恋人は幼い天使で元先輩
青井サアノ
プロローグ 聖夜の奇跡
中学生の頃に同じ委員会にいたその人に2年生の長瀬晴矢は惚れていた、3年の先輩で黒髪と宝石のように綺麗な赤い目が綺麗な柳原妃那はそんな気持ちに気づいているのか晴矢のことをからかったりいじわるしたりと、ほとんどの男子が勘違いするであろうような態度であった。
妃那が卒業してからも彼女以外の女の子には目を向けずに同じ高校へ通うために勉強を頑張っていた晴矢、友達からはストーカーと冗談交じりにいじられたりもした。
めでたく合格し同じ高校、同じ委員会にまたなることが出来て再開をはたした晴矢と妃那、学生にとっての1年の差というものは大きなもので自分よりも先に卒業するので、一緒に居れる時間が少ないという焦りもあり再開して間もない期間で告白した。
「顔真っ赤だよ?」
「そ、そりゃ……照れますよ」
笑いをこらえながら妃那はいつものようにからかう、やっぱり好きなのは自分だけなのかと晴矢は表情を曇らせる、それを見て慌てて妃那は晴矢の手を取る。
「あぁ!ごめんね?別に馬鹿にしたわけじゃないよ!」
「そうですか……?」
「うん……好きな人の照れた顔が、可愛くってね?」
人差し指で晴矢の顔をさしウィンクをする、心臓の鼓動が大きくなるのを晴矢は感じていた、彼女の動作ひとつひとつが愛おしくて、目が離せなくて、どうしようもないほどあふれる気持ちをおさながら妃那の手を握りしめる。
「よろしくね彼氏君!」
今まで以上に可愛く見えたその顔を晴矢は一生忘れないだろう……忘れられないだろう、忘れたくても焼き付いて離れないのだから。
それは交際してしばらくたった夏休みのことだった。
その日は暑くてさすがにいつものように手を繋いで下校してはいなかった、学校であったことを話しながら2人で歩いていた。
「だからはるくんはね、もう少し私に甘えてもいいと思うんだよ」
「人前じゃ恥ずかしいですよ」
「2人きりでも恥ずかしがるくせに……!」
横断歩道を渡っていたその時、止まった車の背後から大型のバイクが突っ込んできたのだ、向こうの焦った顔が見えた瞬間晴矢の身体は妃那によって突き飛ばされる。
「はるくんっ!」
「せんぱい……!」
そして直後、鮮血がアスファルトを染める……周りの人の叫びや悲鳴が聞こえる中妃那の方へ駆けよる、あまりにも唐突な出来事に何もできないままただその体を抱き寄せる、周りの大人が応急処置のために近寄り晴矢は優しそうな男性に大丈夫かと声を掛けられるも動揺で何も返事を返せない。
頭と心でこれは夢なのかと、現実なのかと、繰り返し考える。
やがて駆けつけた救急車で妃那は運ばれ、一緒に居た晴矢は救急隊員の質問に朦朧とした意識の中答える。
自分が気を付けていれば……何度もそう呟く晴矢に隊員は「そんなことはない」と寄り添ってくれていた、けれどもその気持ちは晴れるどころかより強くなっていく。
「妃那ちゃん……亡くなったって…………」
母親からそれを告げられ心が壊れる音がした、体がふわふわと浮いたような、地に足がつかない感覚……頭も心もからっぽでただ受け止められない真実を拒むだけの器となった気分のまま部屋にもどり。
「先輩……ごめんなさい………」
ベットに横たわって静かに涙を流した。
***
イルミネーションが行き交う人々の目を集める、いつもより賑わう商店街の出店はどれもクリスマスメニューがあり特別な雰囲気になっている。
晴矢はそのどれにも目を向けずただただ歩く、彼にとって聖夜はバイトの時給が上がるラッキーな日でしかない。
「ただいま」
玄関を開け靴を脱ぎ一直線で部屋に戻る、手袋もマフラーもなしでバイトにいったのは失敗だったなとささっと暖房をつけようと考えながら部屋の扉を開ける。
「……え」
白い何かが部屋に置かれている、というか浮いている。
それはわずかに光を放っている、しかしそれ以上に目立つものがひとつ丸い輪っかのようなものが空中に浮いているのだ、蛍光灯のように光を発したそれは天使が付ける光輪のように見える。
「なんだ……」
部屋の明かりをつけると晴矢は腰を抜かした、白い何かは大きな翼であり付け根には明らかに人と思わしき幼い少女がいるのだ、一人っ子なので妹なんていないし親戚に小さい子もいない、赤の他人が自分の部屋にいるという事実と現実離れしたその風貌に困惑する。
「やぁ……」
「っ!?」
少女が振り向く、小さな体の足元まで伸びる綺麗な黒髪を靡かせ宝石のような赤い目で晴矢を見つめる。
「久しぶりだね、はるくん」
と優しく小さく微笑んだ。
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