凡人の狂人~僕が天才に勝るには、何度も死線を超ればいいだけだ~
たんぽぽ
第0話 世界の終わり(読み飛ばし可)
その日、空は赤黒い色に染まった。
欧州の中央部、古びた廃工場跡地に集まった人々は、目の前の光景に言葉を失った。直径500メートルを超える巨大な渦が突然空間に現れ、その中心からは闇色のエネルギーが絶え間なく吹き出していた。デモニック・ゲート—後に人類がそのように呼ぶようになる異次元の裂け目は、この世界に災厄をもたらす始まりであった。
周囲の大地が震え、耳をつんざくような轟音が響き渡る。空気は急激に冷え込み、次第に異様な紫色の霧が立ち込める。近隣の街の住人たちはパニックに陥り、ただ無我夢中で逃げ惑った。
「これは一体……なんだ?」
その場に残った一人の作業員が呟いた。その声は、嵐のような風と轟音にかき消される。だが彼が何かを言い終える前に、それは現れた。ゲートの中心から這い出してきたのは、不気味に輝く無数の目と鋭い牙を持つ巨大な獣だった。
叫び声が上がる。その瞬間、最初の血が流れた。獣は目の前の人々に飛びかかり、その強靭な顎で一瞬にして彼らを引き裂いた。次々と現れる同様の怪物たちが、破壊と死をもたらしていく。
やがて、廃工場跡地は悪魔たちの巣窟と化した。そこにはもう、人間の気配はなかった。
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デモニック・ゲートが出現してからわずか1週間で、周囲の風景は一変していた。廃工場だった場所は、黒曜石のように硬い不気味な材質で作られた異形の要塞へと変貌を遂げた。建物の壁面には無数の棘状の突起が生え、空には黒い雷雲が常に轟いていた。
この現象を目の当たりにした科学者たちは、事態の深刻さに震え上がった。ゲートから放出される謎のエネルギー—人々はそれを魔力と呼ぶようになる—は、この世界の物理法則を著しく歪めた。重力が不規則に揺れ動き、悪夢のような幻覚に苦しむ人間も急増していた。
しかし、それだけではなかった。このゲートを中心とする区域—「魔界化区域」と名付けられたその土地では、動植物が異常な進化を遂げていた。通常の生態系を超越した存在が次々と生まれ、その多くが人類に敵意を向けた。
悪魔たちは留まることを知らなかった。彼らは村々を襲い、町を焼き尽くし、その残骸の上に新たな巣を築いていった。目撃者たちは、彼らが単なる破壊者ではないことを理解し始めた。悪魔たちは目的を持って行動していた—その目的が何であるかは、まだ誰にも分からなかった。
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最初のデモニック・ゲートが出現してから1ヶ月。世界各地で同様のゲートが次々と発生した。その数はすでに20を超え、それぞれの場所で独自の魔界化が進行していた。
日本—東京都千代田区。
東京の中心、大手町に現れたゲートは、その巨大さと異様さから「虚栄の塔」と呼ばれるようになった。政治と経済の中枢を象徴するこの地に現れたゲートは、周囲の高層ビルを次々と呑み込み、それらをねじ曲げて悪魔的な要塞へと変えていった。
空は暗赤色に染まり、地上には無数の裂け目から紫色の霧が立ち昇った。住民たちは逃げ惑いながらも、魔力の影響で錯乱状態に陥り、互いを攻撃し始めた。避難できた者は幸運だった。多くの者は、この地で悪魔の餌食となった。
「おい、逃げろ!ここは……」
避難を呼びかける声も虚しく、悪魔たちの進行は止まらない。虚栄の塔を中心に、魔界化区域は日を追うごとに広がり続けている。
世界各国の政府は、ゲートの進行を食い止めようと必死に対策を講じた。最初に動員されたのは軍隊であり、最新鋭の戦車や戦闘機が投入された。しかし、その結果は人々に絶望をもたらした。ゲートから放出される魔力は、現代兵器の性能を完全に無効化してしまう。弾丸は目標に届く前に軌道を歪められ、ミサイルは発射直後に自壊する。人類が誇る軍事力は、魔界の力の前では無力だった。
ある将軍が言った。
「この戦争は、これまでの戦争とは異質だ。我々の敵は物理的な存在ではない。まるで神話の怪物と戦っているかのようだ。」
それでも、人類は絶望に沈むばかりではなかった。科学者たちはゲートや悪魔の本質を解明すべく研究を進め、やがてそのエネルギー源である「魔力」に焦点を当てた。そして徐々に、魔力を制御し、利用する技術が開発され始める。魔力を動力源とする兵器や、悪魔の弱点を突く術式が生み出され、反撃の道筋が見え始めたのだ。
だが、それらの技術がもたらす希望の陰には、多くの犠牲があった。魔力研究の過程で、多くの科学者や兵士が命を落とし、あるいは魔力の影響で精神や身体を蝕まれた。人類が新たな戦力を得るたびに、犠牲者の悲鳴が静かに積み重なっていった。
ゲートの出現に呼応するかのように、世界各地で多くの人間が「魔力」に目覚め始めた。彼らは通常の人々とは異なる感覚を持ち、周囲の魔力を感じ取り、操る能力を得ていた。この新たな力に目覚めた者たちは、やがて「魔術師」と呼ばれるようになり、人類の反撃における希望の象徴として注目されるようになった。
しかし、魔力を完全に制御し、それを攻撃や防御に活用できる者の数は極めて少なかった。多くの魔術師が、魔力を扱いきれずに、戦うことすらできなかった。一方の人間は依然として魔力に適応することすらできず、魔力がもたらす混乱や恐怖に翻弄されながら生き延びる術を模索するしかなかった。
人類の希望を託された魔術師たちの存在は、戦いの局面を変える可能性を秘めていた。しかし、それが万人に与えられる救いではない現実が、状況の過酷さをさらに浮き彫りにしていた。
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