第二章 4-1 発見
* 4 *
「いた」
「あ?」
助手席の少女の呟きに、男がそちらをちらりと見ると、彼女はどこか遠くを見ていた。
車は杉並地区を流しているところだった。
この辺りはまだ「狂気の選択」の爆心地から遠く、車の通りも人の流れも多いが、隣の中野地区に入るとぐっと少なくなる。人が少ない方が見つけやすいだろうけれど、どこにいるのかわからないのだから、どこを探せばいいのかなどわからなかった。
そろそろ別のルートを回ろうかと考えている最中に、少女が声を上げていた。
「何がだ?」
「目標」
男の問いに、少女は莫迦にしたような視線を向けてきた。
「ちっ。もう見つかっちまったか」
逃走から五日目。いろいろある仕事を放り出したままで、おそらく帰れば地獄をみることになることはわかっていたが、男は思わずそう呟いていた。
少女がカーナビを操作して目標の方向を表示させる。ガイド表示に従って、男は車を左折させた。
「なんで見つかったんだ?」
制限ぎりぎりまで速度を上げながら問う。
「オープンネットに接続したと連絡が入った。通信は一瞬だったから詳しい場所まではわからなかったけど、だいたいの場所はわかった。ここの周辺半径二キロ以内にさっきまでいた」
目標地点は近くを走る電車の駅で、おそらく目標にしやすい場所を指定したのだろうことがわかった。
「仕方ねぇ。もう少し気合い入れて探すか」
駅周辺となれば、中野地区は人が少ないと言ってもそれなりの雑踏となる。目標の位置が特定できる前に歩き回って探すのは勘弁してほしいと男は考えていた。
そのとき車に設置されている通信機が呼び出し音を鳴らした。
車を走らせたまま応答する。
「はい、こちら少年少女探偵団」
『少女はともかく、どこら辺が少年かね? まぁいいとして、ウカから聞いているな?』
「えぇ。いまそっちの方に向かってるところです」
通信に出た男性は、軽口をあまり気にしている様子はない。
「発見にはもう少し時間がかかると思いますがね。あの周辺は人がけっこう多いですし」
『できるだけ急いでくれ』
通信相手の声は、回線越しながら重々しい雰囲気を感じさせた。
「どうかしたんで?」
『――デフコン3が発令された。いまのところIDEA(あいであ)の早期警戒網にそれらしい影が出ただけだが、数日中にデフコン2に移行する可能性があるとアヤカが言っている』
「そりゃ穏やかじゃない」
デフコンは元々米軍が使っていた警戒レベルを示す用語であるが、マガツヒへの対策をとりまとめている国際地球防衛機構IDEAもまた、その用語を使用している。
ファーストストライク以降、平時であるデフコン5になったことは一度としてない警戒レベルだが、デフコン3になるのは、早期警戒網の最大探査範囲となる、地球から二〇〇〇万キロから三〇〇〇万キロの範囲にマガツヒ艦隊の影が観測されたときだった。
何もないままデフコン4に戻ることも少なくないが、ファーストセブンのうちの一隻、アヤカシコネが勘とは言え警戒レベルが上がる可能性があると言っているのだから、今回は襲撃が起こると考えて動いた方がよいということだ。
「了解しました。できるだけ急ぎます」
『発見したら連絡を入れてくれ』
それだけ言って通信は切れた。
ひとつため息を吐き、男は少女に視線を投げる。
「さっさと連れ戻すっきゃないか。仕方ねぇ。お前をあんまり連れ回すわけにもいかなくなったみたいだしなぁ」
「……連れ戻すのが早い方がいいかどうかは、わかりませんが」
「なんだそりゃ」
謎の言葉を口にする少女、ウカの難しそうな表情をちらりと見ながら、男はカーナビの指示通りに新青梅街道に車を入れた。
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