第249話 彼女でさえ知らない
「結論から申し上げますと、私は『怪盗アルセーヌ』、もしくは『怪盗ルパン』と言う単語を文献で見かけた事は一度もありません。……初めて聞きました」
クノハルはオレ達から事情を聞くと、しばし考えた後にこう答えた。
オユアーヴが顔を引きつらせて、
「精霊獣のお言葉は可能な限りに記録されるはずだ。ましてや俺達が聞き慣れぬ言葉ともなったら……。なのに、どう言う訳だ?」
オレ達は無音通信の機械越しに訊ねる。
「念のために聞くが、ロウが『怪盗アルセーヌ』だと言う事は無いだろうな?」
『おい。俺が盗人になったら真っ先によろず屋の赤字経営を何とかするぞ』
パーシーバーもプリプリと怒った声で、『念のためだろうと何だろうと、大事な仲間を疑うなんてテオ、酷いわ!後でこのパーシーバーちゃんがロウに代わってお仕置きしてあげる!そうね、まずはお尻をペンペンして、泣き叫ぶまで足の裏と脇の下をくすぐって……っ!』
相変わらず良く喋る精霊獣だ。
「それも、そうだ……」
よろず屋アウルガは相変わらずの赤字経営、まだ潰れていないのが奇跡的なくらいだからな……。
『それにね、パーシーバーちゃんは革命の時に処刑されちゃったのよ!「怪盗アルセーヌ・ルパン」なんて登場人物が出てくる本なんてこれっぽっちも知らないわよ!……それで、どんな恋愛小説なのかしら?』
やっぱりパーシーバーはそこに食いついたか。
『いや、冒険とミステリーが大半で恋愛要素はそこまででも』
オレが説明するとパーシーバーはわざとらしい溜息をついて、
『そんなの、このパーシーバーちゃんが読む訳無いじゃないのーっ!』
根っからの恋愛好きだからなー、パーシーバーは……。
オユアーヴが、はたと手を打った。
「精霊獣ドルマーの関係者かも知れないぞ」
『そりゃーあり得ないですぜ。オユアーヴさん!』ゲイブンが大声を出す。『ホーロロでそれなりに楽しくやっているって、またおいらに手紙をくれたばかりなんですぜ!?』
「ええ、ようやく安定化しつつあるホーロロ国境地帯の宗主とも呼べる存在が、自らその足場を崩しにかかると言うのも考えにくいですね……」
クノハルはまだ考えていたが、
「テオ様。可能性として唯一残っているのは、ベリサです。先帝の元に引き取られたとは言え、彼女には精霊獣を従えていた頃の記憶があります。一度、きちんと確認した方が宜しいかも知れません」
「しかしベリサは、もう歩けなくなった上に……」
オユアーヴが言いづらそうに呟いて、黙る。
「……ですが、現状は他に当てもありませんので……。とにかく私はベリサ絡みの情報を集めてみます」
少し目を伏せてから、すぐさま立ち上がるクノハルにロサリータ姫も続いた。きっとレーシャナ皇后様の所へ行くのだろう。
「ええ、私もそれとなく調べてみるから。また何か分かったらみんなに報告するわね」
『俺は怪盗アルセーヌについて調べるとしよう。……だが、奇妙だな』
と、ロウは呟いた。
何が奇妙なんだ?
歩き出し始めていたクノハルやロサリータ姫も立ち止まって、振り返る。
「ロウさん、奇妙だなんて……どうしたの?」
ユルルアちゃんが不思議そうに訊ねると、
『てっきり義賊ってのはいけ好かない大金持ちや高飛車な貴族の貯め込んだ金品を奪っては、貧しい民衆に惜しみなく分け与えるものだと俺は思っていた……』
クノハルが考え込んで、独りごちるように言った。
「……確かに、義賊と名乗る割には巷での知名度が異様に低いですね。義賊なんて格好の噂、民衆が真っ先に飛びついて、英雄さながらに持てはやしそうなものなのに……」
『ああ。なのにだ、テオ達から回ってくるまで、俺が何も知らなかったんだぞ。……「怪盗アルセーヌ」は本当に義賊なのか?』
「それも含めて確りと調べよう」
オレ達はみんなに告げた。
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