第4話 ダンジョン攻略の豹変領主
二本並ぶ巨大な塔――そのうちの一本。
“無限ダンジョン”と呼ばれる謎の塔に、ガルフ、ゼーニャ、そしてアーザーは挑むことになった。
入口は黒鉄色の不気味な扉に覆われていた。
石造りの台座が鎮座し、仄かに光の粒子を放っている。
「……いくぞ」
三人は無言で頷き合い、ガルフがそっと台座に触れた。
瞬間、白い閃光が視界を覆い尽くす。
次に目を開いたとき、三人は――別世界にいた。
◇ ◇ ◇
「これは……」
言葉を失うほどの風景が広がっていた。
どこまでも続く草原、天を突く山岳、深緑の大森林、果てしない蒼い海。
それらが同時に存在する、不自然なほどに広大で、多様性に満ちた世界。
空には無数の星々。赤、青、金、紫と、現実では見たこともない輝きが広がり、何本もの巨大な木が天を突き、星を貫いていた。
「これは……いったいどういう世界なんだ……?」
「たしかに、これは“無限”と呼ばれるのも納得できますわね」
「こりゃ、いくつの国を支配した俺でも驚きを隠せねぇな」
目の前では、空中を無数のドラゴンが飛び交い、地上ではマンモス大の魔獣たちが群れている。
この世界すべてが“ダンジョン”だというのか。
そこへ、頭の中に神のような機械音声が響いた。
【無限ダンジョンは、覇王によって統治されている。攻略の条件はただ一つ、覇王の討伐である】
【その配下として、龍王、虎王、朱雀王、玄武王が存在し、いずれも神に匹敵する力を持つ】
「……神に匹敵って、どうしろってんだ」
「最初から覇王と戦うなんて無謀すぎます」
「なら、まずは周辺の魔獣狩りから始めましょう」
そう言って、ガルフはゆっくりと剣を引き抜いた。
その瞬間――空気が変わった。
◇ ◇ ◇
アーザーは目を見開いた。
(何だ……今の気配の変化は……?)
さっきまで、どこかおどおどしていたガルフが、まるで別人のように変貌していた。
眉間に皺を寄せ、口元には冷ややかな笑み。
そして、ガルフに向かって押し寄せるゴブリンの大群――。
ガルフは歩く。
ただ、それだけだ。
剣を振ったようには見えない。だが、ゴブリンがすれ違いざまに斬り伏せられていく。
棍棒を振り上げる者、飛びかかってくる者、囲む者。
だが全て――両断されていく。
気づけば、地面には五十体以上の死体が転がっていた。
「……あ、ありえない……」
アーザーは思わず呟く。
ガルフが動いたように見えないのに、敵が消えている。
まるで見えない刃。否、それ以上の“殺意の奔流”が支配していた。
そして――次はミノタウロスだ。
それも十体。どれも城門ほどの巨躯。並の戦士なら、気を失うレベルだ。
「ひゃっはああああああああああああ!」
――咆哮。
大地が震え、空気が震え、魔獣が怯む。
ガルフが跳躍する。
空中で身体をひねり、ミノタウロスの頭上に着地すると、その目を剣で貫き、頭蓋を真っ二つに裂いた。
一体が崩れ落ちる。
だが、ガルフはその背中を踏み台に、空へ跳ね、次のミノタウロスの首を飛ばす。
連続。連続。連続。――まるで舞い踊る死神。
「うらうらうらうらあああああああ!」
その叫び声は、狂気と歓喜が混じったような異質なものだった。
剣を握るたびに、ガルフの人格が変わるのだ。
気づけば、ミノタウロスの巨体がドサ、ドサと地に沈んでいく。
血飛沫一つ浴びず、ガルフは軽く服を払いながら言った。
「ちょっと頑張りすぎちゃったね」
「……いや、いやいや、おかしいだろ、あれ」
アーザーは震えた。恐怖ではない。
感動だ――圧倒的な“狂気”を前にした、畏怖にも似た感動。
「確かに、僕は伝説の王と呼ばれた。巨人を素手で仕留めたこともある。だが、あれは……楽しんでいる。殺すことを」
「だって、楽しいでしょ?」
そう言って笑うガルフ。
そこにあったのは、戦士ではない。“破壊者”そのものだった。
アーザーは確信した。この男は、世界の覇者になる。いや、なれる。
伝説の王は片膝をつき、ガルフの手を取る。
「このアーザー、あなたをこの世界の覇者にして差し上げましょう」
「そんな堅苦しいことはいいよ。ただ、俺が殺しまくるのを手伝って欲しい。頭が悪いから、作戦とか無理なんだ。でも、戦うのは好きだよ。楽しいから」
「……ああ、これが“狂気”……これが……真の強者……!」
アーザーの目には、まるで神を見たかのような光が宿っていた。
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