第10話 妹だって実は隠れヒロインなのだ。


 家に入ると、すでに親父はいなかった。

 俺は義母に聞いた。


 「母さん。単刀直入に聞くけど、俺と紫音はホントは血が繋がってないの?」


 すると、母さんは驚いた顔をした。

 テーブルにつくように促され、俺が座ると、コーヒーを淹れてくれた。


 少し長くなりそうだな。

 きらりに連絡しておいて正解だった。


 母さんは言葉に困っているようだった。

 きっと、母さんにとっても話したくない内容が含まれているのだろう。


 「何から話そうかな。あのね。わたしがお父さんと出会った時、実は、お腹の中には子供がいたの」


 母さんは両手をマグカップに添えている。

 コーヒーの湯気が何度かユラユラすると、母さんは話を続けた。


 「わたし、その人にひどい捨てられ方をしちゃってね。そうちゃん、もう大人だからいうけど、いわゆるヤリ捨てっていうのだよね。んでね。わたし不安で変になっちゃって、死のうと思って、ホームにいたのね。そしたら、お父さんがギュッと抱きしめてくれて……(以外、略)」


 散々、のろけばなしを聞かされた後、話はようやく核心に至った。


 「その少しあとに、赤ちゃんがいることが分かって。時期的に、わたしを捨てた人の子だなって。でも、お父さん、自分の子供として育てるって言ってくれたの」


 「じゃあ、要は、俺と紫音は血が繋がってないってこと?」


 母さんは頷いた。


 「紫音は……そのことを知ってるの?」


 「知ってる。割と早く、中学生の頃に気づいたみたい。でもね、そうちゃんには言わないでって釘を刺されたのよ」


 「どうして?」


 「他人なのは寂しかったみたい。あなたに本当の妹と思って欲しかったのよ」


 そっか。

 家族の中で知らなかったのは、俺だけだったらしい。ちょっと疎外感だ。


 「もしかして、紫音、俺のこと……」


 「気づいたのね。そう。きっと、あなたが思った通り。あの子は言わないけど、わたし母親だから、娘の恋心はわかっちゃうのよね」


 母さんも気づいていたのか。


 「…うん」


 「あの子、家でも髪を結ったり、メイクしてみたり。部屋着も、いつも可愛いの着てるでしょ? そうちゃんにカワイイって思われたいんだと思うな」


 たしかに、家なのにツインテールにしてみたり、猫耳つけたり可愛いジャージを着てる時は多い。ただのオタク趣味なのかと思ってたよ。頭ボサボサのTシャツ短パンの時もあるけど。


 「おれ、どうやって紫音に接したらいいか分からないよ」


 「ん。普通に妹として接してあげて。あなたに事実を言わないでって言ったのは、他でもない、しおんちゃんなんだし」


 はぁ。

 事実は小説より奇なり、だよ。


 その紫音が俺に馬乗りになっていたなんて、母さんにも言えん……。


 母さんは悪戯っぽく微笑んだ。


 「もし、もしの話よ。しおんちゃんもお年頃だし、男の子と女の子だし、雰囲気でそういうことになっちゃったとするじゃない?」


 おいおい。

 とんでもない仮定ぶっ込んでくるな。


 もしも過ぎるだろう。


 「そういうことって?」


 「それは、そういうことよ。赤ちゃんできちゃうようなこと」


 あー、やっぱり。

 そのまんまのそういう事なのね。


 母さんは続けた。


 「でもね、安心して」


 いやいや。

 何一つ安心できないんだが。


 しかし、そんな俺を置いてきぼりにして、母さんは続ける。


 「当時ね、お父さんとわたしは韓流ドラマにハマっていてね」


 もはや、この人がどこを目指してるのか分からん。おかあさん。ぼく、遭難しそうです。


 まぁ、もう聞きに徹しよう。

 母さんは無慈悲に続けた。


 「よくあるじゃない。ドラマで義兄妹が恋に落ちるの。わたしも赤ちゃんできて困っちゃった経験あるし、紫音ちゃんが、そうなったら可哀想だなって。それでね。あの子、お父さんとは養子縁組にしたのよ」


 「それってどういう?」


 「兄妹だけど、あなたたちは結婚もできるの♪ ……嬉しい?」


 まじか。

 俺は自分の顔が引きつってるのを感じた。


 実子にできるのに養子にしちゃったことの方が可哀想で大問題な気がするが。


 もっと実子のことを考えてやれよ、って気はするけど、紫音が事実に気づいた今とはっては、ファインプレーってことなのかな。


 「……なんか母さん、紫音の応援団になりそうだな」


 「だって、義兄妹の儚い恋……、韓流ドラマみたいで素敵じゃない。憧れるわぁ。そうちゃんがそのまま紫音ちゃんを支えてくれたら、わたしも安心だしー」


 母さんは、なんだかご機嫌に見える。

 どうせ親父もグルなんだろ。


 ほんと軽いな。この人達。

 母さんは勝手に納得して頷いている。


 「でも、そっか。やっぱり、そうなのね。あの日のわたしグッドジョブ。まぁ、そういうことだから」


 「このことは、紫音は知ってるの?」


 「知らない。伝えるかも貴方に任せるわ」


 丸投げ来たよ。

 まじで、悩みがより深刻になってしまった。


 まぁ、しおんよ、俺の上で発情してたお前は、ある意味、雌として正常だったってことだ。


 すると、しおんからメッセージがきた。

 

 「さっきはごめんなさい。あの……、これからも変わらず仲良くしてほしいよ。大切な話があるの。夜に時間作ってくれないかな?」


 あー、この人、なんか女子モードだよ。

 どうしよ。


 大切な話ってなんだよ。


 分からな過ぎて、ゲロはきそ……。

 

 

 

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