魔蓬の言葉

皇 遊李

一 ∮君

僕は今日も何気ない日々を送っていた筈だった。学校に着くと、授業があるまで机に伏せていたのだが、全く接点のない女子Aさんがいきなり話しかけて来た。僕は戸惑い言葉が出せないでいるとAさんが「ねぇ、知ってる?」と言い僕が返事をする前に勝手に話を始めようとする彼女をすぐに止めることが出来ず、仕方なく聞き始めた。


二重人格ってあるじゃない?

あの人格が2つあるやつ。

あれって本当にあるのかな?だって自分という存在は1人だけだし、有るとしても科学的に説明できないじゃん。別に私達が真似しようと思えば簡単にできるじゃない。

えっとね、それで、実際に二重人格は存在するという事を科学的に証明しようとした人がいてね、その人まあ、某さんってしてことにして、その某さんは自分が二重人格になりきることでプラシーボ効果っていうのかな、実際に二重人格になれるんじゃないか、そしたらその存在を証明出来るのではないかと考えたんだって。

某さんは仲間に自分のモニタニングを頼んで実際に二重人格者になりきり始めたらしいよ。某さんは真似る中でもう一人の存在を∮君(ファイ君)と定めたんだって!

確か、∮君のキャラクターは、えっと、ちょっと書くね。


∮君  年齢 14歳  性別 男

性格  臆病で悲観的だが、たまに陽気

趣味  人間観察 将棋


こんぐらいしかかけなかったテヘへ。

それで某さん、実演していくんだけど、馬鹿らしく思っていて某さんと仲間たちは必死に笑いをこらえていたんだって。

某さんはね、最初から二重人格については猜疑心を抱いていたらしくてそもそも証明できっこないって思ってたんだけど、事態は思わぬ方向に行ったんだって。


ある日、某さんは非常に震えた様子で仲間にしがみつき、∮君が私の脳を乗っ取ろうとするの、って言ってきたんだけど仲間たちは適当に返事をしてその日の実演を開始したんだって。

某さんは困惑した顔手でいつも通り∮君になりきりったんだけど、仲間たちはAさんの面影が無いことにすぐきづいた。

恐る恐る仲間のひとりが∮君と言うと、某さん自身なのに全く某さんではない別の人が返事をした。声、生体的特徴はほぼ一致しているのに仕草は別物だった。仲間たちは互いに喜び合い実験の成功を得た。

∮君は実演時間が終わると自動的にAさんに戻っていた。

某さんは記憶が無いらしく仲間の一人が撮影していたものを見せると、某さんは震え始め、指を差した。これは私ではないと。仲間たちも某さんの姿を見れば二重人格証明どころの話では無いと感じた。

仲間の一人が言った。某さん、もしかしたらあんたの中の∮君、このまま居続けるかもよ。某さんは自分の軽いノリが招いた事態で有ることに後悔をした。私達はてっきり思っていた、いや、真実だと思っていなかった。猜疑心が私達の心を狂わした。幼少期のストレスだけではない。


それから某さんは実験をやめた。仲間たちももはや某さんに言う言葉が思い浮かばなかった。某さんは時折∮君の姿を映し出すスクリーンになった。

某さんは∮君と共に生きているのが気持ち悪いらしい。存在しないと見くびっていたものに体が蝕まれている気がして。


ただここで終わらなかった。

仲間たちは某さんにバレずにまだモニタニングをしていた。すると、∮君の発生回数が徐々に増加していることが分かった。仲間たちは仮定を述べた。

      

      もし、この現象が続けば某さんは∮君になる。


この事態となると私達は禁忌に触れてしまったも同然であり、何より某さんの安否に関わる事だった。そこで∮君を追い出す為、作戦を練った。

刻一刻と∮君の侵食が進む中、ある研究者はとんでもない発言をする。

∮君に催眠をかけて存在そのものに対して懐疑させ、自身はありもしないものであることを示し消滅させる、と。

とんだファンタジーのようなものだが二重人格も私達にとってはファンタジー。同じ世界に介入しないと其れは残り続けてしまう。

仲間は早速某さんの下へ行き、∮君と話をしたいと言った。

某さんは怯えていたが、仲間たちの顔を見る決意を感じ、承諾した。

某さんは慣れたように∮君を呼び起こした。思ったより早かった。多分それだけ某さんの存在は∮君の存在に生気を奪われているのであろう。

∮君、君はどこから来たのかい?

仲間たちはまず出処を聞いた。

∮君は口を開けたが言う言葉が無かった。

それもそうだろう、私達が意図的に作り上げたのだから。

∮君、君は好きな人がいるのかい?

∮君は言った、僕は某さんが好きだと。

仲間は続けた。

∮君、君の姿を君は頭の中で想像出来るかい?

∮君は黙り込んだ。仲間はチェックメイトだと思った。

∮君はいっときすると言った、鏡貸してください。

仲間は∮君に鏡を貸すと∮君は自分の顔を見た。∮君は激しく動揺していた。

僕は某さん?君たち騙してるのか?

仲間たちは鏡をとって自分の姿を映した。

∮君はとても困惑しブツブツ独り言を言っていた。

僕は、僕は、∮。違う。僕は僕は僕は、、、、某さんなのか?

仲間は言った、それが真実。私達も悪いことはした。君はただ、偶然生まれた存在に過ぎないのだ。∮君は黙って天井を眺めていた。

ごめん∮君、こうするしかないんだ。


その後はというと某さんは元通りに戻り、仲間たちもふっと胸を撫で下ろしていた。あれは何だったんだろう。∮君とは?

仲間の一人は∮君の存在を考えていた。あれは偶然生まれたのか。某さんは別に演技の素振りは全くなかった、あんな顔仕草なんて某さんにできっこない。

きっと∮君は私達の持つ興味、好奇心、恐怖の融合体でそれがプラシーボ効果と相まって現れたのだろう。

しかし、それでは証明できないことが一つある。

なぜ私たちの脳裏に∮君の姿がちらつくのかということである、、



Aさんは話をしめたときにちょうどチャイムが鳴った。僕は、先生が教室に入ってきたのを見て、先生の方に注意がいった。朝のホームルームに終わるとAさんになんでこの話をしたのか聞こうとしたのだがAさんは教室にいなかった。近くの人にAさんに何処にいるか尋ねるとAさんなんてクラスにいないわよというばかり。僕は少し疲れているのかもしれない。また机に突っ伏した。するとAさんが何故か僕の前に現れる。えっ、今机に突っ伏しているのに?

嗚呼、分かった。Aさん、さては君は僕の中にあるありもしない虚構の存在なんでしょ。そしたらAさんは不敵な笑みを浮かべた。

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