6話 これまでもこれからも
大晦日の今日晴矢は妃那と一緒に買い出しへ出かけていた、長瀬家では年末にはすき焼きを食べるのだ、小さな手を握りながらスーパーへ向う2人を周りの人たちに微笑ましそうに見つめられながら、晴矢は恥ずかしさを感じながらもその柔らかくて繊細な手の感触を心地よく思っていた。
妃那のゆっくりで一生懸命な歩幅に合わせて歩きながらスーパーの入口を抜けいつもより混んでいる店内はさっそく年末セールの商品が並べられている。
妃那は迷うことなく進み晴矢の持っている買い物カゴにどんどんと食材を入れていく、もはや晴矢はただのカゴ持ち係りと化していた。
「慣れてますね」
「私女の子よ?料理くらいするもの、買い物も任されること多かったからね」
そういえばいつも学校のお昼はお弁当だったなと思い出す、妃那はいつも晴矢の分のお弁当も作ってきてくれていた、とくに妃那の作る卵焼きは晴矢の大好物だった。
つい最近まではコンビニのパンばかりだったので味の記憶も薄れてきている、天使になっても料理の腕は変わらないのだろうかとカゴの重みを忘れるほど考える。
「はるくーん?」
「あぁ……どうしたんですか?」
「お会計、いこ?」
心配そうに首をかしげる妃那、その頭を軽く撫でレジへ向かいお会計を済ませスーパーを出る。
「大丈夫?」
「はい」
エコバックを両手に持つ晴矢に妃那が申し訳なさそうに言う。
「それじゃ帰りましょう」
「はーい」
***
年末のテレビは争奪戦になるとかならないとか、晴矢はそこまで見たい番組がないので部屋でゆっくりしているが妃那はというと、晴矢の両親と一緒にテレビを見ている。
「食べすぎた……」
お腹をさすりながらSNSを眺めていると、真一からメッセージが来た。
内容は「パジャマ喜んでくれた?」というものだった。
「喜んでたぞっと……」
真一ははしゃいでいる猫のスタンプで返信してきた、その後も今年あったことをやり取りしていると、部屋のドアがノックされる。
「はるくんいる?」
「いますよ」
ドアが開き妃那がやってきた、ちょうど話していたクマのパジャマを着ている。
「テレビはもういいんですか?」
「うん、見たい人の出番終わったから」
どうやら歌番組を見ていたようだ、妃那は晴矢のベットに座りうつむく。
「はるくん、初詣一緒に行こうね」
「もちろんですよ」
妃那時計を見つめる、時間はまだ20時だ。
晴矢はそんな妃那をじっと見つめながら、ずっと考えていたことを言う。
「……撫でていいですか」
「っ!?」
妃那はビクッとしたがすぐに晴矢の元へ寄り頭を差し出してくる、柔らかいモフモフのフードを撫でるとその顔は幸せそうににやける。
「もう……」
撫でる手から逃れる妃那、恥ずかしいのかかと思ったら晴矢胸に飛び込んで来た、そのまま2人はベッドに倒れてしまい晴矢の胸に顔を埋めているその頭をまた撫でる。
きっとドキドキしている心臓の鼓動が妃那にはバレバレだろうと思いながらも、温かい温もりを布越しに感じる、以前似たような状況が逆の立場であった、今の身長が低い妃那とはこっちの方がしっくりくる。
「撫でるだけじゃ……ダメ」
「どうすればいいですか?」
「ギュッてして欲しい」
やはりフード越しの顔は破壊力がすごいなと実感しながら背中に手を回し優しく、包むように抱きしめる、もふもふとしたパジャマは抱き心地良くて、妃那から漏れる幸せそうな声一つ一つが晴矢をドキドキさせる。
「ふぁっ……えへへ……」
だらしない声を出しながらも晴矢の服をぎゅっと掴む、それがしばらく続くいたあと。
「今度は私の番だね……何して欲しい?」
とフードを脱ぎ期待に満ちた声で言う、晴矢は戸惑いつつも考える。
「じゃ、じゃあ……」
「はい、時間切れ!」
「えぇ!??」
手をパント叩き晴矢に告げる、しかし非常に残念そうな顔を浮かべる晴矢を見て妃那が慌てて。
「じょ、冗談だよ!ほら!言ってみて?なんでもだよぉ!?」
「じゃぁ……俺の頭も撫でて、ください……」
照れながらそう言い俯く、それが可愛かったのか妃那はすぐにその頭に手を伸ばし優しく撫で始める。
「ねぇ……今の私も好き?」
不安そうに、震えた声で言う。
急に子どもっぽく甘えてきたり、急に前見たくお姉さんっぽい感じになったのはきっと、自分の反応を見ていたのかもしれないと晴矢はわかった。
どっちの妃那が晴矢にとって理想なのか、けれども実際問題妃那が子どもの姿だろうと晴矢からしたらどうでもいい。
「先輩はずっと先輩です、そりゃ見た目幼いですけど……一緒にいるとやっぱり安心します」
「そっか……」
「今も今までも、そしてこれからもずっと好きでいます」
妃那は安心したような顔になりまた頭を撫で始める、そしてその手はやがて晴矢の背中に回り。
「私も、大好きだよっ!」
精一杯にたくさんのものを込めて抱きしめられた。
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