05 堀口純菜2
学校に登校した純菜は息を殺して授業を受け、二時間目、三時間目と時間が過ぎる。休み時間には決まって女子から聞こえる声で純菜の悪口を言われていたが、泣きそうな演技をしてやり過ごす。
聞こえていない振りでもいいのだが、それは60点の演技。ダメージを受けていないと感じたイジメっ子は物理的にダメージを与えた事もあるから、純菜は泣きそうな演技をして83点を付けているのだ。
お昼の時間になると、純菜は鞄を抱えてコソコソと退室。急ぎ足で職員室から丸見えの花壇まで来たら、ハンカチをブロックの上に敷いてお弁当を食べる。
昔はトイレの個室を使った事もあるが、バレた時に上から水を掛けられた事やトイレ飯を
お弁当を食べ終えた純菜は特にやる事も無いので教科書を読む。小説や漫画なんて持って来よう物なら汚されたり破られたりするから、教科書ぐらいしか暇潰しアイテムが無い。
今の所まだ教科書等は無事なので、読み易い。中学のイジメの経験から全てスマホで写真に撮ってあるから、落書きされても勉強には支障が出無いようになっている。
それでも母親に見られたら困るから、汚されないように出来るだけ持ち歩くようにしているのだ。
時間が来ると重たい腰を上げて教室へ。途中、職員用のトイレに寄って用を済ませる。その時、誰か入って来たが、個室の閉まる音を聞いてから逃げるようにトイレを出た。
そうしてクラスに戻って席を確認すると、机の上にはパンの袋が散乱していたのでどうしようかと考える。
「ププッ……ゴミにはゴミがお似合いね」
「「「クスクス……」」」
犯人はクラスでヒエラルキーの上にいる女子グループ。ここで怒ったり慣れたように片付けると怒りを誘うので、悲壮感を出す方が無難だ。
そのまま立ち尽くしていると、教師が入って来たので女子グループは知らん顔をして前を向いた。
「まだ片付けてないの? 早く片付けなさい」
明らかに雰囲気が可笑しいのに、それを無視する教師。純菜は一瞬だけ教師に暗い目を向け、手持ちのゴミ袋にパンの袋等を入れて鞄に押し込んでから座る。
少しハプニングはあったが、大した事は起きずに放課後になったので、急いで教室を出る純菜。朝とは違い急ぎ足で歩き、女子グループが追って来ない事を祈る。
そのままマンションが近付くと辺りを確認してから入り、家に入ってドアを閉めた瞬間に大きな溜め息が出てしまった。
とりあえず自室に入って部屋着に着替えた純菜は、しばらくスマホを
起こすように頼まれていたが、あまり早過ぎると友達が居ないとバレる。それに晴美は疲れているだろうから、ギリギリまで寝かせてあげようとの配慮もあるみたいだ。
なんとか目覚めた晴美は、しばらくボーッとしてから服を着てスーパーへ。純菜も誘われたが、クラスメイトと鉢合わせをしたら嫌なので断っていた。
お米を洗って炊飯器のスイッチを押したら、純菜は少女漫画を読み
会話の少ない晩御飯を終えたら、晴美を仕事に送り出して洗い物やお風呂。今度はラノベの好きなシーンを読んでから、ベッドに入るのであった……
「死ね! 死ね死ね死ね死ね! キャハハハハ」
教室で行われる血の宴。女子グループが教室中に溢れる血の海に浸り、最後の一人、グループのリーダーである榎本絵梨香は、セーラー服姿の純菜が馬乗りになってナイフで滅多刺しにされていた。
「あぁ~……スッキリした」
女子グループ全員が息絶えた所で、純菜はぬるりと立ち上がった。
この惨状は、勿論、夢の中。純菜は明晰夢の使い手なのだ。
先も述べた通り、純菜はイジメ被害者。眠る時に辛い気持ちを吹き飛ばそうと楽しいシチュエーションを考え続けていたら、次第に夢を操れるようになったのだ。
今回の夢は、学校で女子グループに馬鹿にされたから仕返しで、全員を猟奇的に殺すシチュエーションにしたらしい。
「でも、この夢は何度もやってるから効率的になって来たわね。すぐ終わっちゃった。まだまだ朝にならないし、次はお姫様物にしよっと」
気分を変えて、シチュエーションもチェンジ。純菜が目を閉じて再び開いた時には、血の海だった景色がメルヘンチックなお城の長い渡り廊下に変わる。
服装もそれに見合って綺麗なドレス。髪の毛も金髪縦ロールになっているから、姫と言うより悪役令嬢に近い。先程の夢が尾を引いて、悪役が残っているのかも知れ無い。
「姫、私の愛を受け取ってください」
「私の愛こそ本物。誰にも負けません」
「ごめんなさい。どちらも愛しているから選べないわ」
本日二本目の夢は、金髪美男子の王子様二人が、姫役の純菜を取り合う夢。どちらも歯の浮くような愛の言葉を送り、純菜はニマニマしながら争わせる。
愛の言葉を堪能したら、次は決闘。花が綺麗に咲き誇る庭園に移動して、純菜は止める気も無いのに「自分の為に争わないで」と言いながら二人を応援する。
その剣戟を楽しみ、そろそろ決着してハッピーエンドと、その先のアダルトな展開に移行しようとしていたら……
「オラァ!!」
「え??」
と、このシチュエーションに到底似付かわしく無い、リーゼント頭のヤンキーが乱入して王子様を殴り飛ばすのであった。
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