第六章 3-2 復讐


「復讐を」


 無防備に両腕を広げたミコトに向けて、政子に背中を押された武が数歩近づく。

 彼の伸ばされた手は、彼女と手を繋ぐためではなく、拳銃が握られていた。


「おい、やべーよ。撃たれたらマジで死んじまうよ。早く助けろよ」


 本来戦女艦艇は平常時でも身体の表面に薄い防御を張っている。その防御は標準機能らしく、彼女たちの意志ですら薄くすることはできても、完全に解除することはできない。


 しかし原因不明のコア出力不調に陥っているミコトには、その平常時の防御すらない。彼女自身が言った通り、拳銃弾ですら傷つけることが可能だった。


「もう少し待ってろ。いまはあいつとあの子の時間だ。それは奴だってわかってることだ」

 草薙の言葉に、澄礼は囁くような声で言った。


 構えた大型ライフルの照準装置から目を離していない彼女が、どこを見ているのかは草薙にはわからなかった。

 時々ウカが戦況を耳打ちしてきていたが、詳しいことは司令室に行かなければわからない。端末でもある程度確認はできるが、画面が放つ光を発見されるわけにはいかないから、それを確認することはためらわれた。


「あのとき、あの場所に落ちてきたのは、ミコトだったんだな」


 ただ構えていただけの拳銃を構え直すのが見えた。

 遠目にも惚けているように見えた武は、いつの間にかミコトの視線を受け止めていた。


「はい」

 握った拳で胸元を押さえて、ミコトは短く答えた。


「俺のことを、憶えているのか?」

「はい。――マガツヒであった頃の記憶は、ありません。武さんの両親を殺してしまったことは、コアユニット生成のために得られる情報の中で知りました。でも、でもわたしはあのときのことを、武さんと出会ったときのことは、はっきりと憶えています」


 わずかにうつむいたミコトは、もう一度武のことを見る。


「例えどんな形だったとしても、わたしが武さんの両親を殺してしまったことには、変わりがありません。だから、だから構いません。貴方に殺されるのならば、わたしはそれで構いません」


 距離にして一〇メートル以上あるにも関わらず、そう言ったミコトが、武に笑いかけているのが草薙にも見えていた。


 武が、ミコトに向けた銃の撃鉄を起こした。

 ちらりと澄礼の方を見るが、彼女はそれでも動かない。引鉄に指はかけているが、それを絞る様子はない。


「ミコトは、約束を憶えているか?」

 慎重にミコトの胸元に銃を向けながら、武が言った。


「やく、そく……」

「そうだ。あのとき、あの場所で、俺と交わした約束のことを、ミコトは憶えているか?」

「……はい」


 銃を向けられながら、ミコトはそれまで震えていたのとは違う、落ち着いた声で応えた。


「全員突撃準備」

 マイクに向かって澄礼が囁いた。


「わたしは、あのときの武さんの想いに触れて目覚めたのですから」

「なら、あのときの約束は、いまでも有効だ。ミコト、俺は君と一緒に生きていきたい」


 武がそう言った瞬間、澄礼が「ゴー」と小さく言うのが聞こえた。

 それとほとんど同時に、振り向いた武が、政子に銃を向けるのが見えた。


 草薙のすぐ近くで、ライフルの立てる大きな発砲音が響いた。


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