美しい音色
私が大好きなおばあちゃんは、地元のパブでピアノを弾いている。
有名なピアニストではないが、その音色は美しく、地元では有名だ。
若い頃は、ピアニストを目指していた。
でも、経済的な事情で諦めたという。
これは、おばあちゃんの哀しすぎる壮絶な恋物語。
◇◇◇
私は若い頃、音楽学校に進学して、ピアニストを目指していたの。
当時国の情勢も不安定で、あの頃政治活動をしている人達も多かったけど、私はどうしてもピアニストになりたくて、そういう活動には一切関わらなかった。
でも、少し後ろめたさもあったわ。
私の家はそれ程裕福でもなかったから、今みたいに、小さなパブでピアノを弾くアルバイトをしていたの。
そこによく政治活動をしていた学生達が来ていたわ。
そのうちのひとりの男の子が、私のピアノをよく聴きに来てくれていたの。
背が高くて、ちょっと癖っ毛な髪で、頭が良くて、情熱的な人で、私はすぐに恋に落ちた。
色々お喋りするようになり、毎日私の帰りを待っていてくれて、家に送ってくれるようになって、恋人同士になるのに、そんなに時間は掛からなかった。
「君はきっと素晴らしいピアニストになれる」
「君の奏でるピアノの音色は、人を幸せにする」
そう言って、私の夢を応援してくれていたの。
彼もそう裕福じゃなかったけれど、歴史学者を目指して猛勉強していた。
でも、国の情勢がどんどん悪くなり、経済も落ち込んで、ついに私達は学費も払えなくなってしまった。
私は、泣く泣くピアノを諦め、幼稚園で働き出した。
そんな私に、彼は、
「君はピアノを辞めてはいけない」
と言って、近所の工場で働き出した。
私の生活を支える為に。
そして、政治活動にものめり込んでいった。
ある日、政府の要人が暗殺されるという事件が起きて、国はますます荒れていった。
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