ビッチな彼女に「セックスってそんなに良いもの?」と聞いてみた

明らかなアキラ

第1話

今はもう使われていない教室、人一人分の隙間を開けて私達は並んで座っている。いつもここでお昼を過ごす私達は一緒に居たとしてもあまり話したりするわけでもない。


だけど今日はちょっとだけ違った。別にそんな深い意味があるわけでもなかった。ただ何となく気になって、ちょうど目の前に本人が居るのだから聞いてみただけだった。


「ねえ、セックスってそんなに良いもん?」


「んー?いきなりどした?」


さっきからずっとスマホから目を離さず誰かしらと連絡を取っている彼女。今日の相手でも選んでいたのだろうか。こんな突拍子のない質問をされてもこちらに顔を向けることはない。


「毎日違う男とやってんでしょ?それが原因で虐められたりしてんのに」


「まーね」


「そうまでされてする理由って何だろうって」


「んー」


ここで初めて彼女がスマホから目を離してそれを顎に当てて考える素振りを見せた。数秒だけ考えて、チラッとこっちを見つめてきた。ニヤリと口角を上げて体を徐々にこちらに寄せてくる。


「伊織もやってみたら分かるんじゃん?」


「何、あんた女も範囲内なの?」


「んなわけないじゃん。ただこういうのは言葉で説明するより体で説明するのが早いと思っただけ」


「そんなんで本当に理由が分かんの?」


「物は試しでしょ。どうする?私は伊織が相手だったら別に構わないけど」



上目遣いに少し服をはだけさせてこちらを見つめる彼女。普段は少し馬鹿っぽいというかのほほんとした雰囲気があるけど今は全面に女が押し出されていてまるで違う人のよう。


端的に言えばエロい。


私としてはちょっとした質問のつもりで聞いたはずなのに話はどんどん転がっていってしまってよく分からない状況になっている。彼女としたところで本当に理由が分かるのかは知らないけど、別に何かあるわけでもないし、まあ良いか。


「私一切経験ないけど、あとここですんの?」


「こっちが教えながらやるから良いよ。私はここでも良いけど伊織はいや?」


「そっちが良いならいいや」


「じゃあこっち来て」


そう言って彼女は机が寄せられている方へと歩いていく。上に載せられている机をいくつかどけて、そこにゴロンと寝転がった。


「じゃあ、しよっか」


彼女に近づきながら、私は入学してからまだそんなに経ってもいないこれまでを思い出していた。




この高校を選んだのは地元から少し離れていて同じ中学から進学する奴が誰もいないからってのが大きな理由。いじめられてたわけじゃないけど、そりが合わなかった。女子特有のグループだとか、その派閥だとか。


工業高校は基本的に女子が少ない。私が入った建築科は比較的女子が多く、40人中私含め8人いた。ミスったなって思う。碌に顔も覚えていないけど、もういくつかグループができてる。入学したばっかでまだそこまで確執的なのはないけど、いずれなんか起きそうだな。


「つーかさー、電子機械科の山崎やばくね?手当たり次第男食いまくってんでしょ?」


「まじそれな!いくら女子自分しかいないからってアレはないわ。ハーレムかなんかだと思ってんのかね」


「どうせ男目的でここ入ったんじゃない?あいつ馬鹿そうだし」


「言えてるー」


電子機械科の山崎。入学してから二週間ほどの間で同じ科だけじゃなく他の科の同級生、さらには先輩にまで広く手を伸ばしているらしい。聞きたくなくても聞こえてくる情報で、顔を知らないのにやけに詳しくなっていく。


人の悪口ってすごく苦手だ。そんなに嫌なら本人に言って改善でもしてもらえば良いのに。これは嫌だから高校は女子が少ないとこにしたのに。盛り上がり始めた話を横目に私は席を立ってトイレへ向かった。


お昼休みが始まって間もないからかまだご飯を食べてる人が多い。静かとは言えなくてここは動物園かなんかと勘違いしてしまいそうだ。ダッシュで食堂や購買行く奴、友達とダラダラ教室で話してる奴。そしてトイレの前で陣取って虐めてる奴。


