騎士様の過去(後編)

魔女はヴィルヘルムの言葉は不快を顔に出す。



「私は無視?東の国の王様」

「いいや。君とは初めて会うね。初めまして、ヴィルヘルムだ。私のことは知っている様だね」

「ええ、勿論。剣豪ヴィルヘルム」



魔女は指を鳴らすと5つの巨大な口が出現する。それを見た騎士達は「何だあれは…!」とどよめく。

そんな中ヴィルヘルムは思わず口角が上がってしまう。強い敵に会えるのは過去の剣豪の名が高ぶる。



「それが魔女の力か!はっはっは、面白い!」

「…」



ヴィルヘルムは地面を蹴ると魔女の力の人間のの口に真っ直ぐ突っ込む。一瞬で八つ裂きにされるそれに魔女はヴィルヘルムから距離を取る。



「(ダメね、こいつ。魔女を見て怯まないなんて)」

「もう終いか!?私はまだやれるぞ!」



ヴィルヘルムが躊躇なく魔女の腹を真っ二つにする。しかし、血は出ず、魔女の上体は宙に浮いた。魔女に痛みはないのかくすくすと笑っている。



「いいわ、今日は陛下に免じてお暇しましょうか」

「…」

「久しぶりに強い人間に出会えたわ。惚れちゃいそう」

「すまないが、私は亡き妻を愛しているのでね」

「あら残念」



ふふ、と魔女は楽しそうに笑うと砂になって消えた。ふうとため息を吐くとヴィルヘルムは剣を仕舞うとルイに近寄った膝をついた。「大丈夫か。もう終わったぞ」と手を差し出す。



「…」



ルイは体を起こすとキッとヴィルヘルムを睨みつけた。勢いよく彼の差し出した手を払いのけると怒りに任せて叫んだ。



「煩い!終わってなんかない!」

「…」

「陛下だか剣豪だか知らないけど来るのが遅いんだよ!村はめちゃくちゃ、父さんも母さんも死んだ!皆死んだ!」

「…」



「おい、子供!陛下になんて口を…!」と騎士が止めに入るがヴィルヘルムはそれを無言で静止させた。


今更助かっても、どうにもならない。聖女様の眼球も。

自分の情けなさでどうにかなってしまいそうだ。

行き場のない怒りをヴィルヘルムにぶつける。



「俺は何もできなかった!悔しい…!もっと鍛錬すればよかった!そしたら全部守れたはずなのに!」

「…」

「魔女とだって戦えたはず!なのに…!俺は…逃げてばかりで何も…」

「そうか、」



ポロポロと涙を流して下を向く。

ヴィルヘルムは立ち上がってルイを見据えた。自責の念に駆られて壊れかけているルイに言葉を投げかける。



「なら強くなれ。鍛錬を重ね、力をつけろ。だが、ここまで生き延びたのはお前の強さだ、誇って良い」

「…」

「ついてこい、私が直々に稽古をつけてやる」



ルイの瞳に光が宿る。まるで道標を灯してくれたような。

この人についていけば、強くなれる。魔女とだって戦える。

しかし、ルイは手を叩いてしまった手前、素直になれずにぷい、と横を向いた。



「嫌だ。胡散臭いもん、おっさん」

「はっはっは、生意気な子供だ。鍛え甲斐がある」







「それからこの城に住むことになって、毎日陛下に扱かれる日々。当時の俺は素直じゃなかったから何度も命令に背いたり、刃向かったりした」

「(今も素直じゃない気がする)」

「騎士団長やメイド長にもよく叱られてたなあ、そのおかげで丸くなったものあるけど」

「ふふ」

「?どうしたの?」



ルイは不思議そうにソフィアを見ると、彼女はくすくすと口元に手を当てて笑っている。



「反抗期な騎士様がかわいくて。陛下ととても仲良さそうで羨ましいです」

「えっ、そうかなあ…俺はどっちかというとソフィアにはかっこいいって思われたいな」

「可愛いしかっこいいですよ、騎士様は」



にこにこ、と微笑むソフィアにそう言われてルイは照れる様に頬を掻く。


こうして騎士様が昔のことを話してくれて嬉しい。


相手を信じれば相手も自分も信じてくれる。そう思うと胸の中が温かくなる。


ソフィアは祈る様に手を合わせると感謝した。



「話くれてありがとうございます。私は騎士様を尊敬します。騎士様はやっぱり優しい人です。貴方に聖女様のお導きがありますように」

「…ソフィアは聖女様が好き?」

「え?」



ルイの唐突な質問にソフィアに驚いて合わせていた手を解いていた。


考えたこともなかった。好き…というか憧れに近いと思う。

聖女は絶世の美女でとても優しく穏やかで女神様のような人だと、教えられた。

苦しんでいる人を見返りもなく助け、光へと導いた人。



「聖女様みたいな人になれたら!って思います!

「そっか。俺はソフィアはソフィアのまま、素敵だと思うよ」

「そっ、そうですか…?騎士様がそう言うならそのままでいいかも…?」



素敵だと言われて顔を赤くするソフィア。 

どこまでも自分に従順な彼女にルイはあー…と心の中で呟く。

不味い扉開きそう、いや開きたい。

ルイはソフィアに顔を近づけると真剣に言った。



「ソフィア、そうやって従順でいるの俺に対してだけでいてね」

「?わかりました」

「…」



そんなすんなり頷かれたら。

素直で従順で可愛い女の子。この調子では他の人間に取られても時間の問題だ。

だってこの子、知らない人にもついていきそうで。

ルイは気持ちを抑えるように片手で顔を覆った。


一方よくわかっていないソフィア、首を傾げる。

メイドが騎士様の言うことを聞くのは当たり前では?と。



「そ、それより今週末は懇親会だね」

「そうですね!先輩からスイーツが沢山出るって聞いて楽しみです!」

「ソフィアは甘いもの好きだもんね」

「お酒も出るそうですね。私は未成年なので飲めませんが、騎士様はお酒飲みますか?」



お酒のワードを聞いてルイはハッとした。


やばい、そうだった。絶対失敗しない様にしないと。ソフィアにかっこ悪いところは見せられない。嫌われたくない、幻滅されたくない。

以前、アルトと酒場で飲んで一瞬で記憶を無くして、起きたら部屋にいた。アルトに聞けば



「俺も何も覚えてないんだよなー!起きたら部屋にいた!」

「待って…俺たち…その不味いことしてないよな?」



吐き気がする。

いやいやいやそんなまさかアルトとそんなまさか。

気持ち悪さが勝ってしまう。そんなルイに酔いがハイテンションのまま答える。



「それはないって!俺たち服着てるし!」

「そ、そうだよね…はあ、安心した…うえ、吐きそう…」

「お前も結構飲んでたもんなー」



ぜっっっったいにあんなこと起きてはならない。酔っ払って何をしでかすかわからない。

酒は好きだが、飲まれたくない。絶対飲まないようにしよ、と誓ったルイであった。

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