第2話 どこからツッコんでいいかわからない

 トップオブトップの父上の正当な世継ぎで、箱入りだった母上の紛れもない実子なのに、角なし!

 稀にあることらしいが、とてつもない醜聞である。

 正直、私は思った。


 あ!そーきたか!!


 血筋よし、顔よし、文武両道で隙なしのパーフェクトなキャラにセルフ育成成功していたので、ここいらで無双ルートか逆境ルートが来るかな?と思ってはいたのだ。

 来たよ!呪われた出自&秘められた弱点。

 無敵完璧美形なのに”角なし”。

 くぅーっ。わかってるな、おい。


 私は造り物の角を頭に付けてもらいながら、上目遣いでこっそりとセレムの様子を見た。

 仏頂面で無表情で、眉間にちょっとシワが寄っている。

 楽しくなさそうだ。ごめんな。


「私の”角”の管理はお前に任せる。絶対にお前以外には触らせないから、お前が責任を持って秘密を守ってくれ」


 ついでにどういう成長具合でどういう角を付けるか、造り物のデザインも丸投げしてやろう。せめてもの詫びだ。

 ……お前がこの後、同じ年齢のときの自分の角よりちっちゃいのしか用意しなかったら、嗤ってやる。




 そんなこんなで、”秘密”は忠実な従者に丸投げして、私は無事に社交界にデビューした。

 このまま貴族社会で陰謀だの恋愛だのするのかと思っていたら、なんと学園編が始まった。


 才能のある14から18歳の貴族の青少年を集めて切磋琢磨させ、その中で特殊な力に目覚めたものに国防を任せるらしい。


 いやもうどこからツッコんでいいかわからない。

 幼少期のセルフ育成中にスキルとか魔法とかないなぁと思っていたら、ここで出てきたよ。変な異能設定。


 全寮制で世間から隔絶された施設で特訓って、学園編と言うよりは蠱毒とか虎の穴とかそういう奴ではないだろうか。


 言いたいことは色々あったが、口に出しても仕方がないので、私は黙ってセレムと一緒に学園に入った。

 学園内では元の家格に関わらず皆同じ立場。個人の能力だけがその優劣を定める。そういう規則だったが、私はセレムに秘密を管理してもらっている立場なので、普通に従者としての距離そのままで同行させた。

 建前は建前として、うちぐらい家格が高くて本人が優秀だと融通は効くらしく、私とセレムは年齢は1つ違いだが、同室で、カリキュラムも同じものを受けられた。



 煩わしい雑事を全部引き受けてくれる優秀なセレムを影のようにいつも従えて、私は学園に君臨した。

 いや~、だってさ。この顔で、このスペックで、こういうキャラなら、学園支配しないと嘘でしょ。

「おのれ、生徒会め!」とか言いながら、反乱を起こしてくれる熱血野郎とか出てこないかな?と期待しつつ、ワクワクと優雅で楽しい暴君生活を送っていたのだが、どうもそういうジャンルではなかったらしく、跳ねっ返りの問題児も、変わり者の転校生もあっさり下僕になった。



 順調に成長した私は、校内選抜の闘技大会で優勝し、3位だったセレム共々、特殊能力の測定対象者として、他の7位までの者とともに選抜メンバーになった。

 先に特殊能力の有無を測っておいてから、その保持者の中で強いものを選べばいいのでは?と思ったのだが、どうやらこの異能は測定試験そのものが、強靭な肉体と、かなり強い精神力がないと、厳しいらしい。

 やだなー。そんな試験。



 何をやらされるのかと戦々恐々ワクワクドキドキで案内された先には…………巨大ロボがいた。


 えー?

 ロストテクノロジーの発掘品?

 魔法文明の遺産?

 はいはい。

 マジか。どこまで迷走する気だ?


 特殊な力が発現すると、この”戦神巨兵”と呼ばれる巨大ロボに認められ、パイロットになれるらしい。

 己のうちにある根源的な力とか言われましても、あーた。イドだかイデだかわからん何かって、そう簡単に発動イヤボーンできるわけではないでしょう。


 そう思いながら、コックピットらしき卵型のツルンとした小部屋に入った。前部のハッチ?を閉められると壁がほんのり暖色に光る。

 おお、生きてるぞ。コイツ。

 なんとなくそう感じた次の瞬間、周囲の壁から突然無数の金色の繊毛が伸びて全身を包んだ。


 ぎゃーっ!


 強靭な肉体とかなり強い精神力がないと無理……納得な体験だった。

 私は無事に発動イヤボーンして、巨大ロボのパイロットになった。


 だってさ。パイロットに適合してロボと感覚融合すると、外界が見れて四肢の感覚も戻るんだけど、そうなるまでずっと全身ゲログチョなんだもん。無理。あれは無理。


 2名の脱落者を出して、残った5名が戦神巨兵のマスターになった。

 ちなみに闘技大会の準決勝でセレムをいたぶって、決勝で私が徹底的にシメて心を折ってやった奴は、脱落してヨレヨレになっていた。ざまぁ!


「セレ、あれ平気だった?」

「あなたに無茶されるときよりはマシでした」

「ええっ」


 しかめっ面だったがセレムも無事にクリア。しかもわりと平気そうだった。強いな。あれが平気とかちょっと変態なんじゃないだろうか。私は自分の従者の事がちょっと心配になった。




 そんな心配をしていられたのも、その時までで、私達はすぐに戦場に送られた。

 そうだよな。国防の戦力育成って言ってたもんな。


 戦争相手は呆れたことに異世界だった。野っ原に突然開いている虹色の巨大な裂け目の向こうにゆらゆら見えているのは、高層ビル群で、思わず三度見してしまった。




 禍々しい形状の空中魔導戦艦に乗って、召喚された魔獣と一緒に境界を越えて、敵の街を襲撃に行く。

 敵の迎撃部隊が出てくると、その日の当番の戦神巨兵が出撃。魔獣のサポートをしつつ、敵部隊を殲滅。

 ほどほどに被害を出したところで、降伏勧告を出して帰還。

 こんなルーチンを回していたら、ある日、敵側に戦神巨兵モドキが現れた。


 ちゃんと白い。なんなら赤と青がアクセントに入っている。

 オーソドックスにシャープなシルエットにしてきたなぁ、というのが初見での感想だった。

 あ、扁平足じゃなくて踵は別パーツなハイヒールタイプか。

 腰回りと股関節細っせ……脆そう。


 敵パイロットが初心者なうちに叩くのがセオリーでしょ。とばかりに、全機で出撃して徹底的にぶちのめした。

 ごめんね、テンプレ。

 悲しいけど、これ、戦争なのよね。


 敵の白いのは、7日経っても復帰してこなかった。




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