7話 失格者はお呼びでないらしい
こうして、無事では無いがグループが決まった四天王達。
サイラグループが決まった事により、その流れに続いて他グループもどんどん決まっていった。
リーダーはどれもこれも貴族の連中ばかりで、その恩恵を受けたいコバンザメ達といったところだ。
凄い凄いともてはやす様はまるで、飼い主に餌をねだるペットの様だった。
グループに入らなかった奴は、実技が始まる時際教師側が勝手に振り分けるらしい。
その時グループに入るか入らないか決めても良いのだと。
…なんて言っていたが、選べるのは
青銅以下の生徒には、選ぶ権利も無い。
差別が酷いとは聞いていたが、ここまでとは思ってもいなかった。
そして、ある程度グループ分けが出来たので、席もグループ事に分かれる事になった。
なんというか、他グループは十何人規模なので、たったの五人しかいないサイラグループは寂しさを感じる。
本人達はさして気にしてない様だが。
「はい、じゃあひとまず決める事は決めたから。
今日の授業はここまでね。
また明日よろしく〜」
そう言って、セブンは教室を出ていった。
本格的な授業は明日から始まるらしい。
それまでの時間でこの学校を見てまわれとも言っていた。
ひとまず、やる事はやってしまったので、魔法でその制服に着替えてみる。
経過した時間は一瞬とも満たなかったが、淡い光が四人それぞれの体を包み込み、服装が持っていた制服に早変わりしていた。
「似合う?」
「制服はいいが、顔が悪い」
「戦争?」
「はいそこまた喧嘩しない」
「俺ちょいキツイかもー
ボタン少し外そ」
ワイワイとはしゃぐ四人。
それを見ていたサイラは、少し驚いたように見つめている。
「……どうしたの?」
「…驚いた。
見た事も無い魔法。
どうやったの」
その言葉を聞いた瞬間、全員やべっという顔をする。
四天王達にしてみれば、使えて当たり前の魔法だが、魔法の知識が十分では無い人間達からしてみれば、見たことも無い魔法な筈だ。
一応、これは転移の魔法を応用したもので、ざっくり言うと対象を服に絞って着替えている、という感じなのだが。
幸い、見ているのがサイラだけでだったので、まだ誤魔化せる。
「……あー、俺らが作った魔法でさ。
ふ、服を着替えさせる魔法…みたいな」
「……そう」
腑に落ちない様子だったが、そういう事にしてくれた様だ。
魔法を作ること自体は、そう珍しくは無い。
既存の魔法を組み合わせて、自分だけの魔法を作り出すという事は、魔道士にとって普通のことなのだ。
戦闘においても、自分しか知らない魔法というものは、かなりのアドバンテージにもなる。
いかに効率的で素晴らしい魔法を生み出せるかが、魔道士の腕にかかってくるのだ。
「ん、お前にもやってやるよ」
軽く指を鳴らし、サイラの服装も制服に変える。
四人の制服とは違い、可憐なスカートの制服だ。
元々容姿が良い事もあるのか、学生時代にこんな女子生徒が居たらクラスの華として注目されていたことだろう。
「……ありがとう、ダイキ」
「……おう」
「おまっ、女子の着替え姿見てんじゃーん!」
「えっ、は!?
馬鹿言え同時に元の服と入れ替えてんだから見えてねーよ!!!」
「すけべー」
「死ね!!!」
慌てふためきながら、揶揄ってくる三人に怒鳴る大樹。
しかし、サイラはその言葉を聞いて恥ずかしくなることも動揺することもなく、ただ静かに立っていた。
「そんで、この後どーするよ?
