Faded X-mas
花森遊梨(はなもりゆうり)
Fadedとは色褪せたの意
12月25日 Xmas(クリスマス)
ラブホテル アモーノレ
ラブホテル。人間が愛し合ったりそのままコウノトリさんを迎え入れる、いわば人間の繁殖地。
そしてその内装はオシャレ。そしてお風呂は大きく、アメニティもやたら充実、防音も抜群。
ラブホテルは本来の目的が目的なだけに楽しみに使えるポテンシャルを秘めていると、平山珠緒は初めて知った。
「マンションの配管が寒さのせいで裂けちゃって断水に?」
「そう、だからクリスマスなのに水を使うためにホテルで一夜を明かそうと悲壮な決意を秘めていた時にまさかの女子会!天は私を見放してはいなかった。でも、丹は両親がいるし恋人とかいないならそっちと一緒のほつが
「心配ないよ、ちょっとばかり一家離散したから」
「はあ?」
一家離散。「ちょっとばかり」の後に出てきて良い言葉ではない。
「23日に私が運転して家族でドライブに行ってその先でお父さんとお母さんと私で大喧嘩になってさ…」
ー汚れる裏道を通るな、俺の車だぞ!!
ー週に4回も外食に行ってるくせに車の修理代の心配?なにかあってもそのつまんない見栄よりよっぽど安いと思うけどね?
ー飲みに行かなきゃ家の金が減らねえと思ったら大間違いなのよ!金勘定もロクにできねえノータリン男が!
ーおまえこそ弁護士バッジをぶら下げてるくせに訴状すらかけないエターナルパラリーガルのくせに!
そして…
「「「こんな家に居られるか!年明けまで実家に帰らせてもらう!!!」」」
「で、しばらく家に帰らないことにして、今日はクリスマス。少しはらしいことをしなくちゃってことで萌葱とタマさんにも声をかけたの」
「車に一緒に乗って大喧嘩って…丹とご両親は闘魚か何かなの?」
「春と夏と秋にも家族で出かけた先で大喧嘩になってこんな感じになったし、とっくに慣れっこだけど?」
「……」
流石のタマさんも閉口である。そういえば、そんな自分の両親は自分に受験以外は何ひとつさせようとしなかった半面、家で大喧嘩とかは意外なことに全くなかったように思う。まぁ、家の外では両親こそが「暴力こそが最強の世界言語」なバイリンガルだった可能性は否定できないが、少なくとも私の独立を機に熟年離婚もせず、いまだに婚約関係を継続しているあたり、かなり高レベルなコミュニケーションをとっているのかもしれない。
「萌葱は?いつものメンツを呼んだならあっちも来てるはずでしょ?
「萌葱はクリスマスだからと親が友人たちと家で乱れ交わりパーティーを企画したので家を出てきたって話していたよ。参加者の平均年齢が47歳なこと以外は聞けてないけど…」
「諦めなければいつだって熱いクリスマスが送れる、なら私たちもこんなところで諦めてばっかいられないね。…じゃなくて、萌葱は!どこに行ってるのかって聞いてるの!」
加えて、あの辺りの年齢はジョギングしてたら死亡、家の中で転んだら死亡、風呂に入っていたら死亡のリアルスペランカーになるのだからあまり無理はしないでほしいと思わずにはいられない。
「萌葱はケーキを買いに行ってるよ。カンナビデムっていうクリスマスでも値段を上げないうえに食べると幸せになれるケーキ屋さんに行ってる」
「カンナビデム?会社の最寄り駅にそんな名前のお店があったような?」
それとともに頭をよぎるクリスマスイブの記憶。
―駅ナカのイートインコーナーは若い男女で埋め尽くされ、クリスマスらしく舞いあがっていた。甲高い声で笑いあい、突然テーブルに乗って踊りだしては、ふらついて転げ落ちる。髪を染めた男たちは半裸のままヘドバン踊り、ピアスの女たちも腕をクロスし…とまあ、まさに狂乱の宴と呼ぶにふさわしい。その店の名前は「カンナビデム」
「ただいまー」
その声と共に立派な紙袋を下げたジャージの女が部屋に戻ってきた。彼女こそが両親が熱いクリスマスを送っている緑田萌葱その人である。
「頼まれてたカラフルホワイトチョコレートケーキとストロベリーレッドドレスとミルクレープオブアンイコール、買えたよ」
立派な紙袋を下ろした。
「ありがとう。この前はケーキにコー◯コーナーの2倍の値段なんて払わないなんて怒ってごめんね」
私は思う。もしかすると、このカンナビデムのケーキはなんというか、
「さ、タマさんの分もちゃんと用意おいしいものを食べて全てを忘れよう」
「クリスマスなのに悪い事の方が圧倒的に多い、そこに食べれば幸せになれるケーキ。トータルで幸せになれるものなんて、そうそうあるもんじゃあないんだからさ?」
「ヤバい」のではないだろうか…?
いよいよ、禁断のケーキ、望まぬ披露目である。
冬の長期休暇は、時として人家庭に不和をもたらすこともある。そんな時期に祭り事の日があるのは、
こうやって「全てを忘れる」ためなのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます