009:飛行魔法 回復魔法

「つまり、血反吐を吐きながら……その結果数日寝込むことになったとしても。血反吐を吐きながら、魔力を使い続ける訓練が能力値の底上げには適しているんじゃないかと思う」


 チュータが……凄く嫌な顔をした。このネズミはものすごく表情豊かだ。こんな小さな顔でよく、そこまで出来ると思う。ディ〇ニーとか、ピ〇サーの動物系CGキャラみたいだ。


「英田くんのやり方は……少しミスをすれば、命が簡単に吹き飛ぶと言われていたやり方なのよ。それこそ、奴隷制度があった頃は、使い捨てるように奴隷にその手の訓練をやらせていたこともあったみたい。そこまで宇宙怪獣の襲撃があったわけじゃないから、大ごとにならなかっただけで」


 まあ、そうだろうなぁ。人類同士の戦争の方が大事だっただろうしね。


「あ、ちなみに、座学ね。魔法使いや魔法少女の魔法が、人類の覇権争い、戦争に使われたことはほとんど無いわ。あったとしても魔法協会が力を持つ以前の話ね」


「自分が魔法使いって「気付いていない」時期に徴兵されたりしたら?」


「「気付き」もなく薄らと魔法を使えてしまうってことは、それだけ魔力が大きいってことで、潜在魔力が大きい魔法使いは、天然として、自力で「気付く」可能性が高いわ。で、気付いてしまったら、その力は戦争に使えないという「規則」に従わざるをえないのよ」


「そうか」


「あ、でも、戦争に宇宙怪獣の襲撃が重なって、戦争自体が継続不可能になったことは数回あるわね……。不自然な停戦から戦争終結に至ったみたいな」


 まあ、襲撃って完全に空襲からの揚陸戦だもんな……。しかも強いし。


 チュータの話を聞けば聞くほど、資料を見せられるほど、魔法少女「コードネーム氷姫ブリザードプリンセス」元上理亜の異常性がクッキリとしてくる。


「というか、もとが……いや、リアって、攻撃力高すぎじゃないか?」


「まあ、気付くわよね。滅私奉公にならなかった一番の理由は「リアが強いから」。これが一番噂されているわ。あと、納得もされてる」


 まあ、そうだろう。


「幾ら人類の決戦兵器、魔法少女とはいえ。敵の新種である戦闘型を簡単に仕留める事の出来る攻撃力は……確かに異常ね。貴方ほどじゃないけど」


「え? 俺ってそんなに?」


「リアがスゴイのは、銀の針なら三発程度、銀の剣なら一突きで戦闘型を仕留められる攻撃力だけど……正直、魔法少女が二人いれば、同じ事が出来るわ。でも。貴方と同じ事は天然の魔法使いが五十名いても無理だもの」


「魔力探査の複数名での使用なんて聞いたことない」


「出来ないでしょうね」


 まあ、それは……まだ候補でしかない俺でも無いだろうと思う。そもそも、探査範囲を広げるために他の人と協力ってどうやるんだろう。想像もつかない。


「ああ、チュータ、私があんな簡単に戦闘型を仕留められたのは、ピンポイントで照準指定があったからよ? 普通なら五、六回の攻撃が必要だったし。まあ、あんな一撃では無理」