俺腹減ったんだけど」
「飯にするか。
もう昼時だしな」
「サイラさんとも話したいしね。
俺達と一緒に食べようよ」
「サイラ…さん?ちゃん?」
そうこうしている間に、腹の虫が鳴く時間へと時間が進んでいたようだ。
この学校には食堂があるらしいので、サイラと交流を深める為に食事へと誘う。
しかしながら、あまり距離感が掴めていない四人だ。
「……好きに呼んで。
おいでも、お前でも」
あまりにも頓着が無さすぎる答えだ。
流石に女の子に向かってそんな呼び方は出来ない。
冷たく接している訳では無いのだろうが…
何を考えているか分からない表情が相まって、なんだかロボットみたいだ。
「なんだそりゃ。
わぁ、無難にサイラちゃんって俺は呼ぶかな〜
マジ大樹お前、どうやったらこんな子と出会うなんてなるんだよ」
「昨日散々話したろーが。
お前が妄想乙とか言って切り捨てただろ。
……ほら、とっとと飯行くぞ。
サイラ、食堂の場所知ってるか?」
「……知ってる、食堂はあっち。
案内するから来て」
「わーいありがたーい!」
………………
昼時ということもあってか、食堂は生徒達で混雑している。
ここの食堂は、バッジを提示して生徒と証明すれば無料で飲み食いができるという中々の高待遇だ。
かなりメニューが豊富で、
「はぁ〜すげぇなぁ」
「
割とちゃんとしてるなぁ」
「俺
「んー、野鳥のオムレツかキノコリゾットか迷う」
如何せんメニューが豊富なので、どれを食べようか目移りしてしまう。
「俺
取ってくる」
「じゃあ、後でテーブル行くわー」
「……」
ステーキを貰う為、肉系のメインコーナーへと向かう。
そこに、そそそ…と着いてくるサイラ。
「なんで着いてくるんだよ」
「……方向が同じ」
「本当か…?」
あまり信じていないが、着いてくるから仕方がない。
バッジを見せ、ステーキを頼んだら料理人に鼻で笑われたが、なんとか昼ご飯を手に入れた。
少しイラッとはしたが、それよりも早くに飯を食したかった為我慢した。
やはり、ここではこの
どうにかして上げていきたいのだが。
「んー、やっぱ平民生まれは無理があったか…?」
そう言いながら、ステーキにナイフを入れる。
開けた隙間から溢れ出る肉汁が食欲をさらにかき立てた。
パクリ、と口へと運んでいく。
舌の上で肉の旨みが蕩け、兎肉の柔らかさが空腹を満たしていった。
学食とは思えないレベルで美味しい。
魔王として大樹が食べる食事と比べてはいけないが、それでもかなりクオリティが高いと言えるだろう。
「美味ぇなこれ。
本当に無料かよ?」
「お、うまそーなの持ってんな」
料理を携えて席に座る莱夏。
どうやらキノコリゾットにしたみたいだ。
しれっとサイラの隣に座り、ニコニコ笑顔でサイラを見つめる。
「いや〜〜うまそ〜〜だな〜〜
ねー、サイラちゃん」
「……」
「一口くらい欲しくなるもんだよな〜サイラちゃ〜ん。
大樹ヤサシイから分けてくれるかもな〜〜」
「……」
ジッ、と大樹に目を向け出すサイラ。
「おい、やらねぇからな。
お前もう十分美味そうなローストチキン持ってんだろ。
いちいちそういうことさせようとするなクソ莱夏」
「え〜〜〜〜?
俺はぁ、大樹ヤサシイから〜〜
分けてぇ、あげるのかなって〜〜〜」
「ガキでももう少しマトモな受け答えすんぞ。
生まれ変わって学び直してこいや」
どうしても大樹とサイラを関わらせたいらしい。
昔から莱夏にはこういう所がある。
変にくっつけたがるというか、お節介というか、悪ノリというか…
というか、サイラもサイラでそんな目で見ないで欲しい。
はやく帰ってきてくれ洋和と快夢、と心の底から願う。
「まぁまぁ、女の子居んのにしかめっ面で飯食ってたから、俺なりのジョークってやつだろ〜?」
「寒い、ゴミ、クズ以下。
評価の価値無し」
「酷くない?」
キノコリゾットを食べながらも、大樹に対してのジョークは止まらない。
そんな二人を、サイラは不思議そうな目で観察をしていた。
それに気付いた大樹。
「んだよサイラ」
「……二人は仲がいい。
…というか、四人共とても仲良し。
食堂に来る間も、ずっと喋ってた」
「……」
「まぁな〜
俺ら、昔からの幼なじみだから。
今まで生きてきて、ずーっと一緒なんだよ。
だから超仲良し〜」
「うおっ!」
素直に仲良しと答えられなかった大樹の後ろへ回り、ガバッと肩を組む。
「おいやめろ!
