夢を成し遂げた者と捨てた者

さべーじ@らびっと

序章 夢見た憧憬

眩い照明の光。


周囲から轟く歓声の声。


バスケットコートを駆ける選手とそれに魅了される観客の熱気。


幼いころから夢見た憧憬。



願って止まなかった夢の舞台コート


其処に自分がいる。


幾度となく夢想した光景に、今見えているこの光景もまた夢ではないかと思う浮ついた気持ちがある。


だが、鬩ぎ合う選手が発する鋭い声、シューズとコートが奏でる特徴的な摩擦音、そして鼓膜を震わす大歓声が轟くたびに

自分が今居るのは現実であることを認識させられる。



コートでは互いの選手が1つのボールを巡り入り乱れ、ゲームのイニシアチブを素早く入れ替わる様が繰り広げられる。


一瞬も集中を途切らせることができない緊張感、一瞬の隙を突き集中力を研ぎ澄ませて放つ3ポイントシュート、相手のドリブル・シュートを阻害するスクリーン……。


幼少期から数えきれないほど繰り返してきた鬩ぎ合いだが、目の前で繰り広げられる妙技はプロバスケットボールの名に相応しい力強さと鋭さに満ち、それを直に受けた自分の体は気の昂ぶりが抑えきれない。


本当に自分は此処まで来られたと、改めて実感する。


そしてこの場にはもう一人、同じ夢を抱き、共に目指した最愛のパートナーも居る。


1人では辿り着けなかった……。

彼女がいたからこそ、この舞台に立つことができた。



―――――――”  ・・ッ!”―――――――

 


自分を呼ぶ声が聞こえる。



苦楽を共にした彼女は、あの時・・・と変わらない快活な笑顔を自分に向けてくれている。


俺は声には出さず、いつの日からか彼女との間で通じるようになったハンドサインサムズアップで彼女に答える。

彼女もそれに合わせる形でハンドサインサムズアップを返し……視線を絡ませる。


時間にして1秒足らず……ごく僅かな時間だが彼女の瞳の中には、試合への自信と自分へと向けられた想いが受け取れる。



言葉を介さず、視線や仕草で互いの想いを感じ取る。


一つ間違えればすれ違いや疑心を生みかねないが、痛みと苦しみを分かち合い、支えあってきた彼女との間に信愛の念しかない。



今でも思い返す、苦悩と怒りが内から滲み出てくる理不尽なまでの悪行。


多くの人間の精神を犯しその後の人生をも狂わせた忌まわしい悲劇。



それらを乗り越え彼女と心で通じ合える関係となったあの時を思い返す……


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る