第10話 新たな日々

「知らない天井だ……」


どこかのアニメで聞いたような声を出して目を覚ます。

幸司は自分の頭が冴え渡っている感覚に包まれていた。これまで経験したことのないほどクリアに整理された自分の知識や感情が彼を驚かせる。


「すごい……こんなに頭が軽いなんて……」


目の前にはハワとラトが立っていた。ラトはいつものように柔らかい微笑みを浮かべながら、幸司の反応を観察している。


「おはようございます、コウジさん。手術は無事に成功しました。いかがですか?」


幸司はゆっくりと起き上がり、周囲を見回し、何があったかを思い出した。

彼は脳改造の提案を受け入れ、グダグダ迷い直す時間を避けるために自ら手術台の上に上がり、ラトに施術を迫ったのだった。


「信じられないくらい頭が冴えてる。昨日まで悩んでたことが嘘みたいだよ。」


その言葉にハワが笑顔を見せた。


「それはよかった。僕らの技術が地球人にも通用して何よりだ。」


幸司は立ち上がり、軽く体を伸ばした。以前よりも目に入るすべての情報が鮮明に感じられる。


「これなら、地球に戻って受験も余裕かもな……!」


「しばらくは所内の指定区域でお過ごしください。なにか気になることや違和感があったらどんなことでもすぐに知らせてくださいね。」


幸司の頭からはあれほど滾っていた焦燥感が消え、悟りを開いた僧侶のような表情さえ見せるようになっていた。


「とりあえず一歩前進だな。」


ハワが幸司の頭をポンポンと叩くと、ラトがその手をはたき落とし、蛇蝎を見る目でハワを攻めたてた。


「施術直後で安定させたいって言ってるのに、なんてことすんのよあんたは!」



幸司が病室のスクリーンで暇つぶしに動画を眺めていると、目に飛び込んできたのは地球の宗教をテーマにしたドラマだった。見覚えのある内容に驚き、思わず声を上げる。


「これ……俺がハワに教えた話じゃないか!」


すると、隣にいたハワが得意げに笑いながら答えた。


「そうだよ。僕のスタジオで映像化したんだ。いい感じに仕上がってるだろう?」


その会話を聞いていたラトが微笑みながら加わる。


「最近そのシリーズ、人気よね!すごい!あなたの作品だったの?なんていうか、テーマがとっても新鮮でいいわよね!」


幸司は半信半疑の表情で画面を見つめた。わずか数日でこれだけのスペクタクル映像を作るハワの技術もすごいが、何より宗教というテーマがミノリタスにどう受け入れられるのか想像がつかない。


「でも、こんな話が船団でヒットするなんて意外だな……どんな反応なんだ?」


ハワが端末を取り出しながら説明を続けた。


「面白いことに、このシリーズを見た人たちが、宗教という概念に新たな興味を持ち始めたんだ。もちろん、地球の宗教そのものを再現するんじゃなくて、僕らに合った形で細部が補完されているけどね。」


ラトが頷きながら補足する。


「特に『祈り』という概念が注目されているみたいよ。私たちにはなかった考え方だから、とても新鮮なんですって。」


幸司はそれを聞きながら、自分が軽い気持ちで話した宗教エピソードが、ここまでの影響を及ぼすとは思いもしなかった。


「正直、ちょっと怖いくらいだな……でも、こうやって役立ててもらえるなら悪い気はしないよ。よかったな。今日から大プロデューサーじゃないか」


「前から大プロデューサーだよ」


「うそうそ。いいとこ中堅だった気がするわ」


ハワは照れたようにはにかみ、ラトは穏やかに微笑みながら画面を閉じた。


「これからますます忙しくなりそう。でも、コウジさんの地球への帰還の準備も進めていますから、安心してください。」


「ありがとう、ラト。なんだか……やっと落ち着いた気がするよ」


ハワは微笑みながら二人を見ていた。そして、穏やかな青い光が差し込む中、幸司は新たな一歩を踏み出す決意を新たにした。


(続く)


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