12 堀口純菜6


 純菜が怒っていると、勇者は後退ってパーティメンバーの女騎士とぶつかった。


「いてっ」


 その声を出した本人も純菜も不思議そうな顔になった。


「いま、痛いって言った?」

「うん……鎧がぶつかって……うわっ。硬くて冷たい」

「どうでもいいけど、絵面が胸を揉んでるみたいになってるわよ?」

「ち、違うからな!?」


 女騎士の鎧は勇者の願望で胸だけを鉄製品で守るようなデザイン。そこにぶつかったから鷲掴みにしてしまったので、純菜からは変態扱いされている。


「そっちも触ってみろって」

「うん……こっち見ないでね?」


 出演キャラまでリアルな感触になっていると聞いては、純菜も触りたくて仕方が無い。ただし、変な所を触っていると思われたく無いからか、勇者に釘を刺してからイケメン達を触りに行った。

 そうしてパーティメンバーを触り倒した二人は、30分後ぐらいに同時に戻って来た。


「ど、どうだった?」

「どうだったと聞かれても……そ、そっちは?」


 顔が真っ赤な勇者の問いに、歯切れが悪い純菜。どちらも異性の恥部まで触って来たから、この感想がどうしても聞きたいのだ。


「僕から言う! 胸の感触はいまいち分かりませんでした! アソコは……サッパリ分かりません!!」

「私のキャラは、付いてませんでした!!」


 なんだか若者の主張みたいに勇者が告げると、純菜も自棄やけになって感想を述べた。


「結局の所、見た物や触れた事のある物しか再現が出来て無いって事だな?」

「だね。見た事も無いし……」

「……本当に??」

「すいません。嘘吐きました……」


 ネットにはそんな画像は多々あるし、全てをさらけ出している勇者の問いには、自分が恥ずかしくなって素直に謝罪する純菜であった。



「それで~……ど、どうする?」


 最初の一歩。ここを乗り切れたら夢の中でもアダルトな展開をやりたい放題出来るのだから、勇者としてはお互いの体を確認したいからの質問。


「個人的には……やっぱり無理! そんなの出来無いわ」

「だよな~……僕も踏ん切り付か無いし」


 どちらも興味は物凄くあるが、夢の中とはいえ何処の誰かも分から無い人間とそんな事をするのは勇気が出無い。


「あ、そうだ。さっきキャラを調べていて気付いたんだけど、キャラに重量があるみたいだよ」

「え??」

「だから、持ち上げてみたら結構重かった。多分、これが殴った時の違和感の正体だと思うんだよな~……何その顔??」


 勇者が真面目な分析を告げているのに、純菜は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。


「男は狼って言うから……しつこく言って来ると思っていたから……」

「あ、エッチな話? 人が嫌がる事はやらない主義なんだよ。その分、夢の中のキャラにはやっちゃってるけどね」

「そう……」


 性に貪欲では無いと聞かされた純菜は、勇者の事を少し見直した。絶対に襲って来ると思っていたみたいだ。


「えっと……なんの話してたっけ? そうそう。重さも加味して殴ら無いと、自分が怪我するって話。もしくは、自分の設定をもっと練って、完全無欠の体にするとかね」

「夢の中で怪我するって……流石にそれは無いんじゃ無い?」

「可能性の話。こないだ王子を殴ってから手と足が痛かったから、ここの可能性が高いと思う」

「まさかそんなこと……」


 これだけリアルな感触のある夢なのだから、純菜も少し信じている。


「もしもの場合は、回復魔法で治したらいいんじゃ無い? そしたら完全回復して起きられるでしょ??」

「あ、そうか。手でも足でも、取れたら簡単にくっ付けられるか」

「そそ。でも、これからの夢は怪我に気を付けなきゃいけ無いのね……即死の攻撃とかは考え無い方が良さそうね」

「確かに……普通の攻撃でも痛そうだから、対策は考え無いとな~」


 なんだかんだで話が合う二人。夢のシチュエーションによっての対策まで考えて、話が尽きないのであった。



「ああ~。喋り疲れた……」

「私も……微妙に喉が痛い気がするわ」


 二日連続で長話をした勇者と純菜は、普段こんなに喋ら無いから疲労困憊。ただ、疲れている割には気分晴れ晴れって顔だ。


「状態異常回復のポーションあるけど飲む?」

「何味?」

「別に味は想像して無いけど……甘くしよっか?」

「それぐらいこっちでやってみるわ。他人の夢に介入出来るかの実験になるし」


 勇者が良かれと思って出したポーションは、純菜は鑑定してから味変。その事に勇者は気付いていたけど、自分でも同じ事をしたと思うのでとがめはしない。

 それから純菜が美味しそうに飲む姿を見ていたら、純菜はポーションを勇者に渡そうとした。


「梨味にしてみた。美味しいよ?」

「う、うん……」

「……あっ! そうよね。新しい方がいいよね!」


 でも、間接キスになるから勇者は受け取らず。純菜も気付いたからには顔を赤くして、複製したポーションを手渡した。もちろん勇者も鑑定してから飲む。


「美味しいけど……状態異常は治ったのかな?」

「多分……でも、気分の問題かも知れ無いから、怪我を治してみない?」

「その場合は……うん。ナイフ仕舞おっか?」

「先っちょだけ。先っちょだけプスッとするだけだから」

「言い方が狼さんになってるよ?」


 笑顔の純菜がナイフ片手に迫るので、勇者は実はムッツリなんじゃ無いかと非難して羞恥心を引き出し、ナイフ実験は止めるのであった。

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