第4話 これが俺のスキル

「私と手合わせがしたいだと? ふむ、いいだろう」


 ドレイク隊長が了承すると、リザードマンたちがざわざわし始めた。


「アイツ本気で言ってるのか?」

「俺らが束になっても勝てねぇってのに」

「オイオイオイ、死んだわアイツ」

「いや、今から本気を出すってことなのかもしれないぞ……!」


 そこの本気を出すとか期待してくれてる小柄リザードマンくん…………残念ながらそんなものはないんだな。

 ヤバい、言わなきゃよかった。バカにされて悔しくてこんなこと言っちゃったけどやっぱりキャンセルにできないかな。できないよね。

 少し離れたところで見ているスラたんの方を見ると、親指をグッと立ててきた。ファイトってことかよ。


「手合わせすると言っても、おそらく私が一方的に勝つことになってしまうだろう。それでは面白くない。ならばこうしよう。私に一発でも剣の攻撃を入れられたら君の勝ちだ」

「もし俺が勝ったら、取るに足らないとか弱いものいじめとか言ったこと、謝ってもらいますからね」

「あぁ、リザードマンの魂に誓おう」


 俺は案内のリザードマンから新しい木刀をもらい、再び構えた。

 それに向かい合うようにドレイク隊長も木刀を構える。ただし、両手じゃなくてレイピアのように。


「そ、それじゃあ始めます! はじめっ!」


 再び掛け声が響く。

 直後にドレイク隊長は「【神速】」、と一言。スキルを発動させた。

 しかしその場から動く様子はない。舐めプか? おい。


「来るならこっちから行きますよッ! オラァッ!!」


 顔を狙った単純な攻撃……と見せかけて脚狙いだ。一撃当てれば俺の勝ちなわけだから、不意打ちでさっさと片付ける!


 視線は隊長の顔に向けたまま、俺は脚に向けて木刀を振る。そして見事ヒット! ……しなかった。

 ドレイク隊長の姿が俺の目の前から消えたのだ!


「フフ、これが私のスキルさ」


 背後から声がした。もちろんドレイク隊長の。

 なるほど高速移動ってことかよ。それなら移動する前に一撃……!


 視線を動かさずに俺は木刀を持った右手を後ろに回し振った。

 スカッと木刀が空を切る。速く動くだけじゃなくて反射神経もかなりすごいぞ、この人。


「フフフ、まだまだだね。この程度ならスキルを使うまでもなかったみたいだ」


 俺の耳元で囁くように言った。気持ち悪。

 横にまた木刀を振るが、当たらず。

 ドレイク隊長は俺の目の前に現れた。


「もう少し鍛錬を積んでからまた来るといい。それじゃ、これで終わりだ」


 レイピアのように構えた木刀で鋭い突きを繰り出した!

 咄嗟に身体を後ろに反らせると、俺はドロップキックの姿勢ですってんころりん。別にドロップキックは入らず、腹のあたりに右足が当たったくらいだが、とにかく間一髪で突きを避けれたようだ。


「この私の突きを避けるとは……偶然とはいえなかなかやるではないか」


 言うほど褒めることか?

 俺は態勢を立て直し、レイピアフォームの隊長に向き合う。立ち上がるのを待ってくれていたようだ。


 さぁどうやって攻めるか。少し動きに揺さぶりを加えればワンチャンあるかもしれない……ないだろうけど。

 ダメ元でとりあえず左の方へ踏み込んだその時、

 俺は壁に激突していた。


 え? 何が起こったんだ?


 困惑しているのは俺だけじゃない。その場にいた全員が口ポカーンだ。

 俺のいたところから左の壁まで5,6メートルはあったはず。それなのに踏み込んだ瞬間に激突。何が起こったのやら。


 ポカーンからいち早く復帰した案内リザードマンが「そ、そこまで!」と声をかける。

 隊長は呆気にとられたままその場に立ち尽くし、他のリザードマンはざわざわ。


 壁の近くでへにゃっとしてる俺のもとにスラたんが救急箱を持ってやってきた。


「大丈夫ッスか? センパイ」

「あぁ、なんとか。擦りむいたくらいで助かったよ」


 意外にも俺の身体というものは頑丈なようだ。よかったよかった。


「ん、スラたん」

「なんスか?」

「さっきの俺、どんな動きしてた?」

「そうッスね、一瞬動きがすっごい速くなって……さっきの隊長みたいな感じに……それで無様に激突したッス」

「なるほどな……」


 一瞬動きが速くなった……。ドレイク隊長みたいに……。

 その前にやったことなんて、避けようとしてすっ転んでドロップキックが決まらないくらになって……。

 ……もしかしてだけど。


「よし、1つ確認。スラたんのスキルは何なんだ?」

「ジブンッスか? ジブンのは【酸】。色んな濃度の酸が出せるスキルッスね。ほら」


 そう言ってスラたんは手のひらから液体をピュッと出し、闘技場に落ちてる小石にかける。石はジュワっと音を立てた。なるほど酸だね。


「よし、ちょうどいい。ありがとな、スラたん」

「?」


 俺はスラたんの肩をぽんぽんとしてドレイク隊長のもとへ向かった。スラたんは不思議そうにこちらを見ているが、まぁ見てればわかるさ。


「ドレイク隊長、最後にもう1戦いいですか?」

「何? まだやるつもりか。諦めが悪いな。……いいだろう。これで最後だぞ?」

「ありがとうございまぁす」


 再び構えて向かい合い、始めの合図。

 次は一瞬で終わらせると言わん様子で一気に距離を詰めてきた。うん、完璧。


 【神速】スキルであっという間に射程圏内まで詰められた。そして右腕を上げて、突きが来る……!

 その攻撃が放たれるまでの一瞬で俺は一言。


「【酸】」


 俺の手のひらが少し光り、そこから液体が飛び出た! そのまま隊長の目に一直線、そしてピチャっと見事にヒット!


「ああぁぁっ! 目が! 目がぁぁあっ!!」


 突然酸を手に入れられてのたうち回る隊長。安心しろ、調理用レベルに薄めたつもりだから。

 …………薄まってるよな?


 目を押さえて地面をジタバタする隊長の股間めがけて木刀を振り下ろすと、「あふんっ」という情けない声を出し、泡を吹いて気絶してしまった。


 ようやくわかった。俺のスキルは

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