快夢みたいなことしてんじゃねぇ!」
「俺はアイツみたいに骨粉々にしねーから」
「…………そう。
……羨ましい」
「大樹と仲良しなのが?」
「おい」
仲良しアピールをする莱夏を見て、少し俯くサイラ。
大樹ともっと仲が良くなりたいのかとも思ったのだが、なにやら少し違うらしい。
「……私にも、居る。
仲良くしたい人」
「お、誰誰」
「クラスメイトか?」
「……私の」
――「ふざけてんじゃねぇ!!!」
サイラが言いかけた瞬間、男の怒号が食堂に響いた。
なんだなんだと、声の先を見てみる。
すると、男子生徒が相手の胸ぐらを掴んで怒鳴っていたのだ。
そして、その胸ぐらを掴まれている人物は、料理片手に場を収めようとする洋和だった。
「テメェみたいな低階級が、この俺に口答えか!?」
「いやだから、俺は貴方達の昼食代を出しはしないし、
「しらばっくれんのか、テメェガンつけてただろ!
その詫びとして飯代を出させてやるって言ってんだよ!」
「んな無茶苦茶な…」
「いいからとっとと出せよ!」
「逃げれると思うなコラ!」
その男子生徒の仲間だと思われる生徒達が、洋和の周りを囲んでいく。
しかし、所詮相手は人間なので抵抗もせずグワングワンと揺らされながら説得を試みていた。
――「もういいわ、下がりなさい」
凛とした声が響く。
先程の怒号ほど大きな声ではないのに、辺りのガヤを静かにさせた。
その声の主は、座っていた椅子を立ち上がり、ゆっくりと洋和へ近付く。
後ろに一つで括られた黒髪が、歩く度に光を含みながら靡き、周りの目線を奪っていく。
胸に輝く金色のバッジ、首元から見えるループタイ、煌めくイヤリング。
その全てが、貴族の位に位置するということを示していた。
「……はぁ。
貴方、立場を弁えなさい。
貴方みたいな存在が、私の視界に居るだけで不愉快なのに、言葉まで交わさなくてはいけないなんて…」
「はぁ……」
高飛車な物言いに、困惑しながらも対応する洋和。
周りの生徒がヒソヒソと騒ぎだす。
「あのアイリ様に目をつけられてるぞ…」
「おしまいだな…アイツ」
「あぁ…
今のうちに避難しとくか…」
そう言い、そそくさと離れる生徒。
どうやら彼女の名はアイリと言うらしい。
いかにも貴族らしいというか、絵に書いたような面倒女だ。
「……なんだアイツ」
「さぁ?
知ってる?サイラちゃん」
「……アイリ・フォン=ヴェルスグレン。
私の、お姉様」
「はぁ!?お姉様!!!???」
思わず飲んでいた水を吹き出しそうになる。
「た、確かに…
よく見たらサイラちゃんに似てるような…」
「……お姉様と私は、双子。
でも、お姉様の方が優秀…
私が言ってた、仲良くしたい人」
「……ふぅん」
髪型と色がだいぶ違う為、なかなか分からなかった。
しかし、よく見ると目の形や色、顔立ちなんかが似ている。
背丈も大体一緒くらいだ。
性格は全く違うみたいだが……
「貴方みたいな低階級、私を見る権利なんて無いの。
だから、その罪を償いなさいと言っているのよ。
わかるかしら?」
「……そう言われても、自意識過剰としか。
別に見たくてみたわけじゃなくて、辺りを見渡した時に視界に入っただけじゃ」
「……私の言うことを否定するの?」
アイリがその言葉を発した途端、周りの様子が一変する。
顔色を青くし、アイリの取り巻きさえも距離をとっていく。
「……?
