第21話 帰還
でかくて硬い亀との戦闘を終えた後、引き返してダンジョンの入口まで帰還。
今はダンジョンを後にして、仕立て屋へと戻っている道中だ。
「絶縁体って言葉を友達が使うと少し不安になりません?」
「いきなりどうしました」
「電気工学部の学生たちは内心穏やかじゃない日々を過ごしているんだろうなと」
「確実に確信的に杞憂ですね」
「そのくらい今は不安な思いでいますよ。合わせる顔がないとはこのことですね」
「整形でもして顔をすげ替えますか?」
「整形ってそんなアンパンマン感覚で顔交換できましたっけ」
「ジャフおじさんに頼んでみましょう」
「その御仁、ロードサービスしかしてくれなさそうですけど大丈夫ですか」
「社不おじさん?」
「パン工場の長の社会的地位をそこまで貶めないでください」
パン工場をほとんど二人と一匹で切り盛りしている苦労人なのに、そんな言われよう不憫でならない。
「何にしても貴方の考えすぎですよ。もしめっためたに言われたら私が慰めてあげます」
「女神様が女神に見えてきました」
「女神です」
どんなときも心の支えになってくれる女神様がいる。もしやこれは異世界において最強なのではないだろうか。
強力な後ろ盾をいただいたメンタルが回復。心強さもアップした。精神面のヒールとバフは女神様にお任せあれ。
ちょうどそんなタイミングで仕立て屋が見えてくる。
申し訳なさは完全には拭えないがうじうじしていても仕方ない。覚悟を決めて扉を押し開けた。
「ただいま帰りましたー」
ダダダダと、奥から走ってくる音が近づいてくる。
「テントさん!おかかえりなさい!!」
「なんかおにぎりの具みたいだったけど、ただいま」
突っ込まんばかりに飛び込んできて出迎えてくれたのはマチだった。
そのままひしっと手首を握られる。マチ式本人認証システムだろうか。
「お怪我、ご病気はありませんか」
「おかげさまで息災なんだけど、ごめんマチちゃん。もらったお守り壊しちゃいました」
「む、むむむ!」
誠意をもって素直に謝ることが最善策だと思っていたが、何やらマチの表情はご機嫌斜め。可愛らしい唸りも聞こえてくる。
何か選択肢を誤ったかと考えていると、お腹にぽすんとマチのおでこがぶつかってくる。おそらく頭突きのつもりなんだろうか。全く痛みはなかったが。
「それはマチを見くびりすぎだよ。マチはテントが無事に戻ってくることを何より願ってたんだ、お守りってそういうもんだからね。あんたが帰ってきてくれたのにお守り壊したくらいで怒るわけないだろう」
遅れて出てきたアリアが代弁する。マチも「その通りです」とばかりにふんふん言いながらしきりに頷いていた。
なるほど、壊したことで怒られるかもしれないという懸念そのものがマチの思いを軽視していたということか。それなら自分の取るべき対応は一つだ。
「うん。マチちゃんのお守りのおかげで無事戻ってくることができたよ、ありがとう」
「んーーー」
顔を真っ赤にさせたマチが、その表情を隠すようにお腹に頭をぐりぐりと押しつけてくる。
ちょうどいい位置にあったのでぽんぽんと頭を撫でておくとさらに首振りが加速した。
「おーい、うちのマチをこれ以上骨抜きにしないでおくれー」
「いやいや本当にマチちゃんに助けられましたから」
「帰りが遅くて心配してたんだよ。マチなんかパワー送るのに力こもりすぎて倒れそうだったんだから。何かあったの?」
「ちょっと大きなお友達と遭遇しまして」
事情をかいつまんで説明する。
どうやらギルドに事前通達するほどの大物の魔物が出現していたこと。その戦闘でお守りも壊れてしまったことを。
「ちょっとどころの話じゃないよ。悪かったね、ここ最近店が忙しくてそんな情報全く耳に入ってなかったよ」
「テントさん、大怪我はありませんか!」
「お怪我ね。おが一つ増えるだけで大惨事だよ」
心配そうな表情のマチにぺたぺたと触られるがこれで何か健康状態が分かるのかは甚だ疑問だ。
「それで?問題の糸の方は手に入れられたのかな?」
「そちらの方はつつがなく、はい」
「え、そんなどっさり。いくらなんでもこんなに取れるものじゃないはずなんだけど」
「粘り勝ちです」
「テントさんすごいです!ねばねばです!」
人を納豆みたいに言わないでほしい。いや、讃えてくれているのは十分伝わっているのだが。
「はあ何から何まで想定外すぎて思考が追いつかないよ。これだけあるとマチの分を多めに確保しても、お釣りがくるくらいだね」
「ぜひぜひ。時間がかかったお詫びとして、在庫確保しちゃってください」
「ボス級の魔物と戦ってきたのを差し引いてもこんな量全然時間もかかってないよ。こんなもらったんじゃ、用意してたお礼金じゃ足りないね。よし、取ってきた素材を使って私が服を作ってあげるよ」
「なんと!でもプロに仕事してもらうなんて逆に高くついちゃうのでは」
「依頼がこんなに早く達成されたのは間違いなくテントのおかげだからね。あとは初回サービスってことにしとくよ、これからもご贔屓に」
「ごひいきにです」
アリアに追随してくるマチ。商売上手な師弟だ。
「商売のやり手ですね」
「ちなみにどんな雰囲気の服がお好み?シンプルにかっこいい感じに仕上げてもいいし、透け透けでセクシーな感じもできるよ」
「じゃあ透け……」
「服でまで冒険しないでください、普通のにしておきなさい」
安易に好奇心に流されそうになったところで、女神様からの強めのツッコミが脳内で響き渡った。
「シンプルに冒険に適した感じのものでお任せします」
自分の思いを軌道修正してそう伝える。わざわざカットインしてきた女神様の思いを蔑ろにすることはできなかった。
「今抱えている仕事は後回しにして最優先で取り組むけど、完成するのに1日はかかるからご飯食べて宿を探してきたらいいよ。今日は疲れただろうからね」
「じゃあお言葉に甘えてそうします。お腹が減りました」
「軍服ですね」
「空腹ね、ミリタリーで決めないから」
「マチもまちがえます」
「なんかすっごいドヤ顔で言われたけども」
ふふんと得意げに胸を張る。この一連をやりたかったようだ。
「マチは最近これ言うのハマってるんだよ、付き合ってあげて」
ダジャレみたいな決め台詞を気に入っている弟子がそこにはいた。
「マチちゃんはお腹すいてないの?」
「さっきおもちを食べました!」
「卵白だね」
「メレンゲじゃなくて満腹です」
「マチもまちがえます」
「えええ、テントさんはマチじゃないです!」
「目の前で持ちネタ大泥棒決めないであげてよ」
人が大切にしてるものってなぜか欲しくなるよね。自分の秘蔵っ子を取られたような顔をするマチにさすがに少しだけ申し訳なくなった。
「じゃあ明日の昼時またおいで」
「テントさん、ゆっくりお休みください!」
手を振る師弟に見送られて、仕立て屋を出た。
今日は流石に大冒険をした。頑張った自分を労って、まずはご飯を食べに行くことにしよう。
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