第2章:物流の現状を探る

午後の陽射しが窓から差し込む中、山田は営業部と委託先の物流会社の責任者を集めた会議室に足を踏み入れた。

場の空気は張り詰めており、誰もが次に交わされる言葉に注意を向けている様子だった。


「現状の問題点を正確に把握することから始めましょう。」

山田は静かだが力強い声で会議を切り出し、資料を手に前に立った。

その瞬間、参加者たちの視線が一斉に彼に注がれた。


「まず、現状を正確に把握することから始めましょう。」

山田の声に物流会社の責任者である吉川が資料を広げ説明をした。


吉川は物流業界で20年以上のキャリアを持つベテランで、現場での経験を重視する実践派のリーダーだ。

穏やかな物腰ながらも的確な指示を出すことで知られ、作業員からの信頼も厚い。


過去には、物流拠点の立ち上げを成功させた経験があり、トラックの出入りを効率化するためのスケジュール管理システムを導入し、大幅なコスト削減を実現した実績を持つ。

しかし、その成功体験が影響してか、長年の慣習に縛られがちな面もあり、最新の物流システムへの対応には課題を抱えていた。


「配送の遅延の原因として最も大きいのは、倉庫での出荷準備が予定よりも大幅に遅れていることです。特にピーク時には、トラックの待機時間が平均で2時間を超えています。」


営業部の佐藤が驚いた表情で質問した。

「待機時間が2時間以上ですか? それではお客様への影響も避けられませんね。」


吉川は苦い表情でうなずいた。

「はい。原因として、作業者スキルの低さによる作業の遅れや、人手不足が挙げられます。また、システムの老朽化も影響しています。」


佐藤は眉をひそめながらメモを取り始めた。

「そのシステムは具体的にどの部分に問題があるのでしょうか?」


吉川は少し戸惑いながら答えた。

「例えば、リアルタイムでの在庫情報が更新されない事による在庫確認の遅れ、商品の置き場不明により、ピッキング作業の遅れがあります。」


山田は資料を見つめながら口を開いた。

「分かりました。システムの改善や人手の補充も必要ですが、まずは短期的にできる改善策を検討しましょう。吉川さん、現場スタッフの意見をさらに詳しく集めていただけますか?」


吉川は深くうなずき、会議が終わった。


翌週、吉川は現場スタッフから集めた意見と改善提案を携え、再び会議に臨んだ。

「現場からの意見をまとめました。一番多かったのは、『在庫情報の更新が遅く、作業効率が低下している』という声です。また、『ピッキングをする商品の置き場所の効率が悪く、無駄な移動が多い』との指摘もありました。」


吉川が資料を読み上げる中、山田は真剣な表情で耳を傾けた。

「なるほど、ありがとうございます。吉川さん、現場スタッフの具体的な声を聞けたのは非常に大きいです。ただ、これらの改善策を進める上で、委託契約の枠を超える対応が必要になるのではないでしょうか?」


吉川は少し戸惑いながら答えた。

「確かにそうかもしれません。我々としてもできる限り対応しますが、必要な資金や設備の更新にはどうしても限界があります。」


この言葉を受けて、営業部の佐藤が提案を切り出した。

「この状況では、物流業務を委託先に任せるより、自社で一貫して管理したほうが顧客満足度の向上につながるのではないでしょうか。現場の声を直接拾い上げ、迅速に対応できる体制を整えるべきだと思います。」


会議室に一瞬の静寂が訪れたが、山田がその提案に賛同するように口を開いた。

「佐藤さんの意見に賛成です。物流業務を自社で行うことで、全体の効率を大幅に向上させる可能性があります。吉川さん、これまでのご協力に感謝しますが、私たちは一歩進んだ体制を考えたいと思います。」


吉川は驚いた表情を浮かべ、声を少し震わせながら応じた。

「山田さん、それは確かに分かります。でも、どうにか委託契約を続けられる形で解決できないでしょうか?こちらも努力しますので、ぜひもう少し時間をいただけませんか。」


吉川の言葉に、佐藤は即座に反応した。

「吉川さん、そのお気持ちは分かります。ただ、現場からの意見を見る限りでは、現在の体制では問題の根本解決は難しいように思えます。顧客満足度を確保するためには、もっと柔軟で迅速な対応が必要なんです。このままではクレーム対応が増えるばかりで、我々が大口契約を失う危険性も高まっているんです。」


山田も吉川の方を見て静かにうなずいた。

「佐藤の言う通りです。私たちは顧客の信頼を取り戻すことが最優先です。そのために、まずはクレーム対応の迅速化を徹底します。たとえば、専任チームを設置し、即時対応が可能な体制を整えます。また、物流の現場に定期的なモニタリングを導入し、潜在的な課題を早期に発見する仕組みを作ります。そして、最終的には自社で物流を一元管理することで、全体の効率を大幅に向上させる必要があると考えています。ただし、吉川さんを含む御社の経験と知識を、今後も最大限活かしたいと思っています。」


吉川は困惑しつつも深く息を吐き、渋々うなずいた。

「確かに、現状のままではお客様への信頼を回復するのは難しいですね。山田さんのお考えを尊重します。私たちもできる限り協力します。」


会議はこれで締めくくられた。

会議後、山田と佐藤は社内の上層部への提案準備に取りかかった。

上層部へのプレゼンに向けて、山田は資料を見直しながら口を開いた。


「佐藤さん、この提案で必ず自社物流への切り替えを承認してもらいましょう。顧客満足度の向上にはこれしかありません。」


佐藤も真剣な表情でうなずいた。

「そうですね。現場での経験とデータを具体的に示せば、上層部も納得するはずです。必ず成功させましょう。」

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