第5話 脇役、中ボスと対峙する
追っ手を始末し、改めてアリエルと今後のことを話そうと隠れ家へ戻る。
その時、俺はふと違和感を感じた。
「……誰だ?」
家の中からアリエル以外の気配がする。
無断で俺の隠れ家に来るような奴は片手で数えるくらいしかいない。
俺は細心の注意を払いながら、玄関の戸を開けてリビングへ向かった。
リビングに入ると、そこには見覚えのある狐の耳と尻尾を生やした金髪美少女が着物を着崩してソファーに寝転がり、お腹を出して爆睡している。
その横で静かに佇むアリエルは、少し気まずそうにしていた。
「あ、エンドーさん、お帰りなさい。エンドーさんにお客様です」
「……アリエル、ちょっとこっちに来てくれ」
アリエルに手招きすると、彼女は首を傾げながら俺の方に近づいてきた。
俺は同時にガトリングガンを錬成。
ソファーで眠りこけている少女に容赦なく鉛玉をぶち込む。
「くたばれ害獣があああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
「ほへ? ぎゃん!?」
「エンドーさん!?」
家の一部が崩壊するが、そんなことは欠片も気にせずガトリングガンを乱射する。
人間なら確実にミンチと化すだろうが、この程度で奴は死なない。
俺はガトリングガンを投げ捨て、すぐに次の武器を錬成する。
それは一見すると、ただの鉄の筒のようにも見えるだろう。
大砲と呼ぶには少し小さく、人の手で持ち運べる大きさだった。
その筒を肩に担ぎ、照準を合わせ、俺は叫ぶ。
「ファイヤーッ!!!!」
トリガーを引くと同時に、無反動砲から放たれた弾が少女に襲いかかる。
一発では不安だ。
二発、三発、四発と魔力が許す限り大量の弾を錬成し、撃ちまくった。
これだけ撃てばそれなりに効いているはず。
「い、いきなり何をするのじゃー!!!!」
「……チッ」
「うぉい!? ま、待て!! 待つのじゃ!! 舌打ちしてもう一発撃とうとするでない!!」
瓦礫から飛び出してきた少女はサッとアリエルの後ろに隠れてしまった。
「おい、害獣。アリエルから離れろ。殺すぞ」
「ふ、ふん!! やはりこの娘に手出しはできぬようじゃな!! さすが妾!! 敵の弱点を瞬時に見抜くとは素晴らしいのじゃ!!」
少女がニヤニヤと笑って自画自賛する。
さすがにアリエルごと撃ち抜くわけにはいかないので、俺も攻撃の手を止めた。
すると、アリエルが少し驚いた様子で問う。
「あの、エンドーさん。こちらの方とお知り合いなんですよね?」
「知り合いじゃない。敵だ」
「うむ、こやつと妾には切っても切れぬ因縁があるのじゃ!!」
「……お二人に何があったんです?」
アリエルは俺が少女に敵意を剥き出しにする理由が分からず、首を傾げていた。
別に隠すことでもないので答えておく。
「こいつは――コンはこのダンジョンの中ボスだ」
この狐の耳と尻尾を生やした美少女の名前はコンと言う。
『輝く星空の下で』の世界には、獣人という種族がいるが……。
こいつは彼らとは全く違う。
元々は普通の魔物だが、ダンジョンを作った精霊に捕まり、守護者としての役割を与えられ、ダンジョンの中層で長く暮らしていた。
その結果、人に近い姿を獲得。
ゲームでは中ボスのくせに生半可な装備やレベルでは勝てないことから、プレイヤーに嫌われていた魔物だ。
しかし、俺がダンジョンに侵入し、ここの支配者である精霊を抹殺。
ダンジョンの主が不在となったことで、コンを縛っていた契約が中途半端に解けてしまった。
ダンジョンで生きる魔物は絶命しても時間経過で復活する。
代わりに精霊には逆らえないという契約を結ばされるのだが、俺が精霊を始末したことで、コンは不死性を持ったまま自由意志を獲得した。
それ以来、何かと嫌がらせをしてくるのだ。
「そいつは俺が隠れ家の裏手で育てている野菜や干し肉を盗み食いする常習犯でな。だから駆除する。害獣は抹殺だ」
