ガールズ・ヴァンプ・カーニバル〜恋愛しなきゃダメですか? いつまでも子供じゃいけませんか? 他人の幸せを決めつけていませんか? 自分ができなかったことを子供に押しつけていませんか?〜

めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定

惨劇のクリスマスライブ・アライブ・イブニング

第1話 遺書のようなモノローグ

 おっぱいが大きくなり始めると、自分の身体がエロいことを理解した。

 自撮りしたり身体を売れば簡単に稼げる。

 でも軽蔑している母親と同じモノになりたくなかったからやらなかった。


 美貌も身体付きも母親譲りだ。

 どこかの会社の事務職をしていて、家では狂信的な教育ママだった。

 子供の時間を塾で時間を埋め尽くす。

 いい成績を取らせて偏差値の高い学校に通わせていれば、よい母親でいられる。

 そう思い込んでいる人だった。

 自分がそうやって育てられたからだろう。

 だから男選びにも失敗した。


 シングルマザーの時点で、家庭問題を抱えていると誰でもわかるのに。


 案の定、私は学校で避けられた。

 目立つ容姿とシングル家庭。

 塾で夜遅く出歩く生活習慣から身体を売っているとレッテルを貼られたのだ。

 壮絶さはないものの無視というイジメ。

 嫌悪ではなく腫れ物のような扱い。


 身体を売っているということがデマでさえなければ、クラスメートはとても純粋で善良な人たちだった。

 そう理解できていたからやりきれなかった。

 お受験で入った中高一貫校。

 本当に温室育ちのマトモな人達ばかりだから。

 加害者は異物である私の方だ。

 クラスメートは教室に紛れ込んだ異物により、消極的な無視というイジメを強制された被害者でさえあったと思う。


 無視されていたけど教室は居心地がよかった。

 家には居場所がなかった。

 外に出れば電車でも、塾でも、性的な搾取対象としてしか見られてなかった。

 無関心でいてくれる学校だけが救いだった。

 イヤホンつけてずっとネットで流行りの曲やボカロを聴いて、歌詞の世界で頭の中をいっぱいにすれば満たされたから。

 邪魔されないし、自由な自分でいられる時間。

 だからクラスメートのことはアイム・ソーリー・アイ・ラブ・ユーいつもごめんね。でも私は一方的に愛してるだった。


 私の前に紅い果実の幻影が現れたのはいつからだっただろうか。

 心臓のような紅い果実。

 その紅い果実を手にとって齧りつけば私の中で全てが終わると確信できた。

 でも人間であることにしがみつきたかったから我慢した。


 父親はカラオケランキングにも曲が載っている有名ミュージシャンだった。

 元アイドルの妻を持つ愛妻家で二人の娘を持つ子煩悩としても有名だ。

 そこに私がカウントされたことはない。

 愛人の子供だから。

 二人の娘は一歳年上姉と同い年の姉。

 つまりお母さんとの不倫は奥様が妊娠中に始まったと推測される。

 これで母親本人は純愛だと信じ込んでいるんだから笑えるよね。


 どうせ父親は他にも不倫していると思う。

 だから私のよりも年下の弟か妹がいる可能性もある。

 ただ私が認識では私が末の妹だ。

 間違ってもお姉ちゃんなんて呼べない。

 もしも正式に謝る機会があるのであれば、あちらのご家庭には「生まれてきてごめんなさい」と土下座したい。


 そんな私に転機が訪れたのは高校生になったとき。

 学校で友達ができた。

 一緒にガールズバンドを組みたいと言ってくれた。

 高校からの編入組が入って来たからだろう。

 変化が起きた。

 私のような子にもお声がかかった。

 嬉しかった。

 人前で泣いてしまうほど嬉しかった。


 そしてもう一つは父親が接触してきたこと。

 どうも娘二人の高校進学を機に離婚の危機らしい。

 不倫しまくっていたらしいから奥さんに感づかれていたのだろう。

 なんとか面目を保とうと母親との関係を清算しようとして、今まで無関心だった私とも接触してきたらしい。


 女好きだが実の娘に手を出すほど狂ってはいない。

 しかし娘から軽蔑されることに慣れた父親には、まともに会話する私は救いだったらしい。

 会うたびにお小遣いをもらったし、ギターを譲ってもらったし、演奏の仕方や歌い方、曲作りまで教えてくれた。


 ある意味で理想の父娘関係。

 傍目から見ればパパ活少女。

 母親から見ると好きな男を寝取った女。

 家では母親から暴力を振るわれるようになった。


 そんな素晴らしき高校生活を送っていたら、またもや転機が訪れた。

 私たちのガールズバンド『ガールズ・ヴァンプ・カーニバル』の初の学外ライブが決まった。

 しかもクリスマスイブの夜に。


 そのイブ前日の夜に父親が薬物所持で捕まった。

 実の娘には手は出さなくても薬物に手を出す程度にはずっと狂っていたのだろう。

 どうも私と頻繁に会うことで週刊誌に狙われた挙げ句、別口の薬物使用がバレたらしい。

 そしてその一報を受けた母親が自宅で首を吊って死んでいた。


 警察を呼べば友達と初めてするクリスマスライブができなくなる。

 薬物使用の報道自体は十二月の初週からちらほら出ていた。

 明日には私のところまで記者が来るかもしれない。

 それでなくとも母親が自殺して、父親と見られる男性が薬物で逮捕されたのだ。

 もう元の生活に戻れない。

 全てが終わってしまう。

 私は学校を辞めさせられて、せっかくのバンドは潰れてしまう。

 友達もなにもかも失うだろう。


 だから最初で最期のライブはしたかった。

 誰も私の歌を聴いてくれなくてもよかった。

 友達と一緒に演奏できればよかった。

 ただ最期に生きた証を遺したかった。

 お母さん遺体の側に自分の遺書も置いて家を出た。


 ……それなのに。

 それなのにそれなのにそれなのに!


 せっかくの聖夜の夜。

 街は吸血鬼というサンタクロースに襲われた。

 ゾンビが溢れかえるダンジョンに作り変えられた。

 逃げ場のない地下ライブ会場は大量ゾンビで埋め尽くされて、誰も私の歌を聴きやしない。

 バンドメンバーも演奏を止めて、ゾンビに食いつかれた。

 せっかくできた私の友達がこのままでは殺される。

 初めて心を許せた仲間が死んでしまう。

 当然私もゾンビに噛みつかれたけど、私のことはどうでもいい。


 でも仲間の命まで奪われるのは許せなかった。

 だから私は必死に手を伸ばして心臓のような紅い果実を貪り食った。

 それは街を襲った吸血鬼と同等の存在に堕ちる片道切符。

 どうせ全てを失うならば、仲間を救うために人間なんか卒業してやる。


 こうして私は怪物になった。

 この世界で史上五人目となる真祖の吸血鬼の力を得た。


「ゾンビとかどうでもいいから私の決意のライブを返しやがれぇーーーー!!!」


 瞳と髪の毛を真紅に染めて叫んでいた。

 その瞬間、地下ライブ会場にいたゾンビ達の身体が細切れに消し飛んでいく。


 さあ吸血鬼を殺す吸血鬼の生存劇クリスマスライブの始まりだ。

 レッツ鮮血のメリー・クリスマス♪

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