聖女様の末裔の見習いメイドは元不良騎士様に溺愛される
ゆずぽんず
見習いメイドは奮闘中
聖女様の末裔
私の家は所謂聖女様の末裔だ。
もう300年も前の話だ。
ある教会に一人の女の子の赤ちゃんが置き去りにされていた。
そこの教会の神父やシスターはその子を育て愛した。
その女の子が6歳になるころ、不思議なことが起こったらしい。
怪我したところを触れれば一瞬治り、病気も彼女が祈ればたちまち元気になる。
神父やシスターは彼女を聖女だと崇め、城の王様に彼女を紹介した。
まだ幼い子ができるわけもない、王様以外の人間はそう思っていた。しかし王様は不治の病だった妃の病気を治してくれ、と藁にもすがる想いで言った。
聖女の女の子は祈った。
するとどうだろう、病気は治り妃の身体はみるみる回復した。
そして正式に聖女となった少女はお城に住むことになり、そこで出会った騎士と結婚し静かに東の国の田舎町で生涯を終えた。
これが我が家に代々受け継がれる昔話だ。
その聖女様は透き通るよう空を切り取ったような瞳の色をしていたらしい。私と同じだ。
空を見る時、この色が私の瞳の色なのかなと思う。
私が生まれた時、家族は大層驚いたそう。皆茶色の目をしているのに私だけ聖女様と同じ瞳の色。
また聖女様が現れた!と家族はてんやわんや。でも治癒の力も何もなく、瞳の色以外は普通の女の子。
ウェーブした長いピンクの髪もおばあちゃん譲りだし、身長低いのはお母さん似かな。
聖女様は東の国のお城に住んでいたらしい。ここは田舎町、都会なんて行ったことの私にとって未知の世界だった。行ってみたい、聖女様と同じ景色を見てみたい。
そして願わくば!!
騎士様とお付き合いしてみたい!!
違う!!
お友達になりたい!!!
私は鏡を見ながら髪を整える。大好きなバレッタつけて今日、お城に向かうのです!
と言っても…聖女様としてではなくメイドとして。
今日からお城のメイドとして働くことになったのです!楽しみだなあ、お城の中どんな感じなんだろう!
勉強は苦手な方だけどメイドになる為に頑張って作法も礼儀も学んだ。
「ソフィア〜、支度終わった?朝食できたわよ」
「お姉ちゃん!うん!今降りるー!」
姉が朝食に呼んでくる。今日は家族で食べると約束していたのだ。
私がお城に出発してそのままお城の宿舎に住むから暫くは家族とさよならなの。
茶色の大きなトランクケースを持って気をつけながら階段を降りる。
「「「「いっただきまーす」」」」
朝食はスクランブルエッグにソーセージ、サラダにクロワッサン。
家族四人、父、母、姉、私で朝食を食べる。
「ソフィア、ハンカチは持った?忘れ物してなきか確認した?」
「もう、お母さん。昨日の夜何回もしたよ」
「だって暫く家には帰って来れないんでしょう?
城下町は栄えてるから何でも売ってると思うけど、お金だって限りがあるし。できる限り持って行きなさい」
「持って行きすぎてケースぱんぱんだよ。大丈夫。忘れ物してないよ!」
朝食を食べて片付けようとしたら「今日はやらなくていいわよ、私がやるから」とお姉ちゃんに言われた。あの!めんどくさがりやなお姉ちゃんが!!
「あんたがメイドねえ…大丈夫なの?」と言われた。大丈夫なの?とは?
「あんた、男の子苦手じゃない。お城には男性の従者もゴロゴロいるのに耐えられるの?」
「し、仕事だもん!大丈夫!」
「騎士なんてめっちゃむさ苦しいわよ。やだやだ、私爽やか系がタイプだなー」
「お、お姉ちゃんのタイプは知らないけど…。騎士様だって優しい人いるよ!」
知らないけど!
仮にも聖女様と同じ瞳してるんだから、聖女様みたいにかっこよくて優しい騎士様と…なんて想像しているとお姉ちゃんにはっと鼻で笑われた。
「聖女様は絶世の美女だったらしいわよ」
「むきー!」
「はいはい、二人とも。喧嘩しないの。暫く会えないんだから仲良くしなさい」
お母さんが間に入ってくれて場が収まった。
お姉ちゃんは本当、めんどくさがり屋だしすぐちょっかい出してくるし一言多いし!
「じゃあ行ってくるね」
紺色のワンピースに黒いリボン。きっちりとした服装をもう一度確認して玄関でローファーを履く。
お父さんは「う、う…いつの間にかこんな立派になって…」と涙ぐんでいた。涙を拭くと私の肩に手を置いた。
「頑張ってやってくるんだぞ。困ったことあったらいつでも連絡してきていいから」
「うん!頑張る!困ったことなくても連絡する!」
「ああ、それと陛下にもよろしくお願いします、と伝えて」
陛下。
私が生まれた時、混乱した家族が当時王子様だった陛下に連絡してしまった。聖女が生まれたと。王子様はこの家にわざわざ訪れたきたが、私に何の力もないと知るとこう笑った。
「あはは、聖女様ではなかったが聖女様の面影が残っているのは喜ばしいことだ。この子の幸福な一生は私が祈ろう」
聖女ではない私を引き取る提案をしたらしいが、両親がそれを断った。
確かに瞳は珍しいがお城の方の手を煩わせるわけにはいかない、と。
「ソフィア。気をつけてね。お友達とも仲良くしてね。お菓子入れておいたから今夜食べて女子会するのよ」
「うん!ありがとう、お母さん」
友達も一緒にメイドになったから心強い。一緒にお城に向かう約束をしているの。
さっきからずっとだまっているお姉ちゃんに私は話しかけた。
「…」
「お姉ちゃんからは何かないの?」
「どうせ長期休みには帰ってくるんでしょう?別に…」
「もうー、一言くらいあってもいいのに」
あ、もう時間だ。
私は重いトランクケースを持って玄関を出ようとするとお姉ちゃんに名前を呼ばれた。足を止めて振り向く。
「ソフィア。赤い瞳の人間には気をつけて」
「え?」
「ほら遅刻するわよ。初日遅刻はありえないから早く行きなさい」
赤い瞳?何それ。
お姉ちゃんに背中を押され、玄関を出る。
「頑張って、応援してる」
「うん!行ってきまーす!」
新生活、頑張ります!
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