互に見た狼女が恐る恐る尋ねる。

「えーと、整理したいんだけど、ここはお城の中で、あたしたちがさっきまでいた部屋がお姫様の部屋で、お姫様は現在行方不明ってことですかね?」

 衛兵たちは各々頷きあい、威圧的に答えた。

「そうだ!」

「あなた達はお城の衛兵さんでお姫様の身辺警護がお仕事?」

「……そうだ」

「ってことはあれですよねー、警備勤務中にお姫様が行方不明、しかもその部屋は荒らされ、見知らぬ男と女たちが侵入してた。これって重大な責任問題なんじゃないですか?」

 したり顔の狼女に、衛兵たちが眉を寄せる。

「……何が言いたい」

「いやーお互いが有益になるようにね? このままだとあたしたちも大変、兵隊さんたちも大変な目に合うんじゃないかなーって……」

 衛兵の一人が狼女の言葉に少し思案して、剣を鞘に納めた。

「ふむ、確かに将来、近衛兵長を約束された立場からすると、この状況はいかんな。お前らの首が物理的に飛ぶと同時に俺の首も比喩的に飛ぶ。本来の職務としては姫の捜索だが、もみ消せるものならもみ消したい。俺にも家族がいるからな」

 狼女は両手をもみ合わせながら衛兵に媚びている。

「ですよねー」

「いいことを思いついた。そう言うならお前らが捜して身の潔白を証明してみせろ」

 俺たち三人に金属製の首輪が装着された。

「これは便利な魔法道具でな、一定時間たつと爆発する。解除は不可だ」

 チンピラが叫ぶ。

「ざけんな! テメーらが捜せばいいだろ!」

「俺たちは勤務中だ、うかつに動けん。ばれるからな。俺たちは全力でもみ消す。ちなみに明日の朝食会までが限界だ。ばれたら俺たちの首が飛ぶ。ついでにお前たちの首もふっ飛ばす。だから全力で見つけてこい」


 頭の中は広大に広がる雪原ように真っ白になっていた。

 目の前の兵士の言葉がブリザードのように脳内に叩きつけてくる。


 いったい何を言ってる?


 この5W1Hが全くわからない状況で、人探し? 


 しかも明日の昼までに見つからなったら首がふっ飛ぶ!?


 なんでこうなった?

 ここはいったいどこなんだ?

 こいつらは誰だ?

 俺は何故全裸なんだ?

 誰か教えてくれよ!!


 俺は必死に思い出そうとするが、果てしない疑問の礫が容赦なく頭の中を破壊するように暴れまわる。

 まるで大地震でも起きたかのように、視界が揺らめく。


 刹那、

 チンピラの尻から放屁の音が耳のなかを切り刻む。

 そして刺激臭が嗅覚を襲い掛かった。

「わり、我慢してたからよ」


 悪臭が立ち込める中、俺の意識は遠ざかった。

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