「え? 誰から?」


 元上が……俺を指さす。


「他にいないじゃん」


「そんな……リアの攻撃力がまた、数段階上がったのかと……」


 ネズミが……キッ! とした表情で俺を睨んだ。


「どうやってそんな時間が……あの激しい戦い、しかも短時間で……同時処理? いえ……そもそも、戦闘型とは初遭遇だったハズよね? なのになんで、弱点が?」


「弱点が判ったわけじゃ無い。どうせ突くなら、撃つならここを狙った方が良さそうだって場所を教えただけで。それをピンポイントで貫くのがスゴイ」


「照準すべき場所……はどうやって知ったのよ?」


「え? えっと……鎧の継ぎ目? リアのメイン攻撃の氷の針は刺突剣、レイピアだと思う。細いから敵を貫く。でも、弱点を狙わなければ跳ね返されてしまうかもしれない」


「返されたこと……受け流されたことは、まあ、あるか、確かに」


「レイピアは鎧の継ぎ目を刺すことによって「中身にダメージをあたえる」剣だ。なので、戦闘型の鎧……まとっている魔力障壁? の「継ぎ目」を狙ってもらっただけだ」


「! う、宇宙怪獣の……装甲の継ぎ目……具現化した障壁の継ぎ目……魔力の? 形が……見えてる? 貴方、魔力が見えるの?」


 迫ってくる。小さいくせに、チュータの迫力がスゴイ。


「う。いや、ええと……ああ、そうだな……ごめん、なんと……なく? なんとなくそこだっていう……ああ、すまない、そんなあやふやな感覚で命令してしまって」


「けっかおーらい」


「そんな、ええ? というか、でも……魔眼?」


「少なくとも今現在、リアやチュータから魔力が見えているわけじゃないからそういうんじゃない気がするけど」


「ちょっと見せて?」


 チュータの側に顔を寄せる。小さい手が俺の瞼を広く開ける。


「うーん。色も変わってないし……魔力の反応もないし。魔眼……ではないわね。成りかけってわけでもないか」


 魔眼……か。カッコイイな。本当にあるんだ。


「魔眼……カッコよくないわよ?」


 あ。念話でちょい漏れた。


「完全に制御できていない状態だと、常に魔力を消費し続けるの。目を開けてしまえば常に発動してしまうから。だから目を瞑り、眼帯をして。通常は片眼で生活することになるし。両目に魔眼を宿してしまったら……ほとんど常に両目を閉ざしていることになるの」


「それは……大変そうだ」


「そうね……大変でしょうね……って、英田くん、貴方がおかしいのは忘れてないわよ? 普通ならそれだけリスクのある魔眼だってそんな瞬時に状況が見えるわけじゃないのに。それこそ、先読みの魔眼は自分が対峙している敵の攻撃を読めるって有名だけど、それで他人の戦闘を観ると、情報が多くなりすぎて、現実と先読みが混ざり合って混乱、脳が疲弊し……やり過ぎれば、部分が欠けて、機能障害を発症するって聞いたわ」


 ああ、なんとなく意味は分かったけど、魔眼……憧れちゃうけど、恐いんだな。


「チュータ。あまりイチイチ比較しない方がいいと思うわ。私は、私の目標を貫くために役に立ってくれるのならなんでもいいの」


「そう……ね。確かに、そうなんだけど」


「正直、俺的にはまだまだだと思っている。なんか足りない」


「貴方は何と比較して足りないなのよ」


「うーん。なんだろう。魔法の訓練とか、使ったりしていると、どこかから「足りない」「こんなもんじゃない」とか「もっともっと」っていう感情が心のどこかにいるというか」


「ヤル気満々ってこと?」


「そうなのだろうか?」


「ペアとして、バディとして、くじけたり砕けたりしてなければそれでいいわ。向上心が無いと困っちゃうし」


「それはそうね」


「俺としては……どうしてもリアよりも遅れてしまうのが気になる」


「ん、移動速度ってこと?」


「そりゃそうでしょ。身体強化の熟練度だって上だし、リアには飛行魔法もあるもの」


「そうなんだ、よな……でも、共に戦うというのなら、俺も飛べないと索敵が追いつかないというか……立体的に索敵ができないんじゃないかと」


「……」


 まあ、それはそうなんだけどって感じだろうか。


 自分が飛べれば……それこそ、今回の戦闘型が二匹、地上と上空で重なっていたのを事前に気がつけたハズだ。感覚として、空間索敵の概念を常に意識している必要がある。


「あの、あのね、結構昔から……100年以上前だと思うけど、それ位から、三次元観測の必要性は度々議論されてきたのよ。でも現実問題として実行不可、実用性が難しいということで却下され続けているわ」


