【魔力のない冒険者】  魔力はありませんが、剣術だけで最強の冒険者を目指します!

さい

第1話

 世界最大級の冒険者都市──ワシルトンシティ


 広大な平野にそびえる高層建築群と石畳の広場。

 人々が行き交う中央大通りには、世界各地から集まった冒険者や商人、魔術師たちが絶え間なく足を運んでいる。

 そんな都市の片隅にある古びた居酒屋『砂塵亭』。

 そこは、新米冒険者や引退した歴戦の猛者たちが集まり、語らい、明日への英気を養う場所だった。

 カウンター席に座る少年は、黒髪テンパが特徴的で、その瞳には決意の光が宿っている。

 彼の名はザンバ=フロンテス。

 まだ冒険者ですらない彼が、その居酒屋にいる理由はただ一つ──今日が年に一度の冒険者試験の日だからだ。


「おっちゃん、この世界で一番強い冒険者は誰だ?」


 ザンバの問いかけに、居酒屋のオーナーは皿を拭く手を止め、満面の笑みを浮かべた。


「そんなの決まってるさ。誰だって知ってるよ!! ガンバ=フロンテス、このワシルトンシティが誇る英雄中の英雄だ!!」


 オーナーの声は他の客にも聞こえるほどに大きかった。


 その名前を聞いた瞬間、店内に居た数人の冒険者たちが振り返る。

 ザンバの表情は微動だにせず、ただ静かに立ち上がると、銭をカウンターに置き、ニヤリと白い歯を見せて言い放つ。


「今はな、ただなおっちゃん。あと数年もすれば、世界最強の冒険者はこの俺──ザンバ=フロンテスになる。覚えておけよ!!」


 少年が居酒屋を後にすると、オーナーは苦笑いを浮かべた。


「ふっ、威勢のいいガキだな。まるで若い頃のガンバを見ているようだ。ん、フロンテスって……あいつ、もしかして……!!」


 その言葉に、常連の一人が応じる。


「けど、あいつから魔力を感じなかったぜ。冒険者試験なんて到底無理だろうよ、苗字もたまたま一緒なだけだろー」


 しかし、ザンバにはそんな陰口など聞こえることなどなかった。

 いや、たとえ聞こえていたとしても、彼を止めることはできないだろう。

 彼はすでに自分の道を選んでいた。


 この世界では、魔力こそが冒険者の命とされている。

 魔力を使った攻撃、防御、補助──それらはすべて冒険者にとって欠かせないものだ。

 しかし、ザンバは生まれつき魔力を持たなかった。


 普通の人間なら諦めて農夫や商人として生きる道を選ぶだろう。

 だが、ザンバ=フロンテスは違った。


「魔力がなくても、俺は戦える!!」


 彼は鍛錬の末に魔力に頼らない剣術を極めることを決意した。

 剣の動きひとつひとつを洗練し、己の肉体を鍛え上げる日々。

 彼を支えたのは、幼少期に聞いた父の武勇伝と、「親父を超える存在になるんだ」という想いだった。


「うっし、冒険者試験……合格してやるぜ!!」


 ザンバは試験会場へと続く階段を駆け上がる。


 冒険者試験の受験者数は毎年10万人を超えるが、その中で合格するのはわずか10人程度。

 合格率は一万分の一。

 さらに、試験の途中で命を落とす者も少なくない。


 しかし、ザンバの足取りは軽やかだった。

 周囲の受験者たちは、全員が手から魔力を放ち、簡単な魔術を披露している。

 そんな中で、ザンバは一切の魔力を感じさせない剣を背負って立っている。


「へっ、魔力もねぇやつが来るなんて、場違いだな!!」


 見下すような声が後ろから飛んできたが、ザンバは振り返ることもせず、ただ前を見据えるのであった。


「全受験者、列を作れ!! これより第一試験を開始する!!」


 しばらくすると試験官の声が響く。

 第一試験は"魔獣討伐"。

 受験者たちは指定されたフィールドに放たれる魔獣を制限時間内に討伐し、その証を持ち帰る必要がある。


「ふん、魔獣ねえ……ちょうど腕試しにいい相手だな!!」


 ザンバの心は昂っていた。

 

「準備ができたものから、この魔法陣の中に入れ!! フィールドである試しの森へワープするからな。証を手に入れた者だけがここに戻ることができる!!」


 こうして、第一試験が始まるのであった。

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