14.アクシデント
「ケガしてない? 落ちたの、小石だけ?」
ディアランが頭を振ると、髪の間に入った砂や石が落ちてくる。
「でかいのは落ちなかったよ。あ、後ろでちょーっとやばい大きさの石が落ちたけど、おいらには当たってないし」
アシェリージェがディアランの服の土を払っていると、グレーデンとノーゼンが戻って来た。
「参った。思わぬ伏兵現る、だな」
「さすがに、自然災害までは気が回らなかったね」
どちらの格好も、ディアランと大差ない。ケガらしいものはなく、服や身体が砂埃にまみれている程度だ。
しばらくして、カムラータも戻って来た。
「タイミングが悪いったら、ないね。黒水晶が床に落ちて、割れるかと思っちゃった」
ひどい揺れのために、ポケットから黒水晶が落ちてしまったらしい。
ペンライトを持っていたが、暗い中で黒い物を探すのは困難。おかげで、外へ出るのに時間がかかってしまった。
戻るのが遅れたのは、そのせいだ。
「ここ、地震が起きやすい地盤だったのかな。この付近に火山はなかったよね」
ノーゼンが、ほこりまみれになったカメラのレンズを丁寧に拭いている。観光客らしく見えるためにずっと持ち歩いていたアイテムだが、実は趣味も多大に入っているらしい。
「火山はなかったはずだが、地盤についてまでは調べていなかったな。まぁ、ここへ来ることはもうない。最後のハプニングということで」
言ってから、グレーデンはその場にいるメンバーの顔を見回す。
「まだ……揃ってないのか」
「パパ、ダイウェル兄さんがまだ戻ってないわ」
アシェリージェが泣きそうな顔で、グレーデンを見上げる。
「ダイウェルのルートは、ダーリンよりちょっと遠いんだっけ」
この集合場所から一番遠い所へ出るルートを使っていたのは、カムラータだ。しかも、水晶を落としたので、戻って来るまで余計に時間がかかってしまった。
なのに、そのカムラータより近い場所から外へ出られるルートを使っているはずのダイウェルが、まだ戻って来ない。
胸騒ぎは……これのせい?
「あの弟に限って、滅多なことがあるとは思えないけどねぇ」
「だが、さっきの地震で道がふさがれた、ということも考えられる。ディアラン、通信できるか?」
こういう時のために、それぞれピアスのようなマイクを付けている。お互いの声を聞くことができ、見た目以上に高性能。壁ごときでその電波が遮られることはない。
ディアランがポケットから、スマホより薄く小さな銀色の箱を出した。何やらボタンを操作し、出力を最大に上げる。
「兄貴……兄貴、聞こえる? こちらディアラン。ダイウェル兄貴、聞こえる?」
何度か呼び掛けてみる。だが、返事はない。
「ウンともスンとも言わない。発信機も付けとけばよかったよ」
返事がないのは、返事できない状況か、マイクそのものが壊れてしまったか。
どちらにしても、あまりよくない事態になっている可能性が高い。
「時間が経ち過ぎている。ちょっとまずいな」
グレーデンが腕時計を見てつぶやく。予定では、すでにここを離れて車を置いている場所にいるはずだったのだ。
さすがに、誰もが楽観視できなくなってくる。
「あたし、助けに行ってくるっ」
「助けにって、どこにいるかもわからんのだぞ」
「だけど、あたしなら飛び回れるもん。今のみんなだと、走って捜すしかできないでしょ。そんなことしてたら見付かるかも知れないし、危険だもん。だから、あたしが行って来る」
「あ、待てっ、アシェ……」
アシェリージェの姿が消え、グレーデンの制止する声が途切れる。
「跳ねっ返りめ……。明かりの一つもなしに、迷路で捜せるのか」
「せめて、これを持ってってくれりゃねぇ」
ピアスを持って、ディアランがため息をつく。これがあれば、ここから少しはまともな指示が出せたかも知れないのだが……渡す暇なんてなかった。
「これで、ひょっこりとダイウェルが戻って来たりしたら……」
カムラータの言葉に、全員が冷や汗を流した。
「とにかく、私達はここで待つしかないね」
捜しに行くことができないもどかしさを噛み締めながら、残された彼らはひたすら二人の帰りを待つしかなかった。
☆☆☆
さて……どうするか。
暗闇の中で、ダイウェルは途方に暮れていた。その顔が、時々苦痛に歪む。
さっき起きた地震のせいで、ダイウェルの使うはずだったルートは崩れて通行不能になっていた。運悪く、進行方向の天井や壁が崩れ落ちたのだ。
しかも、その一部がダイウェルの右足を埋めてしまった。
