第2話 俺、龍になっちゃうの?
分かってる。俺に断れるような選択肢は無い。フィンディアに行かされることになるんだろう。でも、その前に確認しておきたいことがある。
「分かった。フィンディアに向かう。でもその前にいくつか聞かせてくれ。」
『ほう、何だ。言ってみろ。』
「まず、何で俺なんだ?」
『お前が “器” の系譜を継ぐ者だからだ。』
「器?」
『そうだ。器は一子相続の宿命を持つ存在だ。器には根源の力が宿るが、同時に生まれつき霊力を持たねぇのさ。』
霊力ってのはマナと考えればいいのか。
なるほど、確かに俺は霊力(マナ)を持たない。これは無能だからじゃなく、器だからってことか。
「でも、なんで突然俺が “器” なんて大層なもんに選ばれた? 今までの器はどうなってた?」
『千年前の戦いで、先代の器は次元の違うどっかへ飛ばされやがった。で、そのまま戻らなかった。貴様の親父はそいつの子孫だ。千年ぶりに “器” がこの世界に戻ってきたってわけよ。』
あれ? てことは親父はマジで異世界から来たのか?
『だが、奴はゴミを食らい、それがきっかけで霊力に目覚めちまった。結果として “器” の資格を失ったのさ。だから、貴様に引き継がれたってわけだ。』
なるほどね。何となく話は分かったわ。
「……で、俺は何をすればいいんだ?」
『とりあえず、そのままじっとしてろ。今行く。』
行く?
そう言ったかと思うと、始祖龍の体が再び黒い霧に変わり、目の前で渦を巻く。
次の瞬間――
霧が俺の口へと、勢いよく侵入してきた。
「っっっ!!!!!!」
――息が出来ない。
喉を塞ぐ感覚とともに、窒息しそうになり、視界がどんどん暗くなっていく。
そのとき、頭の中に始祖龍の声が響いた。
『よし、完了だ。』
涙目になりながら、俺はどうにか言葉を絞り出す。
「何が……」
『貴様は始祖龍化が始まった。それが深まるほどに俺様の力を引き出せるようになるだろう。』
荒い呼吸を整えながら部屋を見回すと、さっきまで漂っていた黒い霧は完全に消え去っていた。
「始祖龍化……?」
『俺様を受け入れたことで、現状10%だ。龍眼が発動しているはずだぞ。目に霊力を込めて、自分の体を見てみろ。』
「霊力を込めるって……どうやるんだ?」
『感覚で分かるさ。力を集中する感じでやってみろ』
言われるまま、俺は目に意識を集中させ、力を込めてみる。
そして、自分の腕に視線を向けると――
視界に薄い光が広がり、まるで透明なスクリーンが目の前に現れたように、静かに揺れる光の文字が浮かび上がった。
――――――――――――――――――――
種族 : 始祖龍化進行中(10%)
スキル:【龍眼】 瞳に映った者の情報を開示
特性 : なし
――――――――――――――――――――
「……何だこれ?」
驚いて目から力を抜くと、文字はスッと消え、視界は元に戻った。
『どうだ、貴様の情報が見えただろう? 始祖龍化が進むにつれて霊力は増し、新たな能力を手に入れることができるようになる。』
……ほう。なるほどね。
やべぇ、これ楽しいかも。
「始祖龍化ってどうやれば進んでくんだ?」
『色々、条件がある。教えてやってもいいが、まずは自分で探せ。その方が楽しいだろ?』
「……まぁ、確かにそうかも。」
◆◆◆
一通り落ち着いた頃、部屋の外から何やらざわめきが聞こえてきた。
何かあったのかと気になり、俺はドアを開けてみた。すると、廊下には武装した騎士たちが集まっている。
「ん? 何かあったのか?」
目の前に立つ騎士に声をかけると、彼はピシッと姿勢を正し答えた。
「はっ! 王子の部屋から禍々しいマナの発生を感じ取りましたので、何か異変があったのではと突入の判断を迷っておりました。」
「ああ、大丈夫だよ。もう消えただろ?」
「はい、確かに……。ですが、一体何が?」
「親父から貰ったプレゼントを開けただけだ。持ち場に戻っていいぞ。」
「し、承知しました。……ですが王子、どこかお変わりになられたような……。」
「ん? そうか? どう変わった?」
「何と言いますか、その……失礼にあたれば申し訳ございませんが、まるで――全く別人のようにお見受けいたします。」
「ほう、そう見える? だったら、そうかもしれないな。」
呆然としたままの騎士を横目に、俺はニヤリと笑ってドアを閉めると、フィンディアのことが書かれたおとぎ話の本があったことを思い出し、本棚を漁ることにした。
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