「お前さ、マジ良い加減にしな?人の男取っておいてその態度ありえないから」


「入学してから調子乗りすぎ」


なんて典型的ないじめ現場だろう。3人ほどの女子が一人の女子を囲うように詰めている。一周回って感動しそう。トイレの前を陣取っていること以外は。


「ずっと黙ってないでなんか言えよ」


「ごめんなさーい!誰のこと言ってるのか分かんないけど、一応全員に同意はとってますよー。それに向こうが誘ってきたやつしか私乗りませんし」


「はあ!?ふざけてんのお前!」


「大真面目ですってー。ちなみに誰ですか?」


「こいつだよコイツ!忘れたとは言わせないからね!」


「あー、この人。覚えてますよ。だってすごく下手くそだったし」


詰め寄っていた女子は顔真っ赤。他の二人もちょっと気まずそうな顔してんのがおもろい。てかそろそろどいてくんないかな。普通にトイレ行きたい。


「山崎ぃ!お前どこまで人を馬鹿にするつもりよ!」


「馬鹿にするも何も事実を言っただけですし、ああ、何なら私が教えてあげましょうか?上手くなる方法」


「黙れ!」


怒り心頭の女子は思いきり拳を握って振り上げた。少し様子を見ていた私は一応助けられる範囲内ではあった。どうやら例の山崎さんらしい彼女は殴られて当然のことをしていると思う。しかしそれとこれとは別で、人が殴られているのをただ見つめるのは気分はすぐれない。


「失礼します」


「えっ?」


振り上げた拳を下ろすちょっと前に腕を掴んで止めさせる。突然の乱入者にその場にいた全員がこちらを見て驚いている。思ったより振り下ろすのが早くてつい体を抱き寄せて止めるしかなかったのも大きな原因かもしれない。


「いやあんた誰!?」


「通りすがりのトイレ使いたい人です」


「関係ないんだったら邪魔しないでよ!」


「関係はないけどさ、殴ちゃっていいの?」


「当然でしょ!コイツが全部悪いんだから、罰が下って当然じゃない!」


「でも殴ったら貴女が悪くなっちゃうよ?それにそんなに強く手を握って殴ったら怪我しちゃうかも。そんなの嫌じゃない?」


「それはそうだけど...」


「それに浮気なんかするような奴だって分かったんだから、そんな奴振っちゃいなよ。貴女可愛いんだからそいつなんか勿体無いよ」


実を言うと私は結構顔が良い。しかも女子受けがいいタイプの顔だってことも自覚してる。さっきの言葉も別に思ってないわけでもないけどそう言えば相手は嬉しいだろうなって何となく分かる。


「うっ、分かったから、離れて!顔近いって」


「分かった」


そう言って私は素直に離れる。彼女はさっきも顔が真っ赤だったけど今は違う意味で顔が真っ赤だった。気を取り直すように顔を背けてまた山崎さんに向かって話し始める。


「今日のところはしょうがないから許してあげるけど、あんま調子乗んなよ。私以外にもお前のこと恨んでる奴沢山いるんだから」


そう言って残りの二人も同意してから早々に立ち去っていった。案外すんなり帰ってくれて良かった。これも私の顔面のおかげかな。なんて思いながらトイレへ向かう。


「ねえ、あなた」


「何?」


「えっと、ありがとう?で良いのかな」


「別に、トイレの前であんだけ広がられてたら普通に邪魔」


「それでもありがとね。無駄に怪我せずに済んだし。あなた名前なんて言うの?私電子機械科の山崎恋、レンって呼んで」


やっぱり例の人だったみたい。苗字だけならちょっと違う可能性あったけど学科まで一緒は流石に確定か。会話してる感じは普通なんだけどな。


「建築学科の山本伊織」


「伊織ね、覚えた。ねえ連絡先交換しようよ。インスタやってる?」


「やってるよ」


すごく自然な流れで連絡先を交換することになった。まあ面白そうだしこっちに被害が来なければ別に何ともないし。ささっと交換して私はトイレへ、彼女は教室へ戻っていった。


これが彼女との初めての出会い。この時、正直学科は違うし今後あんまり関わることは無さそうだなって思ってた。それが数ヶ月後そいつとセックスしてるなんて予想できるわけがない。

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ビッチな彼女に「セックスってそんなに良いもの?」と聞いてみた 明らかなアキラ @akirakanaakira

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