紫雷刀使いのアヤメ

うまチャン

 

第一章 もう一つの世界

プロローグ

 普通の一歩を歩んだだけなのに、彼の目の前の景色はあっという間に色が失われた。しかも、音や違和感のような前触れも全く起こることもなく。


『あらら〜? こんなところに、何故普通の人間がいるのかしらねぇ』


 突如として現れた、見たこともない化け物。ドロドロに溶けたような体に、頭が上からちょうど半分垂直に分裂してしまっている姿だ。


「う、うわあああ!!」


 思わず彼は腰を抜かしてしまい、振り絞ったような声を上げた。


『しかもあなた……。随分と素晴らしいものを体の中に隠しているようねぇ。これはどう見てもラッキーにしか思えないわ! あらま、なんて今日は良い日なんでしょう! あなた運が良いわねぇ』


 怯えている少年のことなど気にせず、目の前の化け物はジリジリと詰め寄り、まじまじと観察した。どうやら、その化け物には彼の体の中にあるものに興味がある様子。

 そしてその正体が分かった瞬間、化け物は不気味な笑みを浮かべた。


「な、何が――――」


『本当に運の良い人間なこと。それでは、あなたのを頂いちゃうわねぇ!』


「――――!?」


 そう言った瞬間、ドロドロに溶けた不気味な手を少年に向かって伸ばした。

恐怖のあまり、完全に硬直してしまっている少年は抵抗もできず、ただ化け物を見つめる事のみ。

 自分は死ぬのかもしれない。少年の頭にそれがよぎると、目が潰れてしまいそうになるほど瞼を瞑った。

 しかし、何も起こらない。少年は恐る恐る目を開けると……。


「随分と楽しそうじゃない」


『――――ぎゃああああああああ!!!!!!!!』


 その化け物の胸元には、ビリビリと稲妻が走る刀が刺さっていた。そして、大きな断末魔とともに、化け物は少年の目の前から灰のように消えてしまった。


「あ、ありがとうござ――――えっ?」


「あれ? もしかして……。何であなたがこんなとこにいるの?」


 助けてくれた人物にお礼を言おうとした少年だったが、あまりにも見たことがある顔だったため、思わず口を止めた。

 これが、少年と同じクラスで謎が多い少女、藤原 あやめの裏の姿を知った瞬間であった。

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