第11話 脇役、攻略対象の母に迫られる




 どうしてこうなった。



「うっはー!! 若い男の身体ってのはどうしてこう色気があるのかしらね!!」


「エンドーさん、お背中流します」


「おい、アリエル!! 妾の身体も綺麗にするのじゃ!!」



 俺は今、どういうわけか三人の美女とお風呂に入っていた。

 そこまで広いわけでもない浴室に四人も入っているせいで圧迫感が半端ない。


 本当にどうしてこうなったのか。時は少し遡る。













 しくじった。


 まさか『どこでもカギ』を使って隠れ家のあるダンジョン最下層に移動しようとしたら、クリスティアーナが押し入ってくるとは思わなかった。



「いたたた……」


「あんっ♡ ちょっと、大胆ね♡」


「え? うおわ!?」



 どうやら俺はクリスティアーナを押し倒す形で彼女のおっぱいを揉みしだいていたらしい。

 アリエル以上の大きなおっぱいに指がどこまでも沈み込む。



「で、でっか……」


「……何をしてるんですか、エンドーさん」



 俺は背筋に冷たいものを感じ取る。


 この脇役人生では何度も生と死の狭間で反復横飛びしてきたが、かつてない以上の危機感。


 滝のような冷や汗が止まらない。


 恐る恐る振り向くと、そこには頬を膨らませたアリエルの姿があった。



「ま、待て、アリエル。これは事故だ」


「……事故ならさっさと手を離してはどうですか?」


「あ、ああ、そうだな」



 俺は少し名残惜しさを感じつつ、クリスティアーナのおっぱいから手を離した。

 すると、ちょうどクリスティアーナも身体を起こして辺りを見回す。



「え? え? ここどこ!?」


「……どうするんですか、エンドーさん?」



 アリエルに訊かれて俺は言葉を詰まらせる。


 正直、クリスティアーナに隠れ家を見られてしまったのはまずい。


 いくらダンジョンの最下層とは言え、クリスティアーナほどの実力があるなら魔物との戦闘を回避することで自由に行き来できるかもしれない。


 ならば俺がすべきは、ここがダンジョンだと悟られずにクリスティアーナを追い返すこと。


 そう思っていたのだが……。



「おい、エンドー!! 今日もダンジョンの中層から妾が会いに来てやったのじゃ!! もてなすのじゃー!!」


「こんのおバカ狐ぇ!!」


「!?」



 まさかのタイミングで乱入してきたコン。


 しかも普段は言わないダンジョンという単語までわざわざ使っての登場だ。



「わ、妾が何をしたというのじゃ!! アリエル、エンドーが妾をいじめてくるのじゃ!!」


「……今のはコンさんが悪いですね」


「アリエルまで妾をいじめるのじゃ!?」


「いえ、単純にタイミングが悪すぎるだけです」



 すると、コンの話を聞いていたクリスティアーナは目をぱちぱちと瞬かせた。



「ダンジョン? まさかここって、アンダレンシアにある初代国王が精霊と契約して作った、あのダンジョンなの?」


「っ、だったらどうする?」



 こうなっては仕方ない。


 この拠点は気に入っていたのだが、知られてしまった以上は場所を移すしかない。

 以前の俺ならクリスティアーナを排除する方向で動いていたかもしれないが……。


 アリエルはそれを望まないだろう。


 命を狙ってきた相手ならアリエルも口を噤むだろうが、クリスティアーナに関しては単純に戦いだけの戦闘狂だしな。


 と、その時だった。



「ここは、ダンジョンのどの辺りなのかしら?」


「……最下層だ」


「最下層……それを証明するものはある?」


「始末した精霊の死体なら畑に埋めてあるぞ」


「え、まじですか」


「ん? アリエルには言ってなかったか?」



 俺は精霊の死体を畑に埋めている。


 精霊は魔力の塊みたいなものだからか、埋めておくと野菜の味や育ちがよくなるのだ。



「ちょっとエンドーさんが怖いです」


「いや、言っておくが精霊の見た目って植物みたいなものだったからな? 肥料と一緒だって」


「……そうですか」


「ちょ、引くな!! 本当に精霊の見た目は植物なんだぞ!!」



 ま、まずい。


 完全にアリエルに生き物の死体を畑に埋めるヤバイ人だと思われている。


 俺が誤解をどう解こうか考えていると、不意にクリスティアーナが俺に迫ってきて、ギュッと手を握った。



「え、な、なんだ?」


「想像以上だわ、エンドー君。ところで君、私のことはどう思うかしら?」


「は? ええと、めちゃくちゃ美人だと思いますけど」


「そう。なら身体はどうかしら? 胸の大きい女はお好み?」


「え? えっと、まあ、大好きですけど」



 俺が意味不明な問いに頷くと、クリスティアーナはニヤリと笑った。

 まるで霜降り肉を目の前にした肉食獣のような獰猛な笑みだ。



「そう、なら私に貴方の子供を生ませてくれないかしら?」


「……は?」


「「!?」」



 脳がフリーズする。


 ここまで思考ができなくなったのはアリエルがお風呂に乱入してきた時以来だ。



「何を、言って、るんだ?」


「私は強い男と子供を作りたいの。ダンジョンの最下層で王国を建国したと言っても過言ではない精霊を仕留めた男の人……私の理想だわ!!」


「ちょ、ちょっと待て!? お前には夫と息子がいるんじゃないのか!?」


「いるわよ?」



 俺の指摘をさらっと流すクリスティアーナ。



「夫は悪い人じゃないけど、政略結婚だし、私の好みからは駆け離れてるもの」


「いや、でも、あれだろう!? 不倫はダメだろう!?」


「大丈夫大丈夫。夫も若い女の子とヤッてるからお互い様よ」



 あ、あー、そう言えばそういう設定もあったな。


 いや、納得してる場合じゃない!! 俺にはアリエルがいるんだ!!



「アリエル!! お前からも言ってやってくれ!!」


「ええと、お貴族様やお金持ちの商人は愛人を作ることが多いと聞きますし、私はエンドーさんに二人目の女性がいてもいいと思いますよ」


「!?」



 まさかの発言だった。



「ア、アリエル、本気で言ってるのか? そんなこと言ったら本当に浮気しちゃうぞ!?」


「別にいいですよ。その方が燃えますし」


「ふぇ?」


「年増の女性より絶対に私の方がエンドーさんを気持ちよくできると思うので」



 アリエルの余裕綽々とした発言にクリスティアーナは眉をピクッとさせる。

 どうやら年増という言葉に少しイラッとしたようだった。


 なお、コンは作り置きしていたおやつのポテチを貪っている。


 少し前までは憎かった狐が今は唯一の癒しだ。



「ふぅん? 小娘が随分と啖呵を切るじゃない。嫌いではないわよ」


「一つ言っておきますが、エンドーさんの一番は私です。自分の立場を弁えてください」


「ふふふ、この私にそこまで言う女は何年ぶりかしら。上等よ。どちらがよりエンドー君を満足させられるか、勝負しようじゃない」


「……そうですね。ちょうど兵士から逃げていたせいで服も汚れてしまいましたし、お風呂でやりましょう」



 ん? え、お風呂?



「お、おい、アリエル。風呂って――」


「む? 風呂なら妾も入るのじゃ!!」



 こうして俺たちは四人でお風呂に入ることになってしまった……。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「次回、二度目のお風呂回!!」


エ「怒られない程度に……」



「精霊の死体埋めてんの草」「夫も浮気してんのかい」「次回を楽しみにしておこう」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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