否定というか、事実を言っただけで。
貴方の事は知らないし、興味もないから…」
「は……?
知らない?この私を?」
「なんで知ってる前提で話すのさ。
そういうの合理的じゃないし、やめた方がいいよ」
「なっ……!」
洋和の淡々とした物言いが、アイリの顔を赤くしていく。
自分に言い返してくる存在なんて、今まで居なかったのだろう。
しかし、洋和はアイリの事なんて全く知らないので、初対面の女子生徒が喋っているなくらいにしか思っていないのだ。
「ふざけないで…!
黒曜なんて最下層の分際で!」
ブワリ、とアイリの魔力の流れが変化していく。
「……流れが」
「…………アイツ、
スキル。
まぁ、小説や漫画でよく見るようなものと大差は無い。
何かしらの経験や、条件をクリアすることによって、世界そのものから与えられる力…
と、この世界に来る前に神から説明を受けていた。
ただ、そのスキルの中にはレアスキルと呼ばれる、個人特有のものが存在する。
効果こそ千差万別だが、既存のスキルと違って性能が段違いなのだ。
それこそ、無敵や最強と呼ばれるような力のスキルだってある。
「……分かるの?」
「まぁ、あんな魔力の流れ方させて、何かあるとしたらそれだろ。」
「この学校にもレアスキル持ち居るんだなぁ。
まぁ、多少は居るか」
「……お姉様は、言葉だけで人を殺せる。
声に発した言葉を、相手に強制させる。
…無敵のスキル」
「……無敵ねぇ」
頬杖をつきながら、その様子を見る大樹達。
アイリの方は、激怒しながら洋和に怒鳴っている。
「この私に向かって!
無礼で無知で無能で失格者の癖に!!」
――『死になさい』
甘く、それでいて硝子の中で反響した様な声が響く。
恐怖に歪む生徒達、相手の死を確信し微笑むアイリ。
……しかし
「……言葉にしない方がいい、君も危ないから」
パシッとアイリの腕を掴み、見つめる洋和。
「なっ…!」
なんという様子もない洋和を見て、驚きの顔を見せるアイリ。
周りの生徒達も、自分の身に何も起きていないことを確認し、安堵と同時に不思議がっている。
「ど、どうして…!
私の《
「あぁ、やっぱりさっきのスキルだったんだ。
危ないし、無効化させてもらったよ」
「はぁ!?」
アイリがスキルを発動させる直前、言霊のようなスキルだと踏んだ洋和は、辺り全員にそのスキル専用の無効化結界を即座に作り出し施していた。
それにより、生徒達も無事という訳だ。
「言霊は自分にも返ってくる、易々と使うものじゃないよ。
というか、周りに被害も出てる時点で使いこなせてないし」
「っ、うるさい!
離しなさいよ!」
「……はぁ」
コツン、とアイリの頭を指で軽く小突く。
「……!?
っ〜!ーーーー!」
すると、まるで呻くようにアイリが喉を押さえる。
しかし、声は何も聞こえてこない
「声封じの呪いだよ。
暫くはそれで反省したらどうかな」
「っ……」
キッと洋和を睨むアイリ。
そして、取り巻きを連れてそそくさと行ってしまった。
料理を持って、大樹達の席に戻る洋和。
「お待たせ、遅くなっちゃった」
「いや、いい。
今のスカッとしたぜ」
「あの女サイラちゃんのお姉さんらしいけど」
「えっ、そうなの?
……」
気まずそうにサイラを見る洋和。
「……お姉様にあぁできるの、凄い。
あのお姉様相手に…」
「ま、まぁ……
ほ、ほら!ご飯食べようよ、ね?」
「……うん」
なんとか濁しつつ、持ってきていたパスタを口へ運ぶ洋和。
そういえば快夢が居ないな、なんて考えていたら、程なくして席にやってきた。
そうして、なんとかグループで楽しく食事をしたのだった。
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