半妖の少年退魔師。登録者数=霊力のチート能力に覚醒して最強配信者として鬼バズる。~モンスターを式神にしてダンジョンマスターに成り上がります~

空下元

第1章 底辺からの脱出

第1話 底辺のザコザコ配信者


「はぁ……。今日も同接0人か……」



 薄暗いダンジョンの中で、学生服に身を包んだ少年が深いため息をついた。

 撮影用の小型ドローンが、銀髪に黒いメッシュが入った童顔の少年を映し出す。


 彼の名前は『葛乃葉くずのは マサト』。

 東京都内の高校に通う2年生。フリーのダンジョン配信者だ。


 ダンジョンに潜る際、ネットで配信するのが最近の流行りだ。

 マサトも見よう見まねで始めてみたが……。



(何度見てもチャンネル登録者は増えていない……)



 スマートフォン片手に、再びため息。

 同時接続者数――生配信を見ている人数は0人。

 マサトの個人チャンネルに登録しているファンの数は、1人だけだった。



「1年続けてこの数字。最底辺だ。方向性が間違ってるのかな……」


「ギギィ!」



 マサトが思い悩んでいると棍棒を手にした小鬼が現われた。

 ダンジョン内で『ゴブリン』と呼ばれている鬼種のモンスターだ。



「あっ! 見てください。ゴブリンです。今から倒しますね」



 マサトは笑顔を浮かべて、ドローン搭載のカメラに手を振る。

 腰に携えた短刀を逆手さかてに引き抜くと。



「オン・ラクシャ・ソワカ」



 左手で護法の”印”を結び、刀身に霊力を込めた。


 マサトの実家、葛乃葉家は妖怪退治を専門とする退魔師の一族だ。

 妖怪もモンスターも同じ異形のモノ。退魔術式を使えば一撃で倒せる。


 ……はずだったが、刀身には何の変化も起きなかった。



「くっ……。やっぱり今の登録者数だと霊力が足りない……」


「ギッヒャヒャヒャーー!」



 話は終わり。オマエの人生もこれで終わり。

 ゴブリンは棍棒を振りかざしてマサトに襲いかかる。



「待って! まずは話し合おう。武器を下ろすつもりは……」


「ナギイィィィ!」


「だよね!」

 


 迫るゴブリン。振り下ろされる棍棒。



(やられる……!)




 死を覚悟した次の瞬間――




「そこの少年。お退きなさい!」




 背後から凜とした女性の声が響いた。

 女性が矢のように前へ飛び出す。



「ハッ!」



 踏み込みと同時に繰り出される銀のレイピア。



「ピギャァ!」



 一撃で倒されたゴブリンは断末魔を上げて、霧のように姿を消した。

 ゴブリンが消滅したのを確認すると、女性は長い金色の髪をなびかせて武器を鞘にしまった。



「危ないところでしたわね。お怪我はないかしら?」


「は、はい。ありがとうございます」



 差し伸べられた右手を掴み、マサトがコクコクと頷く。

 そこでマサトは気がついた。



(この子、どうしてビキニ姿なんだ……!?)



 均整の取れたメリハリボディを前に、マサトは目のやり場に困ってしまう。

 軽装の籠手こてや腰当ては装備しているものの、上半身はブラを身につけているだけだ。



(痴女……?)



 と、思ったがマサトは口にしなかった。

 命を助けてくれた女性に失礼だろう。



 ”さすが氷の剣姫けんきシルヴィアだ!”



 マサトが怪訝な顔を浮かべると、女性を撮影していたドローンから歓声がワッと響いた。



 ”上層のゴブリンなんて相手にならねぇな!”


 ”おい坊主。感謝しろよ。シルちゃんが助けに入らなかったら死んでたぞ”



「あ、ありがとうございます」


「目障りなゴミを片付けたまでのこと。アナタを助けたのはついでですわ」



 シルヴィアは澄まし顔を浮かべ、髪をかき上げながら鼻を鳴らす。



 ”さすがはシルヴィアちゃん!”


 ”水着姿でも剣さばきは変わらないな”


 ”眼福眼福。チャンネル登録しました!”



「ふふんっ。よろしくてよ」



 ドローンから流れる音声コメントに気を良くしたのか、シルヴィアが得意げに胸を張る。澄ました態度だが、目鼻立ちが整ったシルヴィアが微笑むだけで”様”になる。



 ”早く下層に向かわないとモンスターを横取りされるよ”


「そうでした。先を急ぎますのでこれにて失礼」



 シルヴィアは可憐なウインクを浮かべると颯爽さっそうと駆け出した。

 すぐにその姿は廊下の奥へと消える。向かう先は下層だろう。



「氷の剣姫シルヴィアか……」



 どこかで顔と名前を見た気がある。

 スマホで検索するとすぐにヒットした。


 登録者数200万人。

 大手配信事務所『Dungeon-Live』に所属するトップ探索者の一人だ。


『新衣装お披露目 水着チャレンジ』と題して、軽装での探索に挑戦しているらしい。そのおかげが、リアルタイム人気チャート1位をひた走っていた。



「プロは覚悟が違うな。生きる世界が違うよ……」



 マサトは現実をまざまざと突きつけられて愕然とする。

 同じような年齢の子なのに、シルヴィアはアイドルばりの人気者。

 一方のマサトは、誰にも見向きされない最底辺のザコザコ配信者だ。



(配信辞めようかな。いっそ田舎に帰るのもありか……)



 通ってる学校でも「底辺だ」と馬鹿にされ、上級生にいじめられている。

 探索も配信も上手くいかずにいる今、東京に留まる意味もなくて……。



「いや。まだだ……。ここで逃げたら僕は弱いままだ」



 マサトは拳を握り、自分を奮い立たせる。


 田舎でも特殊な生まれのせいで除け者にされてきた。

 そんな自分を変えたくて上京して、慣れないダンジョン配信も始めたのだ。

 どうせ逃げ戻っても居場所なんて何処にもない。



「目指せ登録者1億人! 僕自身で居場所を作るんだ。やってやるぞ……!」



 シルヴィアの後をついていけば、ダンジョンの下層にたどり着く。

 下層は強いモンスターが蔓延っており、ソロで探索する配信者は少ない。



(そこをあえてソロでいく。話題性はバッチリだ)



 配信でバズるには、ある程度の危険を冒さないといけない。

 多くの探索者を返り討ちにした強力なモンスターを倒したり、即死トラップをかいくぐり貴重なレアアイテムを見つけたり……といった具合だ。



(それと宣伝も大事だよね)



 先日、ダンション動画配信サイト『D-tube』の無料宣伝チケットが送られてきた。チケットを使うとサイトのトップページで配信を宣伝してくれるようだ。


 無料キャンペーンだから時間はものの数分。

 宣伝効果も微々たるものだが……。



(物は試しだ。使ってみよう。これでいいのかな?)



 登録の仕方がよくわからない。

 スマホ画面をポチポチ押していたら申請が通った。



(サムネイルがゴールドに光っているので成功だろう)



 マサトは配信枠をそのままにして、ダンジョンの下層へと向かった。




 ***



 この時、マサトは気がついていなかった。

 無料キャンペーンではなく、有料のプレミアムプランを使っていたことに。

 その結果、マサトの生配信はD-tubeのトップページに表示され続けて……。




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