 飛行魔法を訓練するには……まず、墜落の危険性を考えておかないとか。そもそも……。


「癒やしの魔法って無いのか?」


「……」


 二人が……不自然に口を噤んだ。


「癒やしの魔法、治癒の魔法、治療の魔法……それは全て禁忌よ」


「「気付き」ほどじゃないけどね」


 罪的には「気付き」の方が重いと。


「無いのか?」


「無い……わけじゃないわ」


「なのに禁忌?」


「ええ」


「ハッキリ言った方がいいよ。英田はやるから。というか、試すから。絶対」


 む。まあ、そうだろうね。試すだろうね。気付いちゃったからね。俺自身で。


「……ふう……なんて厄介な子なの……。壊れてしまった、病気になってしまった人の身体を癒やし、治す、治癒の魔法……は存在するわ。それこそ。身体強化の魔法って、自分の身体自体を強化しているじゃない?」


 それはそうだ。自分は血液を、細胞を、骨を、筋肉を、皮を、体細胞の全てを強化するイメージで使用している。


「それってさ、怪我している状態で使ったら、どうなると思う?」


 右手に傷がある状態で、強化魔法。細胞が強化されて……ああ、そうか。体細胞の持つ本来の治癒能力も単純にパワーアップするってことか。


「実際、身体強化魔法のアレンジ版で、活性化魔法っていうのを使う魔法使いもいるわ。当然、治療班で大活躍ね。優秀な人なら……裂傷とか矢傷とか数分で完治させるわ。失った血液は補充できないから、即戦線復帰とはいかないけどね」


「でも」


 ネズミが悲しい顔をする。


「それ以上は……というか、活性化は境界線の見極めが難しいの。それ以上に踏み込んでしまったら、戻って来れなくなるわ。というか、優秀な魔法使い、さらに魔法少女も……何人、何十人と、活性化魔法の使いすぎ、命を落とそうとしている人を助けようとして、自分の命を投げ出したわ」


「美智子は、死にたくなかったでしょうけど、大きな選択をして、自分の意志で行動したわ。それは、それだけ考える余裕があった、判断する余裕があったってことよ。でも活性化魔法の延長線上にある治癒魔法は……なんの意識も無く、ハードルを越えてしまう」


 頷く。


「私も……その現場にいたら悩んでしまうと思うけれど、死にかけている魔法使いと一般人、どちらを先に助けるかっていう選択を迫られる場合があると思うわ」


 それはそうだろう。そんなのどうすればいいのか、良く判らない。どっちも助けたい。


「治癒の魔法が必要とされる場所は、そういうギリギリの選択が複雑に絡み合っている場所である可能性が高いのよ」


「なので、みんな、簡単にハードルを乗り越えて……命を失うってわけ」


「魔法少女だろうと、魔法使いだろうと。魔法を使える者は死んじゃいけないの。とにかく生き残って、とにかく多くの宇宙怪獣を仕留めないと。でないと、ヤツラが他の人間を食べてしまう。捕食されてしまう。それを許し続けたら、最終的に人類は淘汰されてしまう」


 それな。


「判った。つまり、治癒の魔法は、活性化止まりにしておけってコトだな?」


「ええ。それも、自分で自分に……はあまり使用しない方がいいわ。慣れてしまうと、現場でどうしても手が出てしまうから」


「判った」


 ならば。飛行魔法は墜落しないように……万全の注意をしながら、徐々に空へ羽ばたいていくしかないか。


 階段……を作り出して登っていく……んじゃなくて、足場を作って、それを順番に走破していく方が、空を飛ぶに近くなるのか? 空を駆ける? それでリアに追いつけるのか? ジェットエンジンの様に後方へエネルギーを放って、その反動で前へ進む、飛ぶっていうのは……いきなり大量の出力が必要になるし……実験も難しいか。


 上手く駆使するとしたら、風の魔法……なんだろうな。風の力で自分の身体を押す。二階とかから飛び降りて、風の魔法で衝撃を吸収させて綺麗に着陸するっていうを発展させていけば……なんとかなないだろうか?


 ちなみに、さっき目の前で見せつけられたリアの固有魔法を使った飛行は……何をしているのかが一切認識出来なかった。まあ、多分全てがゴチャゴチャになって同時に発動している感じなんだと思うけど。俺にはこんがらがった毛糸をほぐすことが出来なかった。 


 一つずつ……付加を加えて、試してみるしか無い。か。


「あ。なんか、違う方向でヤバいこと考えてる」


「う。いや、そんなこと無い」


 ダメだ。念話の練度が低くて、どうしてもリアとチュータに感情が漏れてしまう。


 


 


 



 




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