「……盗み食いしてたんですか?」
「い、いや、し、してない、こともない、のじゃ。たまーに腹が減った時に、落ちていたから食べただけなのじゃ」
「盗み食い、したんですか?」
「う、うむ……」
アリエルがコンに詰め寄ると、コンは視線を逸らしながら頷いた。
「いくら構ってほしいからと言って、そんなことをしていては嫌われてしまうだけですよ」
「ぬぁ!? お、お主!! それは秘密にしろと言ったではないか!!」
「……何の話をしてんだ?」
「コンさんはエンドーさんがダンジョンの主、精霊を倒したことで自由の身となり、それについてとても感謝していたようです」
俺は感謝と聞いて耳を疑う。
コンが今まで俺にしてきた嫌がらせは酷いものだった。
とても感謝しているとは思えないくらい、本当に酷かったのだ。
「感謝してるなら盗み食いはやめろ。あとたまに毒のある植物や魔物の死骸を玄関口に置いてくのはやめろ」
「あ、後者は誤解のようです」
「……誤解?」
「それは嫌がらせではなく、お礼に綺麗な花や獲ってきた魔物をプレゼントしていたみたいです」
「は? プレゼント?」
ふと思い返してみる。
言われてみれば、コンの持ってきた毒のある植物は綺麗な花を咲かせていた。
魔物の死体に関しても死にたてほやほやな状態だった。
まさかとは思うが、本当に嫌がらせの意図はなく、俺へのプレゼントだったのだろうか。
「おい、コン。今の話は本当か?」
「ふぇ!? ち、違うのじゃ!! その小娘が適当なことを言っておるだけなのじゃ!!」
「ただの照れ隠しです。無視していいかと」
「ええい!! やかましいのじゃ!! 妾はもう帰るのじゃ!! お主との因縁を晴らすのはまた今度にしてやるのじゃ!!」
そう言ってコンが四足で駆け出し、そのまま玄関から飛び出してしまった。
俺はふと呟く。
「……これがコン狐、か」
俺が嫌がらせだと思っていた行為が全て好意によるものだとしたら、コンにはかなり申し訳ないことをしてしまった。
……今度またうちに来たら、お茶くらいは出してやろうかな。
野菜を盗み食いしたら駆除するが。
「取り敢えず、壊しちまった家を修繕するか」
「手伝います」
「じゃあ窓を開けて、箒で土埃を掃いてくれ」
「分かりました」
俺は土魔術を使い、ガトリングガンや無反動砲でめちゃくちゃになってしまった家屋を直す。
まだ少し土埃で気になるところはあるが、ひとまず落ち着いた。
「さて、と。アリエル、お前に話しておきたいことがある」
「なんでしょう?」
俺は王都で起こったことを端的に話した。
追っ手は始末したが、おそらく俺も狙われているであろうこと。
アリエルが本格的にアンダレンシア王国と事を構えるなら、俺もできる限りの協力をする旨も伝えた上で、改めて問う。
「アリエルは、学院の奴らに復讐したいか?」
「……」
俺の問いにアリエルは答えなかった。正確には答えられなかったのだろう。
「返事はすぐじゃなくてもいい。時間なら沢山あるんだ、じっくり考えろ。……俺はちょっと風呂に入ってくる。汚れちまったからな」
「……分かりました」
俺はリビングを出て浴室へ向かった。
服を脱ぎ捨て、熱めの温度に設定したシャワーで身体についた汚れや汗を洗い流す。
と、その時だった。
「あの」
「……え?」
何故かタオル一枚で胸を隠したアリエルが、浴室にまで入ってきた。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「次回!! 怒られる覚悟はしている!!」
エ「程々に頼む……」
「狐っ娘ええ子やん」「コン狐で笑った」「次が楽しみだ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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