人間の姿はしていても、人間離れした腕力がある。それと残された左足を使って、どうにかガレキから抜け出した。だが、無事とはいかない。
触るとどろりとした生温かい感触があり、ついでに足首の骨がやられているのを感じた。
くそっ……まさかこの俺が、こんな失態をしでかすとはな。
いつもなら、さっさと治癒させてしまうところだが、その力を使うと今度は完全に動けなくなってしまう。そのままにしていても、出血で体力が低下する。
身体が動いたとしても、行く手は土砂に埋まっている。今通って来た道は使えるが、仲間が使う他のルートまでは頭に入れていない。
外へ出るには、表の出入口を使うしかないのだ。しかし、すでにそこは無人ではない。
さっきの地震で間違いなく警備員は正気に戻っているし、黒水晶が盗まれたことにも気付いている。その一部を持っていることがわかれば、現行犯逮捕だ。
いつもならあらゆるパターンを想定するってのに、こんな時に限って……。
動きに不自由している時であるにも関わらず、何も対応策を準備していない。自分の無計画さに腹が立つ。これまでの「仕事」が問題なく終わったせいもあって、油断してしまった。
ダイウェルは今、壁一枚を挟んで警備員のすぐそばにいる状況だ。声を出せば、気付かれるだろう。
彼らがこちらへ入って来ることはできなくても、目を付けられる。強行に壁を破壊してこちらへ来ない、とは言い切れない。
そういう点でも、今いる場所は最悪だった。
ディアランが作ったマイクも地震の衝撃で落としたらしく、仲間と連絡を取ることもできない。こういう時に使うはずのノーゼンの薬も、恐らくガレキの下だ。黒水晶とペンライトだけが、かろうじて手元に残っている。
「見付かったかっ」
壁の向こう側で、あの警備員達の上司らしい男が怒鳴っている。
小部屋を警備していた二人の他に、遺跡の外にある詰め所で待機している警備員が二人いる、と聞いていた。そのうちの一人だろう。
声を聞いていると、地震が起きてから慌てて中へ入ると黒水晶が盗まれており、賊はまだ遠くへは行ってないはずだ、ということで、部下に捜させているらしい。
確かに時間はそんなに経っていないし、遺跡の周辺にいると考えるのは当然だ。実際、グレーデン達はまだあの集合場所でダイウェルの帰りを待っているだろう。
証拠を残さないようにするため、ペンライトとディアランのマイク以外、ほとんど何も持って来ていない。全員が一緒だから、スマホもホテルの部屋に置いて来た。せめてそれがあれば、とも思うが、ないものはない。
自分のことより、仲間の方が気になってきた。
警察に連絡が入ったとすれば、地震のすぐ後。通報を受けた警察がここまで来るのに、十五分はかかるだろうか。バスは三十分だが、緊急車両ならもっと飛ばしてくるかも知れない。
今日はグローリアの本番だから、かなりの警官がそちらへ差し向けられているはずだ。今はそんなに大人数では来ない……ことを祈るしかない。
「で……で……」
警備員の一人が、こちらへ来たようだ。
「どうしたっ。犯人はいたのか」
「で、出ました……」
そんな場合ではないが、こいつは部下にはしたくないな、などと考えるダイウェル。
「何が出たんだ」
「ゆ、幽霊ですっ」
「ばかもん。幽霊なんて、噂だっ。犯人を捜さんか」
「本当ですっ。俺の目の前で消えたんですから」
警備員が懸命に訴えていると、どこかで男の悲鳴が聞こえた。
「ゆうれいだぁ~」
「どいつもこいつも、何を言っているっ」
いらいらしたように、上司の男は足音を大きく響かせてそちらへ向かう。
「ああっ、置いて行かないでくださいよっ」
部下がその後を追って行ったようだ。とりあえず静かになり、ダイウェルはほっと息をつく。
「……さん……兄さん……」
か細い声が聞こえ、ダイウェルはぎょっとなった。
まさか……この壁の向こうか。
ちょうど回転扉のある位置で、その向こうから聞き慣れた少女の声が確かに聞こえた。
ダイウェルは左足だけで何とか立つと、回転扉をそっと押してみる。
「兄さん!」
そこには、間違いなくアシェリージェの姿があった。ダイウェルの姿を見付けてその顔が輝き、こちらへ駆け寄って来る。
「バカ、叫ぶな」
ダイウェルは駆け寄って来たアシェリージェの身体を抱きすくめると、その口を手でふさぐ。急いで壁の中へ入ると、二人は息をひそめた。
うわっ……ど、どうしよう。心臓の音、聞かれないかしら。
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